第6話 米ミリタリー対タリバン


第二章 「知られざるシリア」


 シリア、アレッポからパミール高原を縦断し、シリア海岸に出る。

海岸の向こうにはキプロス島がトルコ沿岸に比例していて東西に延びる地中海、果てはエーゲ海、その西南にはマルタ島が浮かんでいた。

 スカー・キングダム軍曹を先頭に男女混合の米軍30余名が行進している。

夜明け前のパミール高原の東空は薄紫色に染まり、軈ては白々とした夜明けに移ろいシリア海岸にも朝日が差し込む。

 そんな朝を迎えようとしているエミリー・ファイナルは、余所見をしていた。

何故なら一縷のメールがエミリーのスマホに着信したからだ。

 彼女が辺りをキョロキョロしていた刹那、遥かキプロス島の手前の白いプレジャーボートが、キラリ!と銃口の黒光りを放つ光景を列の真中に居るエミリーの眼に入った!

「レディ!」短くハッキリと軍曹にも届く声だった!

 ロケットランチャーはジープに置いて来た。ある意味で後悔していた。

「ストップオール!」スカーは左腕を掲げ全員の行進をを制した。

  スカーがキプロス方面を睨み右膝を着き銃を構えトリガーに指を掛けた! 

 刹那、「コンバット!」勇ましい怒号がシリア海岸を駆け抜けた!

スカー・キングダム軍曹が咄嗟に叫ぶと、全員銃をキプロス方面へ構えトリガーを引く! 

パンパン! パパン! ブォー! ドドドドドッ! ドドド! ドドドドッ! ブォー! 

 応戦も空しくソリントガンがけたたましく漆黒の弾丸を12000発以上放った! 

容赦なかった・・・。

 200m先のジープは蜂の巣の様だった。流れ弾がエミリーのロケットランチャーを刺激して発射し、行く宛てが無く空中で爆発していた。

 僅か14秒足らずで 30余名の部隊は全滅した。

プレジャーボートがユックリとシリア海岸に近付きタリバンが上陸する。

「ファッキングアメリカ!」右足で顔を蹴られたスカー・キングダムは、仰向けに倒れたが、銃を構えたまま絶命していた。死後硬直していた。

 タリバンの一人遊軍班長は、弾丸が貫通したスカーの左目に人差し指を突っ込んで眼窩低をベキベキと壊していた・・・。

 その光景を発見したタリバンの隊長が小銃を構えトリガーを弾いた! 

パーーン! ニヤけた班長の頭部を撃った! 頭蓋が粉々に破壊された班長は無言でその場に倒れた。

 ガバナンスの為の見せしめだった。

米国大統領がアメリカへ撤退を決行したのは、この小競合いがあって3週間後だった。

 愛しているわイチルサワトビ。

エミリーのスマートホンに残った打ち掛けのメールが米軍上層部ではかなり問題になっていた。

 日本人がタリバンを手引きした? 

エミリーのスマートホンを発見した黒人衛生兵のカート・ラッセルが、憶測で日本人の罪を誇大妄想したからだった。

 そして米軍が総力を挙げて日本人を突き止めた!

正面玄関の自動ドアの鴨居に頭が当たりそうなカルロ・ニンザーの身長は195センチは、ある。

 広い肩幅の黒い下士官用、ブレザージャケットは部厚い胸囲がそうさせたのか、ダブルの上ボタンを外してそれでも窮屈な着心地だと歩くときに肩を前後に揺らし、ジャケットの調整をする癖が着いていた。

「イチルサワ!」と両手を広げて受け付けの女性に佐和鳶一縷を出してくれと言っていた。

前情報で来院を知る事が出来ていたので、一縷の呼び出しはスムーズに行われていた。

 短気なニンザーがイライラしてアメリカ人特有の毒舌を吐かずに済んだ。

方や一縷は長身だが、カルロ・ニンザーと並んだら大人と子供の様な身長差があった。

 勲章が四つ以上も有って着ける場所に困る黒いダブルのブレザージャケットだった。

「イチルザワ、キミを米軍法規により逮捕しなければ為らない。」

 カルロ・ニンザー駐日大使が医療センターへ出向いたのは、どの様な佇まいの人が背景に居たのか?調査する為だった。

 対象者の年齢は、48歳の日本人・・・。

もう20歳若ければ逮捕していた。

 タリバンとは、パシュトー語で神学生・求道者の意味だったからだ!しかし、イチルは、国家資格の理学療法士を持っていた。

 タリバンの多くはアッラーの道を求める原理主義者で学生でも世直しを唱えるシャリーアの厳格な施行者だったが、彼は国家転覆を狙わず一途に国家資格を取得していた。

 タリバンのエビデンスは覆された。

カルロ・ニンザー駐日大使が帰国した後、岐阜県の医療関係者は噂の持ちきりでゴシップの的にされたのは、一縷だった。

「会いたい、寂しい。」と、言っても会いに来てくれず、私を放置したのはエミリーとか・・・。 若いヤンキー娘と浮気してたのね。

 私は、2人の男性からカミングアウトされたわ!だから別れますサヨナラ。

女のプライド、待ち草臥れた将来設計・・・。そこはかとなく苛立っていた。

 降り頻る銀杏葉の銀杏並木には木枯しが巻き付き一本の銀杏の木を舐めては次の木と、木と木を舐めては渡り歩き、冬の到来の道造りをしていた。

 足早に去って行く直美に寂しい思いをさせて済まなかったと、心に思う。

ST(スピーチセラピスト)のリハビリの時間が終わってPT(フィジカルセラピスト)のリハビリに移行した。

「今日は骨盤のビスの抜釘が有るね。ジョン?」

恋音は、熱狂的なファンの銃弾に倒れたジョン・レノンが所属していたイギリス出身のグループ、ビートルズのファンだった直美が、別れた夫と名付けた名前だった。

 一縷もビートルズのファンだったがファーストネームのジョンと呼んだら、しっくり行ったのでこれからニックネームはジョンと呼ぼうと二人で決めていた。

 恋音のリハビリ前のアプローチを施しながら何でエミリーは僕を愛したのか?

腑に落ちない事実をあれこれと考えていた。

 エミリーと知り合ったのは半年前のSNSでだ。

それ以外何も無い。

 本当に悲しませた事は、無いし神に誓って直美に嘘はついていない。

どう考えても分からなかった一縷は、一晩中反省仕切りだった。

 ナオと話して無い時間、ナオと笑い合って無い時間、ナオとリアルに会って無い時間。

会いたいと言っていたナオの話を聞いてやれなかったし、ナーバスだったナオの気持ちを汲んで遣れなかった・・・。

 何も僕は直美を悲しませたい訳では無く単純にナ直美を愛していたんだ。

だから早く仕事を終わらせてリハビリ患者から開放されようとすればするほど、瑕疵が見付かった!

 本当に泣けて来る。仕事に集中すると周りが見えなくなる。

瑕疵を修正してやれないとリハビリ患者は社会復帰した時に間違った歩容で歩く事になる・・・。

 だから!

反省して居ます。

 ナオに愛して居るから反省して居ると、言えるのは僕だけなんだと自負しているよ? 

その自負を裏切らない様に死ぬまでナオを愛し続けるよ。

 本当さ、神に誓う!

ジョンとは昨日話した。

 だから返事が無いラインに打ち続けた。

ジョンとはお互いに信じ合える友達になったよ。ナオが安心してくれる事を願う。

 ジョンの事は僕が、責任持って成長を見守る!

だから直美、僕の愛を受け止めて欲しいんだ!

 しかし、エミーは一度だけ一縷に助けを求めた事がある。

「コワイ、タスケテイチルザワ。コロサレル!タリバンニ。」それがどういう意味なのかは分からなかった。

 そして、死んだ・・・。

最恐最悪のタリバーンは、我々のパイプラインを破壊し、石油を奪って売却して膨大な利益を上げた。

 その利益で某国から最新軍事兵器を購入し、我々に対抗する。

抗う。

 我々も手を焼いている。

いつか来たカルロ・ニンザー駐日大使が言っていた。

 「米軍の一部に不届き者がいて、タリバンが某国から稼いだ金を狙ってタリバンを奇襲し、数百万ドルの入ったジュラルミンケースを奪うのだ。」

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