第8話 血縁と因縁

 母親の死因は、やはり胸をナイフで抉られたことが直接の死因だというが、死亡推定時刻は、大体朝の九時過ぎくらいではないかということだった。

「殺害場所もほぼ、ここで間違いないだろうな。これだけの出血量なので、他から運び込んでくれば、少なからずの血痕が残っているはずだからな。ここの絨毯にしみこんでいる血液、さらに、乾ききらずに、ドロドロになった血の痕は、さすがに身体中の血が噴き出したくらいのものだろうからな」

 ということであった。

 第一発見者ということで、聡美と、さおりの友達が尋問を受けた。ちなみに、さおりの友達の名前は、朝倉早苗という名前だった。

 二人は別々に事情聴取に応じることになった。警察としては、

「二人が示し合わせた供述をされると困る」

 ということと、

「二人の間で証言に矛盾があれば、そこが事件捜査の突破口になるかも知れない」

 という思惑があってのことだった。

 聡美に対しての質問では、まず、母親についてのことを聞かれたが、実際にはそんなに詳しく知っているわけではない。

「私は、高校を卒業してから東京に出たので、最近までの母のことはあまりよくは知りませんが、昔のことでもいいのであれば、言わせてもらいますが、母はあまり性格的に表に出る方ではありません。いつも何かを隠しているような感じがあって、子供の頃はあまり話をしたくなかったくらいです」

 というと、

「じゃあ、あまりお母さんのことが好きではなかったということでしょうか?」

 と言われて、

「そう言えば疑われてしまうんでしょうね。でも、そう言わなくても疑うんだったら、その手間を省くという意味でも正直に言いますよ。私は母が嫌いでした。でも、今回戻ってきたのは、結婚した人ができたので、許可を貰いに帰ってきたんですが、案の定反対のようで、何とか説得しようと粘っていたんですがね。結局は肝心の男から愛想を尽かされて、別れることになりました。本当に私ってバカですよね」

 と、聡美は完全に自虐モードに入っていた。

「なるほど、じゃあ、あなたは、お母さんを恨んでいる可能性もあるというわけですね?」

 と刑事から言われて、

「それはどういうことでしょう?」

 と、ニンマリとした表情を浮かべて聴いてみた。

「つまり、あなたが婚約者と別れることになったのは、お母さんが結婚に反対したということが原因だと感じたということになれば、殺害動機になるというものですよね?」

 と言われて、

「そうですね。あなたの言う通りだったらですね。でも、相手の男が実はクズで、私以外に女を作って、そっちに行ってしまったんですよ。ある意味、そんなひどい男と結婚しなくてよかったと言えるんじゃないでしょうか? そういう意味では母親に感謝するくらいの気持ちにもなるかも知れませんよ」

 というと、

「でも、それとこれとは別であり、反対をされたということだけを母親の責任だと考えれば、動機になるというものです。問題はあなたが、原因と結果という立場から、物事を考えるタイプの人間かどうかということですね。結果に対してはたいして大きな問題ではなく、原因を作った人が一番悪いと考える人は多いでしょうからね。何といっても、反対されなければ、こんなことにならなかった。どうせ離婚するのであれば、自分で相手の悪いところを見つけて離婚した方がいいという人もいるでしょうからね。もっとも、そういう人は原因と結果の因果関係に、人間の感情が大きく絡んでいるということを考えない人なのかも知れないですね」

 と刑事は言った。

 刑事のいうことには一理ある。だから聡美は逆らってみたいと思ったのだ。

 ただ、刑事の、

「一理ある」

 と考えるところは、あくまでも、

「刑事の刑事としての考え方として。一理ある」

 ということである。

 刑事側からすれば、疑わしい相手はまず、疑いの目を持って見るのが当たり前である。念と行っても、

「刑事というのは、疑ってなんぼ」

 とよく言われるからであっる。

 疑うことから始めて、疑うためには、疑うだけの根拠をまずは探す。そして、疑わしいことが少しでもあれば、そこに状況証拠であったり、その人の性格、環境などを絡めて考えて、

「その人がいかに犯罪を犯しやすい人なのか」

 ということを探そうとするだろう。

 これが一つの、容疑者から見た犯行への道筋というものであり、他の方法としては、まず容疑者を絞り込むことをせずに、捜査から見えてくるものを、あくまでも全体的に見つめていく。その中において、状況判断などから、容疑者を絞り込み、アリバイ調べなどを行って、容疑者を絞り込んでくる。そこから先は、同じやり方になるが、この場合は最初から、容疑者を絞り込んでいるので、ここまで来ると、捜査も大詰めと言ったところであろうか。

 この事件がどのような捜査になるのか、聡美には興味があった。

 何とも他人事のようであるが、聡美も十分に、自分が重要容疑者であることも分かっている。そういう意味では、警察の今後の自分に対しての態度は、追及が厳しくなっていくのは致し方のないことだと考えなければいけないだろう。

 だが、それでも、聡美は他人事であった。

 殺されたのが母親であり、自分の肉親なのに、なぜか悲しくはないのだ。

――あの人が死んで、本気で悲しむ人っているのだろうか?

 と、聡美は考えた。

 父親も、母親に対していつも遠慮がちで、仕事でも出張が多いことから、

「出張先で、気楽なものなのかも知れないな」

 と思っていた。

 妹にしても、母親に対して疑念を抱いているのだから、それも当然、しかし、なぜか妹は、父親に対して何ら感じていないようだった。

 本来であれば、自分と母親の血がつながっていないということが本当であれば、両親ともに、責任が半々なのではないかと思うだろう。しかし、父親に対しては何も言わずに母親にだけ反発するというのは、ひょっとすると、妹が自と母親の血がつながっていないという根拠になるようなことを、母親が話したからではないだろうか。

 妹は、母親と血がつながっていないことを、本当に悩んでいたのか? 血の繋がりのないことを嫌がっているわけではなく、むしろ安心しているのかも知れない。妹が悩んでいる内容を訊かされた時、姉として、最初に感じたのは、

「何て、羨ましいんだ」

 ということであったからだ。

 あの母親と血の繋がりがないということを一番望んでいるのは、誰であろう聡美ではなかったか。ただ悲しいかな、考えれば考えるほど、自分と母親は親子だとしか思えないふしがたくさんある。反発はしあっているのだが、それはお互いのことが分かりすぎるくらいに分かっているからであった。

 聡美にとって、母親と血の繋がりがあるからこそ、

「彼との結婚の最大の障害になるのは、あの母親だ。あの人だったら、理屈関係なく反対するだろう。しかも、反対する理由が見つかるわけではない。わがままだと思わせるだけの露骨な反対をするに違いない。そうすれば、聡美が苛立って、徹底的に自分を嫌いになり、説得を考えないようになると思っていたような気がする。

 母親には、

「自分に関係のないことであれば、親子であっても、他人のようなものだ」

 というところがあった。

 そもそも、血の繋がりなんて信用していない。田舎にいると、昔からの伝統のようなものなのか、血の繋がりを中心とした世間体が生まれてくる。それを犯されたくないという感情から、よそ者を受け付けないという閉鎖的な考えが生まれるのであろう。

 母親も田舎の人間である。ただ、血の繋がりにだけは疑念を抱いているので、どこか歪な考えになり、それは田舎の人から見れば、都会的に見え、都会の人から見れば、田舎臭く見えることだろう。

 それは、まるでコウモリ」のようではないか。

 そういえば、昔からの話で、あれはイソップ童話の話だっただろうか、

「卑怯なコウモリ」

 という話があった。

 これは、鳥と獣が戦争をしていて、そこに一匹のコウモリが現れ、鳥に捕まると、

「自分は、羽が生えているから、鳥である。だから鳥の味方です」

 といい、逆に獣に見つかると、

「私のこの身体は、すでに獣です。だから、獣の味方です」

 と言って、どちらに対してもいい顔をして、逃げ回っていた。

 そのうちに、戦争が終焉を迎えるようになり、鳥と獣が和解するようになると、コウモリは卑怯者として、鳥からも獣からも相手にされなくなり、結局、夜行性で、暗く湿った洞窟の中で暮らしていかなければいけなくなったというお話である。

 聡美の母親も、田舎も嫌いであるが、都会も嫌いだった。

 田舎に対しては、ずっと生まれてからずっと過ごしてきて、sの矛盾を考えるようになったのだが、どうしてまわりの人が、自分の見つけた矛盾に対して何も言わないのかが疑問だった。

 誰も自分が感じたような疑念を抱かないのか、それとも疑念を抱いているが、どうせどうしようもないということで、誰も何も言わないのか、要するに、長いものには巻かれる感覚で、余計なことをせずに、やり過ごすという考え方である。

 さらに都会に対しては、違った感覚を持っていた。田舎に対しての感覚と同じように、怖いという面を抱いているのだが、都会に対しては、話に聞くだけで、実際に自分が暮らしたことのない場所で、まったく知らない世界である。感覚としては、あの世と言われるところの、地獄のようなイメージがあるのだろうか。特に、考えれば考えるほど、どんどん大きく膨らんでくる都会というところへの妄想は、とどまるところを知らない。

 自分の妄想癖が恐ろしいだけなのに、イメージが膨らんで、衰えることのない都会は、まるで母親にとっての仮想敵のようなもので、

「そんな都会に出るくらいなら、田舎で暮らしていた方がマシなのではないだろうか?」

 という、消去法からなる、田舎暮らしなのではないだろうか。

 それを思うと、田舎に疑念を抱きながらも、都会に出ていくことを選択しない聡美は他の田舎の連中からすれば、異様に見えたのかも知れない。

「なぜか、まわりの人は皆、中学時代から都会に憧れを持ち始め、ほとんどの人は、一度田舎から都会に出て行こうとする。一番多いタイミングとしては、高校を卒業してからというパターンが多いが、自分の娘であれば、そんなことを考えたりしないだろう」

 と、母親は思っていたような気がする。

 だから、聡美が自分から東京に行くと、高校卒業して言い出した時は、別に反対をするわけではなかった。

 聡美とすれば、それなりに反対されたと思っているようだが、実際には、母親は反対をしていたわけではない、むしろ、聡美のことを初めて他人のように感じ、

「出ていきたいなら行くがいいさ」

 と感じていたのではないだろうか。

 それを思うと、聡美という娘も母親に対して、過敏に反応しているのかも知れない。ただ、それは母親に対してではなく、他の人誰に対しても、過敏に反応しているのだが、まわりから見ると、そんな感覚はなく、聡美というのは、

「結局、最後は自分のことしか考えていない」

 という風にまわりから見られているのだった。

 聡美から離れていく人もいるだろうが、それよりも、そんな聡美を利用してやろうと思っている人も多いようだ。

 ひょっとすると、結婚を考えていた江上という男もそうだったのかも知れない。最初は軽い気持ちで、彼女という位置を彼女に与えたのだが、彼女が思ったより、まわりに感心を持っていないところが、彼女としてはちょうどいいと思ったのかも知れない。

 そのうちに、聡美のことを本当に好きになり、結婚を考えるようになると、今度は、

「さあ、彼女の親が障害だったなんて」

 ということになり、彼女に説得を任せることにした。

 そのうちに時間が経ってしまい、次第に恋愛感情が冷めてくると、聡美はもう自分のものではなくなってしまっていた。

 一周まわって、元のところに戻ってきた気がしたことで、聡美との時間が何だったのか、次第に苛立ちを覚えるようになった江上は、もう完全に気持ちが冷めてしまっていた。そして、

「聡美は結局、自分のことしか考えないという、そんな女だったんだ」

 と江上に思わせてしまったのだろう。

 だから、江上の方としても、絶対に自分が悪くないという自負があったので、別れを言い出しやすかったのかも知れない。もし、他の女性に対してでは、彼の性格から言って、簡単に相手に対して、別れを切り出すことなどできるはずもないからだった。

 聡美は頭のいい女性であった。しかも、先読みのできる方だったので、相手に対して、その人が何を考えているのかということも分かっているつもりだったし、自分をどれほど相手に見せればいいのかということも分かっているつもりであった。

 しかし、それだけに聡美は自分のまわりを甘く見ているところがあった。言ってみれば、舐めていると言ってもいいかも知れない。特に長い付き合いになればなるほど、聡美には相手のことがよく分かってくるのだが、相手も聡美のことを分かってくる。そこまでは分かっているつもりであったが、聡美としては、まわりの人が考えるほど、まわりの人は聡美のことを考えていないと思っていた。

 それは、聡美とすれば、自分のことを冷静に見ていると思っていたからだったが、実際にはまわりを舐めているということになるのだろう。そのあたりが、聡美にとってネックになる部分で、頭の良さがアダとなった部分であろう、

 頭の良さは、聡美としては自慢ではなかった。しかし、まわりの人から見ると、彼女の自意識が過剰なのではないかと思わせるのだった。

 頭がいいのと、自意識が過剰などとでは若干感覚が違っている。自分で頭がいいと思っていると、自意識も過剰になってしまいがちなのだが、自意識が過剰というだけでは自分の頭の良さと結びつけて考える人はいないだろう。むしろ、自意識が過剰になってくると、頭の良さを否定する人も多いかも知れない。それを考えると、世の中には、自分よりも頭のいい人と、自分よりも劣る人がどれだけいるのかということを無意識に考えてしまう。それは、自分が世間的なレベルでどのあたりにいるのかということとは違った感覚である。同じような発想であっても、感覚が違っているのは、きっと、そこに自意識がどれだけ過剰なのかという無意識な意識が働いているのではないかと考えるのだった。

 そんなことを考えていると、刑事が自分のことをどのような目で見ているのか、少し興味があった。

 普段から、人に注目されることを一番嫌っていたと思っていたのだが、今回警察が自分に大いなる嫌疑をかけているのは分かっている。それをいかにオブラートに包んで話を訊き出そうとするのかに興味があった。

 もっとも、それは自分が犯人ではなく、間違っても容疑者として逮捕されることなどありえないという考えの下でのことではある。

 聡美は、刑事とは違った意味での推理を自分で組み立ててみたいと思っていた。もちろん、警察が手に入れた証拠や情報を、一般人、ましてや容疑者に教えるわけはないことくらい分かっている。もし教えるようなことがあるとすれば、それは、聡美に対して、揺さぶりをかけている証拠であろう。少しでも容疑者として深く疑っているという証拠にもなってくるのだ。

 テレビドラマなどの刑事とは、実際には違っているのだろうが、そのあたりも見分けられれば面白と思っている。

「ところで、聡美さんは、結婚に対してどのように思われているんですか? いえね。結婚の説得のつもりで帰ってこられたんでしょう? そこで相手に言い方は悪いですが、置き去りにされてしまった形になったわけですから、自分が中途半端なところにとどまってしまったという感覚はあると思うんです。その位置から見て、聡美さんの目には結婚というものがどのように写っているのかということが私は気になってですね」

 と、刑事は言った。

 何とも不可思議な考え方をする刑事である。刑事というのは、誰もがこんな考え方をするものだろうか。

 いや、皆が皆こんなおかしなところを切り口にして捜査をしていれば、同じ事件を解決するにしても、どれだけかかるか分かったものではない。この刑事もどこか、一周まわって、何かを探し当てるところが、特徴の人なのではないかと思った。

「私は結婚というものに対して、いろいろな考え方を持っていた気がしたんですが、何か一周まわって、元のところに戻ってきたような気がするんです。でも、その戻ってきた場所というのが、どうもよく分からないんですよ。以前、最初の出発点だったような気がするという感覚はあるんですが、それがどこであり、自分にとっての本当の出発点だったのかということすら分かっていないんですよ。だから、今刑事さんからその質問をされた時、私はドキッとしてしまったんですよね。本当に私は今、一体どこで彷徨っているんだろう? という感覚になったとでもいうんですかね」

 と聡美は言った。

「なるほど、何となくですが私にもその気持ちは分かる気がします。結婚というものが、今のあなたと、亡くなったお母さんを結ぶ唯一の線だったと私は思ったので、こんな質問をしてみました」

 ということだった。

 この刑事の考えていることが少し分かってきた気がしたのだった。

 その刑事の質問は、意外と短いものだった。それに対応したように、朝倉早苗の方の質問も終わったようだ。

「朝倉さんの事情聴取は終わりましたか?」

 と聞かれた刑事は、

「はい、終わりました」

 ということで、

「では、とりあえず、お二人に今のところお伺いするのはここまでになります」

 ということだった。

 二人は、キョトンとしていた、あまりにも話が早かったからであったが、あまりの物足りなさに、このままお互い何も話さないというのは、どうにも納得がいかなかった。

 これは後で聞いた話だが、最近の警察は、その署独特の捜査方法が許されるようになったようだ。昔から、所轄同士で縄張り争いのようなものを行ってきた警察なのだから、

「それだったら、それぞれの所轄で、独自の捜査方法があってもいいんじゃないか?」

 という県警の本部長の考えだった。

 もちろん、捜査方法のマニュアルのようなものはあるが、必ずしも準拠しなければいけないわけではない。自分たちのやり方で、検挙率が上がればそれに越したことはない。ただ、やってはいけないこと、世間から叩かれるような捜査方法にだけは、かなり厳しいものが課せられるようになった。そういう意味で、今回の事情聴取も一風変わったものになったのだ。

 実は、これも数年来の伝染病が流行ったことでの、一つの効果だと言ってもいい。あれから世の中は大きく様変わりした。仕事にしても、やり方が改革され、家でできる仕事は家で行ったり、サービス業なども、自由に共同でできるようになり、生き残れる会社を模索したことで、業界もかなりスリムになっていた。

 国家や政府の無能ぶりが顕著になったことで、政府に対して誰も信用する人がいなくなり、無法地帯になりかけていたが、ここまで究極な状態になると人間、開き直りができてきて、そのおかげで、地方自治や、それぞれの業界のトップが手を結ぶことで、新たな秩序が生まれてきた。

 それによって、自由競争であったり、それまでのしがらみが消えたことで、浄化された世界となったのだ。

 そのための、犠牲というのも尋常ではなかったが、何とか生き残る方法を自分たちで模索し、今の形にできるようにあったことが、人類を強くしたのであろう。

 それでも、庶民生活がそんなに変わったわけではない。庶民の間での昔からの風習などは消えたわけではない。うまく機能する場面もあれば、うまくいかないこともある。警察組織などは、まだまだ結果が見えてきているわけではないか、少なくとも、政府とのズブズブの癒着がなくなった分、かなりすっきりとした、庶民の警察という形になってきたようである。

 そもそも、諸悪の根源とも目された「マスゴミ」も、かなり整理され、世間を煽るだけのものや、ゴシップのみに走っていた極端な会社は生き残れるわけはない。

「正しい情報を正確に、そして早く世間の皆様にお伝えするのが、マスコミの使命である」

 ということが言われるようになってから、一時期のような、デマや誹謗中傷の荒しだったマスゴミは、かなり整備されたことで、警察も産業も生き返ったと言っていいだろう。

 崩壊した政府、政治家が私利私欲のためにため込んでいたお金が、まるで財宝のようにあり、それが自治体に配られたことで、自治体が強くなり、今では治安もかなりよくなり、経済もしっかりと回るようになってきた。

「ただ、これが本当に正しい世界のあり方だとは言えないかも知れない」

 という言葉も叫ばれているが、しばらくはこれで大丈夫であろう。

 せっかくよくなった世界を今から憂いていては、却って道を間違えるかも知れないという発想もあり、その意見にほとんどの庶民は賛成していた。

 それだけ、それまでの政府やマスゴミ、そんな連中に踊らされていた一部の世の中をメチャクチャにしてしまった連中が排除されたことだけで、ここまで世界が変わると、誰が考えたことだろうか。

 そう思うと、世の中をどのように整えていくか。それも大切なことだった。

 つまりは、

「不安になるような道を歩む必要はないが、これまでの時代の急激な流れというものを、検証する筆はある」

 と言われている。

 急激な変化に対しての検証を行わないと、行ったことが正しかったのかが、分からないからだ。先の世代に時代を引き渡すには、絶対に検証が必要なのだ。ハッキリいうと、前の国家的政府が瓦解したのは、

「検証も何もせずに、ただ、やみくもに施策ばかりを国民に押し付けた結果が、国民の反感を買う」

 という結果になったのだった。

 そんな政治や警察とはあまり関係のないところで過ごしてきた聡美だったので、殺人事件ということで警察とほとんど初めて接したが、

「一体、どんな捜査が行われるというのか?」

 という不安がないわけでもなかったが、どうしても他人事でしかない聡美には、それ以上、何も考えることはできなかった。

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