第3話 心中死体発見
翌日になると、一番目覚めが早かったのは、男性客で、まだ時間は七時前だった。
「朝食はいらないので」
ということで、早めに目を覚まし、まだ文芸サークルの主婦連中は寝ているようなのに、この男性は六時過ぎには、出かける用意を済ませてロビーに出ていた。旅館の朝は早いので仲居を始め、女将さんが揃ってお出かけの見送りをしてくれた。
「今日はどちらかに行かれるのですか?」
と聞かれると、
「ええ、ちょっと隣の街まで行って来ようと思います」
という。
「隣の街というと、D寺町ですか?」
という女将に対して、
「ええ、そうです。あそこには大きな地獄絵図が伝わっていると聞いたので、見せていただこうと思っております」
というではないか。
――この人はちょっと怪しい人なのかな?
とも感じたが、驚きを感じた気配を見せないようにしていた。
それなので、これ以上の会話は不要と思い。
「いってらっしゃいませ」
と一言言って、お見送りをした。
ただ、一晩ゆっくり眠れたからなのか、昨日に比べて、顔の色が少しいいような気がした。昨日不気味に感じたのは、きっと顔色が悪かったからではないかと思った女将は、顔色さえよくなれば、ちょっとした表情でも、笑顔に見えるこの人が、普段は表情豊かな人なのだということに気づいた気がした。
荷物は相変わらずカメラを持っていて、車に積み込んでから、そのまま出発していった。この出来事は、普段から旅館であれば、普通にある出来事であったが、今度は、そうもいかなかった。
文芸サークルの奥さんの団体が起きてきたのだが、どうも様子がおかしいようだ。先ほどの男性客の顔色がよかったのと反対に、さっき起きてきた奥さん連中の表情は血の気が引いているように見えたのだ。
ゆっくり顔を洗っている様子ではなく、そそくさと慌てている様子が見て取れた。
「どうかされたんですか?」
と、女中の一人が気になって訊ねてみると、
「ええ、仲間の一人が朝起きたらいないんです。それで探しているところなんですけどね」
というではないか。
「どちらか近くを散策しているというようなことはないんですか?」
と訊かれて、
「いいえ、ちょっとそれも考えにくいんです。彼女は浴衣を脱いで、着てきた服を着てから出かけたようなんです。ようなんです。玄関に靴もありませんでした。だけど、単独で帰ったとも考えられないんですよ。カバンもあるし、他の荷物も置いたままなんです。まだバスがある時間ではないでしょうから、ないでしょうから、バスに乗ってどこかに出かけたというのは考えられないですよね」
というと、もう一人が、
「ところで、他に男性の宿泊者がおられるということでしたが、その人は?」
と訊かれて、
「ああ、その方なら、すでにおでかけになりましたよ。隣の街に行ってみたいということで、三十分くらい前にお見送りをしました」
というと、
「実は、いなくなった女性は。結構肉食のところがあって、皆で旅行に来ていたとしても、気に入った男性がいれば、モーションを掛けたくなるようで、今までにも何度か、飲み会の後に男性と仲良くなったことがあるようなんです。でも、そのほとんどは男性からの誘いのようで、彼女が自分から誘うことはないらしいんです。でも、そんなことがあっても、あまり大げさな騒ぎにはならないのは、なぜなのかと、いつも皆で話していたんですが、そのあたりのカラクリに関しては誰も知らないということでした」
と、そこまでいうのだから、今回は何か彼女たちの中で嫌な予感があるのか、それとも、今まで言いたくてウズウズしていたのだが、さすがに今回は堪忍袋の緒が切れたとでもいうべきか、ただ、そのわりに、彼女をディスっているという感じではなかったのが、彼女たちの表情を複雑に見せていたのだ。
そのため、皆何を考えているのか分からないと思わせた。
とりあえず、皆で探してみることにしたが、主婦の人たちは、このあたりの場所を知らない。とりあえず、旅館には女将と一人の女中さんを残して。後の二人の女中が、彼女たち二人ずつと一緒になって、案内役として探してみることにした。
まず、行動をとる前に、誰がどのあたりを担当するかを決めておかないと、却って混乱をきたしてしまうので、捜索前に役割を決めておくことにした。
その時、行方不明の彼女についての質問が旅館側から出たのだった。
「彼女はここに来たことはなかったんでしょうね?」
と訊かれて、四人とも顔を見合わせたが、
「それがよく分からないんです。私たちは文芸サークルでよく一緒にはいるんですが、お互いにプライベートなことは話さないので、もちろん、個人的に仲良くなった場合は話をするでしょうけどね」
と一人が代表で答えると、
「じゃあ、どなたか、彼女と個人的に仲良くなった人っているのかしら?」
と訊かれて、皆またしても顔を見合わせたが、それぞれに首を振るだけだった。
要するに、顔を見合わせた時はお互いに不安で見合わせるのであって、その場合、ほぼ期待の回答が得られないことは、ほぼ間違いないと思ってもよさそうだった。
「分かりました。じゃあ、彼女はこのあたりをよくは知らないだろうから、危険そうな場所と、さらには、誰かと会うとすればどこになるのかということを中心に探してみることにしましょう」
と、仲居の一人が言った。
この温泉街で、まず危険な場所というと、滝がある場所であり、河童伝説の祠のある場所が思い浮かび、待ち合わせをするといえば、その祠もその一つなのだが、もう一つとしては、四つ辻の近くにも少し小さいけど、人が待ち合わせをする場所があるという。
そこは、逢引きというよりも、中学生、高校生が待ち合わせをするようなところで、どちらかというと、
「逢引き予備軍」
とでもいえばいいのか、健全とは言えないが、不純ともいえないような中途半端なデートに使う待ち合わせ場所になっていた。
一組が滝の近くに行ってみて、もう一組がそのデートの場所に行ってみるということで、行動が決まったところで、いよいよ出かけてみることにした。
主婦の人たちも元々探検好きな人ばかりだったので、スニーカーにラフな服装は持ってきていた。
「じゃあ、それぞれに捜索の方、よろしくお願いしますね。こちらはいつでも行動できるようにしておきますからね」
と言って、女将さんが送り出してくれた。
滝に向かった三人は、三人とも、
「いるとすれば、こっちの方が怪しい気がするんですよね」
と言っていた三人だった。
後の三人は、滝にいるという意見には、さほど賛成派できなかったが、かといって、四つ辻の方の小さな森の中にいるという気もあまりしなかった。ただ、他に探すところがないというだけで、とりあえずという気持ちが強かったのだろう。
この三人は、
「ひょっとしたら、もうこの温泉街から離れているんじゃないかしら?」
と感じていたが、荷物があることから、それも考えにくいと思っているので、どうにも何を考えているのか分からないというのが、本音だったようだ。
昨夜の会話の中で、行方不明になった女性が、一番会話は少なかった。そもそも、以前から都市伝説であったり、オカルトやホラー的な話はあまり興味がなく、どちらかというと、怖がりなところがあったので、本当であれば、話をやめてほしいと思っていただろう。それができないのであれば、自分から立ち去りたいと思っていたのかも知れないが。そこまでの勇気もなかったのか、ただ、黙っているしかなかったようだ。
彼女の性格としては、あまり集団での行動は好きではなかったようだ。文芸サークルに入っている手前、皆と行動をともにしないと、一人だけ浮いてしまって、やりたいこともできなくなってしまう気がしたのが嫌だったようだ。
文芸サークルとしての行動であれば、自分から行動するタイプなのだが、文芸サークルの活動ではない、今回のような旅行には、本当は来たくなかったのかも知れない。
彼女は、自分が肉食であるのを自覚していた。男性がいれば、まわりを気にせず、無意識に気が付いたらその人の気を引こうとしているところが見えてくるようで、そんな自分が嫌だったのだが、
「無意識なのだから仕方がない;
と思っていた。
それはもちろん言い訳であるが、言い訳であるにも関わらず、どうしても男を求めてしまうその性は、自分では嫌だと思いながらも、性として受け入れるしかないと思った時点で、意識的であっても無意識なことだとして、認識されるのだ。
彼女の場合は、自分から男性を求めているわけではない。どちらかというと、彼女に寄ってくるのだ。それh彼女も分かっているし、男性の側も分かっているようだ。
ただ、彼女は地味な方で、とても男性が寄ってくるようには感じない。いつもメガネを嵌めていて、五人の中でもいつも一番後ろからついてくる、まるで、
「金魚のフン」
のようだった。
金魚のフンというと聞こえは悪いが、確かに写真に入る時も、いつも皆と一定の距離をおいて、目立たないようにしている。だが、逆にいえば、皆と同じではないところが逆に目立っているのであって、彼女の中にある、
「皆と同じでは嫌だ」
という思いが、時々、見え隠れしているように思えるのだった。
そんな彼女は、今までにもどこかに行った時、勝手な行動をとることはなかった。確かに肉食なので、後から知り合った男性とどこかで会うということがあるのは、周知のことであったが、それも別に悪いことではない。これは不倫の良し悪しの悪いことという意味ではなく、女同士の中での行動として、別に卑怯な行動をとったわけではないという意味である。
他の人たちも、男性と知り合うのだから、あわやくば、お近づきになりたいと思うのも無理のないことであろう。ただ、自分たちの中で、
「私は既婚者なので、不倫をするということにどこか後ろめたさがある」
と思って、最後の一線を超えられるかどうかということであろう。
そういう意味では行方不明になった彼女には、そういう貞操観念が欠如していたのかも知れない。真面目なところはあるのだが、真面目なだけに、
「羽目を外すと、あんなふうになってしまうのではないだろうか?」
と、まわりは感じているのかも知れない。
彼女は真面目に見え、一見ダサく見えるので、男性から誘ってくることはない。そうなると、彼女の方から男を誘うことになるのだろうが、彼女のどこにそんな魅力があるのか分からない他の奥さんたちは、彼女のことを次第に不気味に感じるようになっていたのかも知れない。
だから、彼女が皆との距離を保っていても、違和感がなかったのだ。
写真でも少し離れて写っているのを、知らない人が見ればおかしな光景に感じるのだろうが、彼女たちの中では、別にこれが普通だと思っていた。
男でも女でも数人が集まれば、そのうち一人はアウトロー的な人がいても、それはおかしくないという思いであろう。
だが、あの目立たない真面目な彼女をアウトローというには少し違う気がする。そういう意味では、他の人が見る違和感とは違った意味での違和感が、主婦たちの間にあったのかも知れない。
これから、滝のある森の中に分け入ってみようと思っている主婦二人は、彼女に対してそのような感情を持っていた。あとの二人も少なからずあるのだろうが、この二人ほど強くはないと思われる。
そんなことを考えながら、二人は引率役の女中について行っている。
温泉街の平野の開けた部分の裏に、そんなに高くはない山が聳えているが、その麓に鳥居があり、そこから石段が続いていて、上り切ったところに、鎮守があった。神社としては、それほど大きくはないが、その横から入ったところに滝があるという。その滝を目指して進んでいくのだが、
「足元には気を付けてくださいね。ここは年中滑りやすくなっていますからね」
と、女中が言った。
「ここに入ってくる人って結構いるんですか?」
と一人が聞くと、
「そうですね、ここの河童伝説に興味のある人は滝に入って行くことが多いですね。ただ、滝の勢いがその時々で違ったり、風向きが微妙に変わってくると、まともに水が弾けてしまうことがあるので、それを嫌がる人は、中に入ることはしないでしょうね」
ということであった。
その日の朝も、なるほど少し水しぶきが飛んできているような気がしたが、それほど気にするほどではないような気がした。最初から、そこには結構大きな滝があるということを最初から認識していたからだ。
上まで上がってくると、さすがに息が切れてきたので、神社の前の水飲み場で軽く水を飲んで、一度落ち着いてから、滝の方に向かって行った。女中さんは、慣れているのか、それほど呼吸が乱れている様子もなく、三人が呼吸を整えるのを待っている状態だった。
静寂の中で、奥の方から、滝の流れ落ちる音が聞こえてくる。
「結構な音ですね。森に入ってすぐくらいなんですk?」
と言われた女中は、
「いいえ、さすがにそんなにすぐというわけではないです。少しだけですけど距離はありますね。それに少しだけ上り坂にはなっています。先ほども言いましたけども、絶えず湿っているようなところですので、舗装された道もあるにはあるんですが、いつも雨が降っているかのような水に濡れた状態ですので、足元にまずは細心の注意を払う必要があるということです」
という話であった。
女中の言っていることは二人にもよく分かっていた。
二人とも、よく刑事ものの二時間ドラマなどを見ているということで、このような場所でよく事件が起こっているというのが分かっているので、本当は何も見つけられない方がいいとは思いながらも、
「いや、やっぱり見つけてしまうんじゃないか?」
とも思うのも無理のないことであった。
女中さんに導かれるようにして滝の方に向かっていくと、なるほど、少し上り坂になっているようだ。手すりもるのだが、完全に濡れていて、しかも金属部分は錆びついているので、なるべくならば持ちたくはないと思っていた。
「朝のこの時間は、結構湿気が多いので、あまり来る人はいないんですけどね」
ということであった。
足元を気にしていると、やっと滝が見えてきた。足元を気にしていた関係か、距離が少しあると言われたが、その意識は感じることはなかった。
「いつの間にかついていた」
と言えばいいかも知れない。
さすがにここまでくれば、喋る声もまともには聞こえない。少々大きな声を張り上げたとしても聞こえないことだろう。
そにため、三人は、なるべく距離を開けずに行動するということを余儀なくされた。捜索しなければいけないのに、行動範囲が制限されると、なかんか難しかった。
滝つぼの近くに、何か落ちていないかを探してみたが、それは見つけることができなかった。
彼女が自殺をするとは思えないが、自殺をするにしても、わざわざここまで来て、旅行中というのが、不可解で、奥さん連中の発想の中には、とても、集団での旅行中に自殺を企てるという発想はなかったのである。
滝つぼの先には、祠が立っていた。
「見てはいけない」
と言われている何かがあると言われる祠であった。
とりあえず、祠のまわりを見て回ることにした。
「あれ?」
と一人の主婦が、何かを発見したようだ。
その声が小さかったからか、他の二人はそばにいたのに、すぐには気付かなかった。それぞれで別々の方向を見て捜索していたからだ、何しろ、固まって行動しているのだから、皆が同じ方向を向いているというのは、実に効率の悪いことだ。それをお互いに分かっているので、口にはしなかったが、お互いに気を遣うだけの気持ちを持っているので、それぞれに別の方向を散策するという思いがひとりでにできていたのだった。
それだけに、一人が見つけたことでも、声が小さいと、音の大きさからか、まわりを意識することに臆病になるというか、敏感になりすぎて、余計な気を遣わないようにしていた。
それは恐怖を煽ることになるので、お互いに暗黙の了解だったのだ。
だが、今一人の奥さんが何かに気づき、声を上げた。それは分かってくれると思っての声ではなかったので、アクションを起こすとすればこれからだった。
もう一度声を出すというのは、少し違う気がした。却って、変に恐怖を煽る気がして、ただでさえ、今の見つけた光景を、まわりに人がいるのに、一人だけで恐怖におののくというのは、嫌なことだった。
「一刻も早くまわりに知らせたい」
この思いから起こした行動は、相手の衣類を引っ張るという行動だった。
さすがに、相手に思いもしていない衣服を引っ張られるという行動をとられると、ビックリしたかのように、衝動で彼女の方を振り返る。
「どうしたの?」
と言いながら、彼女の視線を目で追った。
彼女は性格的に、気になることは最初に見ておかないと気が済まない性格だった。それが悪いことであっても同じこと、だから、彼女の目がどこを刺しているかを瞬時に察し、そちらの方を見てみた。
「見なければよかった」
と思ってしまうと自分の負けだと思い、何とか気を確かに持つように考えた。そうすると次に考えることは、
「よりたくさんの人に、自分の重さを伝えて、楽になりたい」
ということであった。
だから、叫び声を挙げるのは、本当は本意ではなかったが、ここはしょうがない・
「うわぁっ」
と、思い切り低音ではあるが、まわりに響くような声で叫んだ。
その方が効果があることは、彼女には分かっていることだった。
「どうしたんですか?」
と、二人がうろたえているのを見て、最後に女中が見ると、そこには、靴が見え、ズボンが見えた。明らかに誰かが倒れているのだが、どうも男性のようである。
行方不明の彼女がどんな服装だったのかまでは分からないが、女性ではないことは分かった。スニーカーの足のサイズも女性にしては大きすぎる。男性だとすれば、違和感がなかったからだ。
最後に見たのが女中さんだったということはある意味正解だったかも知れない。あとの二人は、完全な当事者であり、女中は、宿のお客とはいえ、それ以上でもそれ以下でもない関係だ。感情移入があるわけでもなく、最後に見つけたことで、最初の二人に比べれば、落ち着いていて不思議はなかった。
しかも、この女中は結構落ち着いている人であった。
少々のことでは驚かない人で、年齢的には主婦連中が三十歳よりも若いであろうと思えるのに比べて、女中は今年で、そろそろ四十歳になろうかとしているベテランでもあった。二人がうろたえるのも無理はないと思った女中は、
「ここは私がしっかりしなければいけない」
と思った。
ただ、そこに倒れているのが男性であると分かると、不思議な感覚だった。ズボンはまるで作業ズボンのようで、旅行者という雰囲気でもない。一体誰なのだろう?
そう思いながら、女中は勇気を振り絞って祠の裏を覗き見た。そこには、一人の男性が仰向けになって、カッと見開いた目が断末魔の様相を呈していた。口から赤いものが流れているのを見ると、どうやら死因は服毒ではないかと思えた。
何よりもビックリしたのは、その男のそばで一人の女性が倒れている。彼女は胸を刺されていて、男に覆いかぶさるように倒れている。胸にはナイフが刺さっていて、引き抜かれた様子はない。
それを見て立ち竦んでいる女中だったが、後ろから、
「ギャー」
という声が聞こえた。
主婦の一人が覗き込んだのだった。
「房江さん」
と言って、彼女の死体に近寄ろうとしているのを、
「待って、触っちゃダメ」
と、女中が止めた。
我に返った主婦は、ハッとなって、すぐに冷静さを取り戻し、
「ああ、そうね。現状保存が大切よね」
と言った、
もう一人の主婦は、その様子を四つん這いになったまま見つめていた。声を出すこともできずに震えている。完全に腰を抜かしてしまっているようだ。
女中は、持っているケイタイで、警察に連絡した。そして、警察に連絡を入れたその後すぐに旅館の女将に連絡を入れた。
「ええ、ここで探していた主婦の横溝房江さんという人が死んでいるのを見つけたの。それもおかしなことに、まったく知らない男性と一緒に死んでいたの。今警察を呼んだのですぐに来ると思うけど、私たちは第一発見者なので、しばらくここにいないといけないと思うのよ」
と電話で説明していた。
すると、女中の様子がそこから少しおかしくなった。
「えっ
どういうこと? 警察はすぐには来れないかも知れないって? ええ、えっ? それでそっちが先なの? 一体どういうことになっているの?」
と言って、少し女将と話をしていたようだが、まだ興奮が収まらない中で、電話を切った女中に対して、
「何がどうしたというの?」
と主婦の一人が女中に言うと、
「実はね。もう一組捜索に出かけたじゃないですか。四つ辻のように祠にですね」
「ええ」
「実は、そっちでも一人の男性の死体が発見されたというの。あちらの方が発見が早くて、警察への通報も早かったので、あっちにまずは捜査員が行くというのよね。もちろん、こっちにも来るでしょうけど、鑑識は最初あっちに行ってるので、向こうがある程度落ち着かないと、こっちには来れないでしょう。だから、しばらく待たされることになると思うのよ」
ということであったのだ……。
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