第5話 死体発見

 一体何がどうなってしまったのか、彼のいきなりの別れの切り出し。聡美としては、

せっかく上った梯子を外されたため、屋上に取り残されたという感覚になってしまったに違いない。

 そこには誰も助けにくる人はいない。むしろ、そんなところに人がいるなどということを誰が想像するというのか、そこに人がいるということは、その人にとっての自殺行為であり、誰もするはずのない行動を、敢えて自分からした人でなければ、その場所にいるわけはないということで、これが自分ではなく他人がその場所にいたとすれば、聡美は皆と同じように、

「そんなところにいるのが悪いのよ。自業自得だわ」

 と思ったことだろう。

 だったら、どうしてそんな場所に上ったのか。やはり、自分がもっとも苦手とする母親を説得しなければいけないということで、かなり自分の気持ちを捻じ曲げなければいけないという感情を持ったのは間違いない。そのために母親に対してというだけではなく、まわりの人間にも気を遣ってしまうというこれまでの聡美からは考えられないほど変わってしまわなければいけないだろう。

 だが、実際にはまわりから見ていて、聡美がそれほど変わったという感じに見受けられることはなかった。

 その一番の要因は、聡美自身がいい方に変われていると思っていたことが、まわりには、あまりいい方に変わっているようには映っていなかった。

 なぜなら、聡美の目的が最初からまわりに対しての性格を変えていたわけではなく、あくまでもターゲットは母親であり、母親に対して変えていくうちに、その連鎖反応のようなものとしての副産物が、まわりへの変化だったのだが、それは決していいことではなかったのだろう。

 だから、まわりは忖度し、まわりは悪い方にばかりに映る彼女を、

「本当に全部を受け入れてしまうと、性格が崩壊しているようにしか見えない」

 ということでの苦肉の策として、最低限の低下しか見ないことにしたからなのだろう。

 ただ、聡美はそんなこととは思ってもいないので、

「どうして、私の思いが通じないのか?」

 と、まわりに対して自分を見ている態度が想像していたこととあまりにも差があることで、信じられない気持ちになっている。

 そのため、まわりに対して、憎しみに近い目を向けているのだが、そんな視線だけはまわりに性格に伝わるもので、まわりからすれば、

「これでも贔屓目に見てあげているのに、それを仇で返すとはどういうことなのかしら?」

 と、誰も聡美の味方をする人などいるはずもないほどに、孤立してしまった。

 完全な自業自得である。

 自分の見積もりの甘さと、勘違いしていることにまったく気づいていないことで、せっかくまわりが贔屓目に見てくれていたのに、それすら分かろうともせず、自分で敵を作り出すという最悪のストーリーを、自分で勝手に作ってしまっていたのだ。

 もちろん、最初はアリの巣の穴ほどの小さなものだったに違いないのに、どこがこんな状態として作り出したというのか。聡美は自業自得であるなどということを、これっぽっちも感じていないことだろう。

 少しでも、自業自得だと分かっていれば救いはあったかも知れないが致命的な距離を作ってしまったことで、四面楚歌を迎えてしまったのは、決定的なことだった。

 だが、実際に彼に逢いに行くことはしなかった。

 逢ってしまって、最悪のシナリオを描いてしまうのが怖かったからで、そのためには自分がいかに、最悪の結果に対して覚悟ができているかということが分かってからでないと、会いに行く勇気はなかった。もしもうダメであっても、その現実に耐えられるだけの自分を作っていなければ無理なことであり、その状態を作り出すには、自分をどれだけ納得させられる人間になっているかということが重要であった。

 自分を納得させられさえすれば、少々のショックなことに耐えられる。ただ、そんな自分になるにはどこまで耐えられるかということが重要であった。

 聡美はだから、家から離れることをせずに、最初は何とか連絡が取れるようにとメールを送り続けていたが、次第にそれもなくなり、自分では膠着状態に持っていくことで、彼の気持ちが少しでも変わってくれたらと思ったのだ。

 それが何を意味しているのか、現実には分からなかったが、そう考えているうちに、次第に、聡美の中で、彼に対しての気持ちが冷めてきているようだったのだが、さすがにそこまでは気付いていないようだった。

 聡美が彼を連れて家にやってきてから、彼からの別れを告げるかのようなメールを受け取るまでの期間、最初こそ、自分中心の考えで凝り固まっていた聡美だった。

 見えているのは、自分と彼との将来だけで、そのための障害をなくすためだけに、ここにとどまっているという感覚で、妹のさおりのことなど眼中にはなかった。

 さおりの方としても、姉の性格は分かっているつもりだったので、彼しか見えていない状態での姉の姿を見ていると、

「どうせ、あの人は私なんか見ているわけはないんだ。ただ、一緒の家に暮らしている同居人というだけで、家を出ていく前の姉ではないんだ」

 と思っていたようである。

 さおりは、年齢的に十八歳になっていた。高校を昨年卒業したてで、今は地元の短大に通いながら、アルバイトをしていたりしていた。

 彼氏はいるようだったが、母親にも姉にも話をしていない。特に姉には知られたくないと思っていた。

 ただ、さすがにさおりも姉がずっと自分に対して、無視を決め込むことのできるタイプではないと分かっているので、そのうちに話しかけてくれるであろうことは分かっていた。

 その期間がどれくらいなのか分からなかったが、元々高校を卒業してから、家を出ていく前の姉というのは、妹から見ていて、

「決して嫌いな性格ではない」

 と思っていた。

 実際に、妹から見て、結構似たところがあり、共通点も多かった気がしたが。だからと言って、お互いの距離は必ず保っていて、近づきすぎず離れすぎない距離というものをお互いに分かっていたような気がした。

 その距離感にほとんど差がなかったことが、一緒に住んでいる頃に、お互いを嫌いになることのなかった理由だと思っている。

 だから、妹が姉を、姉が妹のことを嫌いだと感じることはなかった。会話が多かったわけではないが、それはお互いに相手の性格を考慮しているからで、お互いにあまり会話が好きな方ではなかったことが一番の理由だった。

 だが、二人が会話が嫌いだったという理由はそれぞれに違っていて、そのことを分かっていたのは姉の方で、妹はその時、まだよく分かっていなかった。今では分かるようになったが、それが、ある程度の年齢になれば分かってくることなのか、それとも、孤独を感じた人間でないと分かることができないものなのかのどちらかではないかと思っているのは妹の方である。

「私は、お姉さんの後を追いかけているという意識はあるんだけど、いつも同じ距離で後ろから追いかけていると思っているのに、時々近づきすぎることがあったと思っていたのよね。でも、そんな時、姉は決して後ろから自分が追いかけてきているなどと思っていなかったような気がする。それが姉の本当の性格だったのかも知れない」

 と感じた。

 つまり、一緒に住んでいる時も、姉は後ろを決して見ることはなかった。それは妹が後ろから追いかけてきているということを分かってのことなのかは分からないが、今思うこととして、

「後ろを振り返ることが怖い:

 と、思っていたのではないだろうか。

 それをさおりは考えていた。だが、今では前を歩いているのは、自分であり、姉が後ろにいるという意識はある。自分が姉と接していない時期だけ先に進んでしまって、いつの間にか、ここからいなくなってしまった時の姉の位置まで戻ってしまっているからだった。

 だが、それはさおりの勘違いであり、聡美は前を歩いていたはずなのに、この街に帰ってきたその時、一気に後ろに下がってしまったというだけのことだった。

 自分でもその状況が見えていたはずなのだが、姉が帰ってきたその時に、自分の中で意識が一瞬消えてしまい、瞬間的な記憶喪失に陥っていたのではないかと感じるのだった。

 そんな妹と初めて話をしたのは、聡美が帰ってきてから三か月が経った頃だっただろうか。聡美の方も何とか自分が田舎で暮らしていた時期のことを思い出してきたようだ。ただ、昔のことを思い出すということは、聡美が感じている感覚を少し歪めなければいけない感覚に陥っていたのだ。

 その一つが、時系列と自分の感覚の問題だった。

 時系列というのは、

「昨日よりも今日、今日よりも明日」

 という感覚で、毎日毎日が少なからず積み重ねられているという感覚である。

 逆に聡美の中では、そんな時系列への感覚がなくなってしまったら、その時点で次第に感覚の老化が始まってしまったということであって、過去のことを振り返ることが多く鳴ったり、今日一日何事もなく、平穏無事に過ごせればいいというだけの毎日になってしまうと思っている。

 それでも、老化が始まるまでにどれほど、自分が先に進んでいるかということが大切なのだろうと思っていた。少なくとも、まだ結婚もしていない状態なので、まだまだ人生は長いと思っている。家を出てから数年が経っているが、自分としては、まだそこまで経っていないように思えたのは、家に帰ってきて感じたことだった。

「もう、二度とこの家の敷居をまたぐことなどありえない」

 と思っていた聡美にとって、この家の敷居をまたぐということは、あってはならないことだったはずだ。

 それをいくら結婚のためとはいえ、アッサリと破ってしまった禁を聡美はどう考えているのか、

「それまで禁というのは破ってはいけないものであり、それまでいくつかあった禁も、一つを破ることで、そのすべての存在価値がまったく消えてなくなってしまうのではないか」

 と考えるようになっていたのだった。

 家に帰ってきて、最初の数か月は、懐かしさというよりも、初めてきた場所だと思うことにしていた。

「懐かしいなんて思ったら、自分の負けだ」

 と考えていたのである。

 つまりは、最初の数か月の聡美は、勝ち負けがすべての感情に優先していて、完全に臨戦態勢だった。

 そんな人に対して、まわりの人は冷静だった。相手が必要以上に前のめりでくると、まわりの人は完全に引いてしまう。それは意識してのことではなく、無意識の行動であり、引いてしまった自分を落ち着いている状態だという意識だけはあったのだ。

 だから、前のめりで、挑戦的な聡美に対して、まわりの人は、最初から余裕のある体勢でいたのだ。だからこそ、聡美が家にいても、ギクシャクした感じにはならず、聡美も居心地が悪かったわけではない。実にうまくいっていたと言ってもいいのだろうが、

「これが家族というものだ」

 と言っていいものかどうか、そこまでは誰にも分からなかった。

 それでも、最初の数か月を、実に無難に過ごせたことで、聡美は次第に冷静になってくると、自分の家に帰ってきたということを、その時になってやっと実感したようだ、

 それは、数年間のギャップを埋めるものであり、聡美の中では、家を出て行った時の翌日くらいの感覚になってしまったのだ。

 もちろん、彼との結婚を夢見るという気持ちに変わりはないが。そのことと、自分自身の感覚とは別のところにあるのだと思うと、実際のところ、矛盾した考えを抱いているのだと、自分でも感じた聡美だった。

 妹に対しての感覚も、自分が出て行った時は、まだ中学生になったばかりくらいだったと思っていたが、思春期をそのまま見ていなかったのであるから、この数年間で一番変わったのが誰かといえば、妹であることは歴然とした事実であった。

 ただ、それは肉体的な面とビジュアルの面でだけであって、実際に精神的なものがどれほど変わったのか、もっといえば、表面的なものと同等に変わっているのかどうかが気になるところだった。

 聡美の気持ちとしては。

「そこまで変わっていてほしくない」

 という思いがあり、その思いがどこから出てきているのかということを、自分で分かっているわけではなかった。

 ただ同い年の感覚であることから、そんな風に感じたのだろうという思いだったのだ。

 さおりと話をするようになってから、さおりが何かに悩んでいることが何となく分かってきた。強引に聞き出そうとしても、頑なになるだけだというのがさおりの性格だということが分かっているので、一気に話を訊くことはできなかった。

 そのため、少しずつ時間を摂るようにして気を遣うのだったが、さおりが悩んでいることをどうして姉の自分に言えないのかということがおぼろげながら、分かってきた、それは外枠が分かってきたという感覚で、内容は分からないが、何に対しての悩み伽賀分かってきたという意味である。

 どうしてそれを姉である自分に知られたくないかというと、その悩みの相手が母親だったからである。

 ただ、その悩みというのが、自分のような悩みとは違っていることは同じような悩みだったら、その内容が次第に分かってくるからであった。

 そのうちに、さおりの方から、

「お姉ちゃん、相談があるんだけど」

 と言ってきた。

 小学生の頃はよく相談してくれたさおりだったので、その頃のさおりが戻ってきたかのように錯覚に襲われた聡美だった。

「どうしたんだい?」

 と、まるで初めて気づいた様子で聴くと、さおりもその態度を意識することもなく、

「実は、お母さんのことなんだけど」

 と、いかにも深刻そうな顔で話しかけてくる。

 その様子を見て、自分が感じていた妹の悩みは、実は自分の想像以上なのではないかと思った。その表情には今まで言いたかったのだが、何度も思いとどまった後が見受けられ、もし涙を流したのであれば、その涙の痕まで見えてくるのではないかと感じるほどだったのだ。

 妹は続けた。

「実は、私、お母さんの本当の娘じゃないんじゃないかって思うようになってきたの。お姉ちゃんはどう思う?」

 というではないか。

 この悩みはさすがに想定外だった。

 母親とのやりとりや会話の中での悩みだと思っていたので、まさか、その外にある環境的なことであるとは思ってもいなかったので、その疑惑を訊いた時、

――聞かなければよかった―― 

とさえ思えたほどだった。「一体、ど、どういう根拠でそんな疑念が浮かんできたの?」

 と訊ねると、

「お姉ちゃんが東京に行ってからのことなんだけど、私が中学の頃、遠足に行った時のことなんだけど、その数日前に、そのあたりをゲリラ雷雨のようなものが襲ったらしいの、学校側は、ちょっと危ないカモ? っていうことで検討したらしいんだけど、危険はないという判断がなされて、予定通りに遠足にいくことになったのね。その時、現地でミニキャンプのようなことができる湖畔があるので、そこでミニキャンプをすることになったの。そこで、野外勉強も兼ねて、アウトドアの基礎的な体験をするようなことになっていて、みんなで松ぼっくりを探そうということになったのよね。お姉ちゃんは知っているかどうか分からないんだけど、松ぼっくりって、いわゆる天然の着火剤のようなものらしいのよ。それで、できるだけたくさんの松ぼっくりを探すということで班に分かれて捜索を行っていたんだけど、そこで、私たちの班は、一生懸命になりすぎて、立入禁止区間にまで入り込んでしまって、ちょうどそこが急な崖のようになっていて、檻からの豪雨で、山肌が緩くなっていたのね。そのために、私は崖を転げ落ちることになったのよ。その時、ちょうど落ちたところに枝の切れ端のようなものがあって、そこで腕を抉ってしまったの。それで急いで救急車で運ばれたんだけど、親にも大至急連絡が行って、お母さんが飛んできてくれたというの。ちょうど、私が簡易手術を行うということで、輸血が必要だったんだけど、その時、私は駆けつけてくれたお母さんが輸血してくれたと思い込んでいたんだけど、その時のことをこの間の同窓会で話題になって、誰かクラスメイトがその時を振り返って、輸血してくれたのがお母さんではないと口を滑らせたのね。皆一瞬、固まってしまったようだったけど、すぐに何事もなかったかのように話し始めたので、皆事なきを得たと安心したようだったんだけど、私はその時から、疑心暗鬼に襲われるようになったのよ」

 とさおりは言った。

「皆、顔色が変わったというのね? ということは、当時緘口令が敷かれていたことは確かなようね。でも、今回は飲み会の席だし、もうあれからかなり時間が経っているので、時効だと思ったのか、それとも酒の勢いで、口を滑らせたのかだね。ところで、その口を滑らせたその子の様子は?」

 と訊かれて、さおりは、

「別に何事もなかったかのように話していたわ」

 と答えた。

「じゃあ、その子が無神経だったということなのか、それとも、勘違いしていたということなのか、それでは分からないわね。どちらとも取れる気がするわね」

 と、聡美は言った。

「そうなのよ。だから、私も次第に気になってきてね。もしあの同窓会の時の、まわりが固まってしまったかのような状況さえ見なかったら、意識することもなかっただろうに、それを思うと、まわりも余計なことをしてくれたと思ったわ」

 と言って苦笑いをしていたが、それはすでに引きつった笑いと言ってもよかったであろう。

「お姉ちゃんはどう思う? もし私がお母さんの本当の娘ではないとすれば、お姉ちゃんとも血がつながっていないということになるのよ。実は私が嫌なのはお母さんが誰なのかということよりも、お姉ちゃんと血がつながっていないということの方が何倍もショックなのよ」

 とさおりは言った。

 そうであった。妹が母親の本当の娘ではないとすれば、自分とも血がつながっていないということを示している。それは、妹と母親の関係を他人事のように見ていた自分とは違う自分が出てくることになる前触れであった。

 そのことを考えると、何となく気になる点もあった。

 母親は自分に対しては必要以上に構うのに、妹に対しては結構自由であった、それは自分は長女だからだということで自分の中で納得はしていたが、もし妹の血がつながっているのだとすれば、聡美自身がここまで母親に対して反抗的な気持ちになるということもなかったような気がする。

 それを親子の間で考えるとすると、やはり自分と妹を見る母からの距離には、親子であればここまで離れていないと思える距離感に気づいていたのではないか?

 その思いが嵩じて、母親への反発となり、家出の原因になったのかも知れない。自分でも無意識のうちに家を出て、家族ではなくなってしまうという状態は、自分のまわりでも結構あり、

「親子だからこそ、他人には分からないわだかまりがある」

 という理屈なのであった。

 聡美は、さおりの考えていることに何と答えればいいのか分からなかった。

――待てよ?

 聡美は、今の状況とはまったく違うことで、自分と妹に血の繋がりのないという意識を、無意識のうちに感じていたのではないかと思うふしがあった。

 それは、

「いくら、家出をした後だと言っても、スナックで勤め始めた時、源氏名に妹の名前を使うなど、普通であればありえない。それよりも、妹の名前を使ってしまったことに対して、まったくの違和感がなかったことが、自分にとって不思議なことであるはずではないか?」

 と感じたが、さらに続いて、

「まわりの人から、さおりちゃんと呼ばれて、まったく違和感がなかったということに、まったく何も感じなかった自分が今から思えば怖い」

 とも感じたのだ。

 普通なら、自分が今まで呼んでいた、

「さおりちゃん」

 という言い方を、まわりから自分に向けてされるのである。

 他人であれば、別に意識することはないだろうが、さおりという名前が血を分けた妹だと思うと、そこに気持ち悪さのようなものがあって、しかるべきではないだろうか。

 それを思うと、聡美にとって、さおりという妹の存在が、離れて暮らすようになって、どんどん薄れていったのではないかと思えるのだった。

 家出をしたのだから、それも当然だと思っていたが、こうやって本人から疑惑を訊かされると、自分の中にも思い当たる部分が見つかるというのは、もし、妹に対して、

「お姉ちゃんはそんなことは思っていない」

 と言っても、分かってしまうのが、姉妹だと言われれば、血がつながっているのではないかとも思えるが、血の繋がりなどなくても、姉妹同様に暮らしてきたのだから、そっちの方が、聡美には重要だった。

「血がつながっていようが、いまいが、別に深く考えることではない」

 と思ってはいるが、それを悩んでいるという妹にぶつけることは絶対にできないと考えた聡美であった。

 どうやら妹も母親との血の繋がりについてというよりも、姉である聡美との血の繋がりについての方が気になっているようで、それはそれで姉としては嬉しいことであった。

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