第20話 その結果
「で、今度は積極的にその……
「そうなりますからしばらくダンジョンにかかりきりになります」
「そう……なんか寂しくなるわね」
「その分今日で埋め合わせてもらえれば」
ということで埋め合わせの延長戦が行われた。
残念ながら自軍は劣勢だ。
これも下手に手心を加えて、腰痛のひどい師匠に聖ウェリアスの聖跡を使ったことが直接の原因だ。
原因が自分にあるので、ここは独力で対抗しなくてはならない。
善戦はしたが、残念ながら劣勢を覆すことはできず、惨敗に終わった。
いや、勝った負けたと言っても、現象的に変わるわけではなく、単なる気分の問題なので気にしなければそれでよい。
「でも……困ったわね」
「なにがですか?」
「あなたが聖職者として認識されると、私が教えているっていう状況が良くないのよ。絶対学院が何か言ってくるわ」
「ああ……」
帝国の魔法学院は、単なる学びの場というよりは研究の場であり、なおかつ政治の場でもある。
魔法師、あるいは魔法士の権利や利益を守るために、各国や冒険者管理局に対して圧力をかけることが仕事の一部だ。
この町にも師匠の他に魔法学院の担当官がいるはずで、確かに僕たちのことが伝わる可能性はある。
魔術使、ならまだしも、魔法師ともなれば、信仰を捨てることが前提だ。
これは魔法でしか実現できない立体紋章の構築理論に、神の存在が不都合であるという事実が関係する。
なぜか敬虔な神の信徒は立体紋章を構築できず、またいったん魔法師となっても信仰に目覚めた結果、魔法の行使能力を失うという事例があったから、といわれている。
「実際にそうなのかは私も疑っているんだけどね……でも相性が悪いのは確かだわ」
学院は、魔法の理論で世界の全てを説明しようというのが最終目標だ。
それはすなわち既存の宗教のすべてに魔法学院が超越するということでもある。
世界の全て、というならば先にダンジョンの謎の方を解明してほしいと思うのは僕が冒険者だからだろう。
「……ということは、こうして僕が教えを乞うのは続けられないかな?」
「そうなの……よね。はあ、どうしましょうか?」
ため息をつく師匠……いや、ここではエディと心の中でも呼ぶとしよう。
「そんなの、簡単だと思う」
「えっ、でも……結局隠さなかったんでしょ? それじゃ教会も黙っていないだろうし……」
「今のところは接触はありませんよ」
サイオンで主に活動しているのが帝国のひも付きである伝統派であることもあるだろうが、まだ僕の方に何か言ってきた双十字聖教の関係者はいない。
「でも時間の問題よね?」
「そう……だから、こっちが先に動けばいいんですよ」
「先に……ってどうするの?」
「し……いや、エディス。結婚しよう」
「え……えええっ、でも……本気? いいの?」
「いいに決まってるじゃない。それともエディは嫌?」
「嫌なんて! でも……いろいろ面倒なことがありそうだし……」
「面倒だからって、やりたいことをあきらめる理由にはならないでしょ? だから、エディも手伝って……いや、エディと一緒に解決していこうよ」
勢いで言ってしまったという面もあるので、僕はちょっと恥ずかしさを感じた。
赤くなった顔に気付いたエディが僕を指さしていたずらっぽく笑う。
「変よね、もっと恥ずかしいことをしてたはずなのに、今まで見たことないぐらい顔が赤いわよ」
「そ……そんなこと言ったら、エディだって……」
行為の後、僕とエディは一緒の寝台で横になりながら、両者とも顔を真っ赤にして笑いあった。
それは……まあ、埋め合わせとしては良い感じになったのではないだろうか。
◇
「残金だ」
「おお、すごい」
この間の24層の探索、その中で鑑定に出していた分の分け前をラミレスから受け取る。
「結構高く売れたんだなあ」
「そうだな……剣はたいしたことは無かったが、雑貨の一つが魔導器だったらしい」
「魔導器……魔導具じゃなく?」
「そう、まあ使い方は相変わらずわからんが、それも含めての値段なんだろう」
魔導具の中でも、魔導器と呼ばれるレベルのものは、誰にでも使えるわけではない。
高度な魔法の知識と、その魔導器の仕組みについて熟知しないと発動さえしないが、いったん使えるとなった場合は並の魔法と一線を画した効果を発揮する。
サイオンの外壁や内部の各街を囲う城壁は、円環の魔導器と呼ばれるものを使って作り出したらしい。確かに、この規模の城壁を魔法で作ろうとしたら何百人の魔法師が必要だろうかわからない。
そして、そのように高価を発現させた研究者は、以後その魔導器を使う専門の人材として、『魔導司』という称号を得ることになる。
それだけで巨万の富を得ることができる、魔法関係の成功者の一つの形とされる。
ということで、使用方法用途不明の魔導器といえ、その対価は高額だ。
僕の手元にずっしりと重さを伝えるその袋は金貨が詰まっている。
「一人頭金貨15枚。まあ、贅沢しても数年は遊んで暮らせるな」
「いや、ありがたい。ちょうど物入りだったんですよ」
「へえ? 何か高い買い物を?」
「ええ、まあちょっと……」
さすがにまだ付き合いの浅いラミレスに事情を話すのはためらってしまう。
実は、今度エディの実家に挨拶に行くのだが、その時にどんな格好をしていくか、何を手土産にしようかと悩んでいる。
いかん……それは雑念だ。
今日はこれからダンジョンに行くのだから余計なことを考えていては危ない。
「預けるだろう?」
「ええ、そうします」
金貨なんてものを持ち歩いたり家に置いたりするものはめったにいない。特に冒険者は管理局が預かってくれるので、それを利用することが多い。
僕は通常とは違う金銭の預け入れの窓口に並ぶ。
まだ朝だからそれほど並んでいないが、これがダンジョン帰りの夕刻となるとこちらも混雑する。
並んでいる最中、急に後ろが騒がしくなったのがわかる。
気にはなるが、順番が来たので預け入れの手続きをする。
かなりの重さの金貨を預け入れて、身軽になった時に後ろから肩を叩かれる。ラミレスだった。
「急ぐぞ。救出を受けた」
「え……」
「例の
「受けるべきですね。わかりました」
救出隊への参加は義務ではないが、なるべく受ける。
それは、それなりの覚悟を持って依頼を出したチームの人たち。広い意味では自分の仲間ともいえる人を助けることが、そしてそれが当たり前だという風潮を作ることが冒険者の、そして自分の安全を高めることだとわかっているからだ。
それに、今の僕はサイオンダンジョンに潜る唯一の聖職者系冒険者だ。
行くべきだ。
僕とラミレスは、他のメンバーと合流して階段を急ぐ。
◇
21層扉前に集合したのは10人。
僕らと他1チームと、案内役の依頼者だ。
僕らのチームが戦士、戦士、戦士、戦士兼斥候、聖職者兼魔術使。
もう1チームが、戦士、戦士、魔術使、斥候だ。
僕と違ってその魔術使は近接戦闘もやるらしく、かなり丈夫そうな革の防具を身に着けており、剣を持っている。
「場所は、敵にぶつからなければ2分ほどだ。部屋の入り口に壁を作ってふさいでいる。ただ敵が多いんで、壁が崩されたら終わりだ」
「中には何人いる?」
「4人だ。うち魔術使が2人、他の2人は戦士だが、片方が重傷で動けない」
「敵の概数は?」
「最低20」
「全部があれか?」
「そう見えた」
依頼者に質問が飛び、それに彼は答えていく。
「あれ」というのは当然
質問が収まった後、体制を確認する。
「俺たちは新参だ。そっちの指示に従う」
「では、そうさせてもらう。確か回復が使えるのが……」
「僕です」
「じゃあ彼を中心にして……」
手早く打ち合わせをして、僕たちは21層に入った。
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