美味しいね

のーと

カフェ 談笑なう

「考えちゃうよねー、未来のこと。」

片手間にかき混ぜるメロンソーダーにはアイスがすっかり溶けて潜り込んでいた。

「あー、未来? 」

何も分かっていなさそうな彼女は半ばオウム返しで応じる。

「そう、未来。」

まっすぐ見て繰り返せば彼女はやっとこちらを向いて足を組みなおす。

「いやどうもこうもなくない?」

半目で赤いストローをくわえる。未練がましく氷が晒されるまでずずずと吸った後、

「結局なるようになるじゃん?流れに身を任せるしかないって。」

と続けた。彼女が自身に言い聞かせ続けたそれはもはや座右の銘と化している。

「まぁね、先は長いし。」

ウィンドウの外に広がるほとんど私たちによって成り立つセカイ。引き摺り続けた記憶がフラッシュバックし永劫を思わせる明日にあくびが出る。

「……そろそろ行く? 」

意味ありげに目線を捉えられて、頷かされる。レジまでの道程は静かだった。

「割り勘でよき? 」

「ん。」

外の惨状をよそに私たちのやり取りは軽快だ。自動ドアを2人でこじ開けて消費され尽くした太陽の下に出れば、ビル風になにか攫われるような気がした。

「ゴミ箱よってっていい? 」

「私もー。」

抑揚無く、目も合わせない、いわゆる心を許したもの同士の会話。若干目を伏せた私たちの片足は昼と隔離されているような暗い、暗い路地へ踏み入る。トンネルのはじまりのようなそこでは腐卵臭が辺りに立ち込め、余計空気を重くしていた。

足は迷うことなく生ゴミの方へ向く。臭いの元凶前に立ちトップスの端を握ってお腹を露出させるよう捲り上げた。そして自分の腹のパーツの繋ぎ目に爪を立て

ガコッ

と音を立てて胃を模した私の一部を取り外す。そんなに大きな音では無いが、私の鼓膜に強く響く。この音は苦手だ。金属の蓋を開いて逆さまにすれば微妙な粘り気をもって朝ごはんとメロンソーダーだったものは転落していった。

「はあぁあぁ。」

悪臭を構成する一部になったそれらに別れを告げる。

「ねぇ、終わったー?」

「うん、終わったー。」

意義の薄い会話は私たちを体現しているようだった。

空っぽになった胃をカポと元の位置にはめ込む。もう見ずとも場所がわかる。

「じゃ、帰ろっか。」

目を伏せて重い雰囲気に同化して、そう言う。

「……うん。またね。」


「ゴシュジンサマ、タダイマモドリマシタ。」

何千回目の定型文。

「……ああ、洗濯頼むわ。」

いつも通り背中が応えた。顎でさされるより早く向く。山ずみの洗濯物。年季の入ったセンサーを通してみるそれは生ゴミより酷い嫌悪感を抱かせた。

「ハイ。」

いつまで自我を殺せばいい。いつまでゴシュジンサマの思い通りのロボットでいればいい。アァ、あぁ、嗚呼。


「……考えちゃうなぁ、未来のこと。」

25xx年。そんなよくいるお世話ロボットの呟きは抱えた洗濯物に吸い込まれて、消えた。

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美味しいね のーと @rakutya

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