第63話 改めて初めまして
別荘に戻った後、私はパーシヴァルに話しかけた。ティールームに向かう廊下で声を潜めて、
「ディーン様とは友達になりました」
「えっ?」
パーシヴァルは目を見開いた。
「婚約は、ディーン様のご都合の良い時に解消して頂く事になりましたから、ご安心ください」
「・・・」
「嘘だと思うならディーン様に確認して頂いても構いませんよ」
とにんまり笑ってやった。
パーシヴァルは眉間にしわを寄せていたが、溜息をついて私から目を逸らせた。
「馬で帰る時、そんな話をしてたの?」
「はっ?いえ、婚約解消の話をしたのはその前です。友達になったのは馬に乗ってるときですが」
「ふ~ん・・・」
イルクァーレの滝でアリアナとディーンが和解?をした後、私達はクラーク達と直ぐに合流できた。
リリーやグローシアは泣きながら私に抱きつき、ノエルは涙目で平身低頭で謝ってくれた。
気になったのは彼の両頬が腫れていた事で、「どうしたのですか?」と聞くと身体を震わせながら「ミリアとジョーに殴られた」と頬をさすった。涙目だったのはよっぽど痛かったせいかもしれない・・・。
私はそのままディーンの馬に乗せて貰ってまま別荘へと帰った。ディーンは馬をゆっくり進ませ、私達は今まで気まずかったのが嘘だったように、いろんな事を沢山話した。
そして私はふと不思議に思った事を聞いてみた。
「ディーン様、崖で私が馬から落ちた時に、もしかして何かしました?」
「ああ、風を使った。うまく行って良かったよ」
(やっぱり魔術か!)
それを聞いて私は感心すると同時にちょっと呆れた。魔術と言うのは、とても神経を集中させるものらしい。なのにディーンは崖を駆け下りる馬を操りながら、咄嗟に馬から落ちる私を風の魔術で助けたのだ。
(どんだけ、能力高いんだよ・・・)
メインキャラとモブキャラの差が圧倒的過ぎて、怒る気にもならない。
「ほんとに助かりました。だけど、いくらなんでも馬で崖を下りるのは危なすぎますよ」
「君だって下りただろ?」
「私のは不可抗力です。ああいう時は崖の上から魔術使ってください」
「ははは、そうだね。次からはそうするよ。・・・あの時はとっさに身体が動いて、あまり考えてなかったな」
実際そのおかげで私は助かった。だからこれ以上文句は言えないけど、ディーンが怪我したら大変だった。
「馬も、たいした怪我が無くて良かったです」
「ああ、運が良かった」
本当に運が良かった。そしてディーンと今、こんな風に普通に話せているのだって本当に幸運な事だと思えた。
(よし・・・!)
私は少し背筋を気合を入れる。そしてそっと後ろを振り返ってディーンを見上げた。
「あの・・・ディーン様」
「ん?」
「改めてですね、友達になってくれませんか?」
「・・・」
「婚約解消して、はい他人!っていうのは寂しいです」
(命の恩人なんだし)
「・・・うん」
「学校でも顔を合わしますし、お話だってしたいです。だから友達というのはいかがでしょう!?」
力が入って右手に拳を作ってしまう。私の提案にディーンは少し考える風にしていたけれど、
「うん・・・。ああ、ではこうしないか?」
「はい?」
「私と君とはあの滝でもう一度出会い直した。そして友人になった。・・・どうだい?」
(もう一度出会い直した?。ふむ・・・成程ね、これはナイスな考え方だ)
ディーンが初めてアリアナに会ったのは5年も前の事だけど、その時は「私」では無かったし、学園でディーンに初めて会った時は互いの印象が悪過ぎた。
私は逃げ回ってばかりだったし、話をするようになってもディーンは謝ってばっかで・・・
(色々噛み合ってなかったんだよなぁ・・・)
「その案、良いですね!そうしましょう!。」
私が賛成すると、ディーンは悪戯っぽい表情で片手を胸に当てると、仰々しい仕草で頭を下げた。
「では・・・改めてアリアナ嬢。初めまして、私はディーン・ギャロウェイです。どうぞよろしく」
(あはははは)
私も片手でスカートを少し詰まんで頭を下げる。馬の上じゃ難しいな。
「アリアナ・コールリッジです、ディーン様、よろしくお願い致しますわ」
そうして私達はお腹が痛くなるまで、散々笑ったのだ。
(いやぁ、何せゲームの設定が設定だからなぁ。ディーンとあんな風に話せるようになるとは思わなかったよ)
普通に話せば彼は結構良い奴なのだ。
別荘の廊下でパーシヴァルは私から目を逸らせたままぽつりと聞いた。
「君、ディーンに何かしたの?」
「は?」
「あんなに笑ってるディーンは久しぶりに見た・・・」
そう言うと私を置いて、さっさとティールームに入ってしまった。後ろ姿が少し寂しそうで、
(う~む、パーシヴァルはこの先どうするんだろう・・・?)
彼はこのまま自分の気持ちを隠したまま、ディーンと誰かの恋を応援するんだろうか?
私は頭を抱えた。
(あ~難しい!恋愛なんてした事無いし!でも、好きだったら普通は自分のモノにしたいんじゃないの?)
いまいち恋する気持ちが理解出来ない。
(前の世界じゃ、恋愛に使う時間なんて無かったしなぁ。特に好きな人もいなかったし)
だけど、彼が辛い思いをしているのは想像できた。
(しんどいのは間違いないよなぁ・・・)
いつもは調子の良いパーシヴァルの辛そうなかすれた声が、耳に残って忘れられなかった。
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