第61話 暴走
馬に乗れるジョーとグローシアは男子達と一緒にで少し離れた場所まで遠乗りに行ってきたらしい。
「楽しかったわ~!でも凄くお腹が空いた~!」
ジョーは満面の笑みで馬を降りた。グローシアもクラークと遠乗りに行けたのがうれしかったのか満足そうな顔をしている。
使用人に運んで貰った昼食(外とは思えない程豪華)を存分に楽しみ、しばらくまったりした後、私達は帰り支度を始めた。
「夕方になるとすぐに涼しくなって来るから」
クラークが馬の準備をし始めると、自分の馬を引っ張って来たノエルが少しもじもじしながら近づいてきた。
「あのさ、帰りは僕も二人乗りしてみたいんだけど・・・」
「ああ、良いんじゃないか。ノエルも馬を操るのが上手くなったよ」
ノエルの顔がぱあっと明るくなる。
「うん!遠乗りしてだいぶ慣れてきたからさ。だから二人乗りもやってみたいんだ!」
「そうか・・・じゃあどうしょうかな・・・?」
と兄が考え始めたので私はすかさず手を上げた。
「私がノエル様に乗せて頂きます!」
「えっ、アリアナが!?・・・大丈夫かい?」
過保護なクラークは、まさか妹がそう言いだすとは思わなかったのだろう。あからさまに心配だと言う顔をした。馬術の下手なノエルの馬には乗せたくないのだ。
(他の女子は良いのかい!?)
思わず突っ込みたくなる。私は渋るクラーク押し切った。
「ええ、ノエル様にぜひ乗せて頂きたいのです!」
私が強固な姿勢でそう言うと、ノエルはパッと顔を輝やかせた。
素直なノエルの嬉しそうな表情を見て私は少し良心がうずいた。なぜならノエルの馬に乗りたいと言うのは、単にもう一度パーシヴァルと一緒に乗るのが気まずかったからと言うのが本心だからだ。
(だってさ、あんな話を聞いたのに、帰りの道中どうすれば良いのよ・・・)
喜んでいるノエルの横で、ミリアが見るからに渋い顔をしている。
「う~んノエルにアリアナ様を任せるのはちょっと心配・・・。でも、確かにアリアナ様以外ですと、ノエルは前が見えないかもれしませんね」
「ノエルの身長は自分より少し高いくらいですから」と言うミリアに、ノエルは「ミリア~」と情けない声を上げた。
他の面々は来た時と同じ組で帰るようだ。グローシアがまたミリアを穴が開きそうなくらいジーっと見てはいる。
「ではノエル様、よろしくお願いします」
私はノエルの手を借りて先に馬の上に乗った。そしてノエルが私の後ろに乗り込もうとあぶみに足をかけた時だった。一匹の大きな虻がノエルに向かって飛んできたのだ。
「うわっ、なんだ・・・!?くそ!こいつ!」
ノエルは両手をバタバタ振って虻を追い払おうとした。
だけどその瞬間、慌てた彼はあぶみにかけていた足で、馬の腹を思いっきり蹴ってしまったのだ。
「ブルルルルッ!」
「うわっ!」
「ひゃっ!」
驚いた馬が前足を上げた途端、ノエルは振り落とされて地面に転がる。そして興奮した馬は私を背に乗せたまま、猛スピードで走りだしたのだ。
(うううううわぁ~~~~~~!!!!)
私は慌てて馬のたてがみにしがみついた。
「アリアナっ!」
「アリアナ様ぁ!」
兄や皆の叫ぶ声が聞こえる。
(ちょ、ちょっと待って!待って!待って~!)
恐ろしい事に馬は崖の方に一直線に向かっていく!
「危ない!」
「アリアナ様!!」
(うそうそ、止まって~~~~~!!)
すっかり頭に血が上った馬は、あろう事か崖をそのまま走り降りだしたのだ!
「ぎ、ぎゃあ~~~~~~~~~~~!」
予想外の事に、私はかなり可愛くない叫び声を上げた。
恐怖のあまり目をぎゅっと閉じてしまう。それでも前のめりになりながらも、振り落とされない様に必死で馬にしがみついた。思いっきりたてがみを引っ張られて、馬もさぞかし痛かったであろう。
(む、無理無理無理~!もっ、これ以上は・・。)
何度も言うが、アリアナは身体が小さくて、幼児体形で、超非力なのだ。今までしがみ付いていられたのは奇跡に近い。暴れながら崖を下り降りる馬に、振り落とされるのは最早時間の問題だった。
だけどその時、馬が蹴った石が転がるガラガラと言う音に混じって、私を呼ぶ声が聞こえた。
「アリアナ!」
(ん・・・え?)
「アリアナ、手をっ!」
薄く目を開けて声の方を見ると、なんとディーンが自分の馬を操って、私の横で崖を下っていたのだ。そうしてさらに片手を私の方に伸ばしている。
(う、うそ、ディーン!?危ないって!)
「こっちに手を!」
「む、無理・・・」
ディーンは必死の表情で、私の馬に自分の馬を寄せてきている。その顔を見て、私はなんとか彼の方に手を伸ばそうと片手を離した。でもその途端、
(あっ・・・)
激しく首を振った馬に私の手は離れ、身体が宙に浮くのが分かった。
(終わった・・・)
為すすべなく振り飛ばされた私は、次に地面に叩きつけられるのを覚悟した。
しかし衝撃に備えてぎゅっと力を入れていた私の身体は、突如巻き上がった突風によってフワリと上に浮き上がったのだ。
「う、うわっ」
(な、何これ?!)
考える間も無く私は誰かの腕に抱き取られた。思わずその体にしがみつく。
「どう、どうどう・・・!」
頭の上でディーンの声が聞こえ、猛スピードで崖をを下っていた彼の馬は速度を緩めた。
(サ、サーカス・・・)
いつの間にか馬は平地を歩いていた。私は心臓が破れそうなくらいバクバクし、今更ながらに身体がガタガタ震えだした。
「こ・・・怖かった・・・」
ぽつりと言うと、涙がこぼれてきた。
「・・・も、もう駄目かと・・・う、うう・・・」
震えなが泣く私を腕に抱いたままディーンは馬を止めた。そして、
「大丈夫だ。もう大丈夫だから・・。」
私の背中を優しくぽんぽんと叩きながらそう言った。
「う、うわ~ん・・・」
木漏れ日が落ちる森の中で、私はディーンにしがみついたまま思いっきり泣いてしまった。
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