第60話 ヒロインのパワー
パーシヴァルは「何をばかな・・・!」「そんな訳ないだろう!」と色々良い訳をし始めたが、明らかに声が動揺している。
「ぼ、僕はあくまでディーンの親友として・・・」
弁明をしようとしたが、私の態度を見て取り繕えないと思ったのだろう、大きく息を吐いた。
「君が・・・こんな策士だとは知らなかったよ・・・」
(いえ、別に何も企んだわけではありませんけどね・・・)
「前とはまるで別人だ」
(・・・仰る通り別人です)
そのまま二人とも、しばらくは無言で馬に揺られていた。
(どういう事だよ・・・乙女ゲーの攻略者がそっちだなんて、あり得ないよ・・・)
さすがに予想外過ぎて私も上手く頭が働かない。
(あれ?・・・でもさ・・・)
「あの、あの・・・ではどうして、ディーン様とリリーを結び付けようとするんです・・・?」
恐る恐るそう聞いた。
(だって、だって、ディーンの事を〇しちゃってるんだよね?)
だったら何故こんなにもディーンの恋の応援をする?
私の後ろでパーシヴァルの気配が揺れた。
「・・・幸せになって欲しいだろ・・・。・・・な人には・・・」
いつもの陽気なパーシヴァルとは思えないような、かすれた声を聞いて胸が詰まった。
(そうか・・・本気なんだ)
良く分からないけど、なんだか切ない気持ちになった。
「・・・言わないで、ディーンには」
「・・・言いませんよ」
それから先は到着まで、二人とも黙ったままだった。
「さぁ着いた!どうだい?良い所だろう?」
兄がそう言って馬を止めた場所は、岩場の陰に広がった草原だった。遮るものが無く、眼下に景色が広がっていた。
「凄い!昨日買物した街まで見えますわ」
「あれが、私達のいる別荘ですね」
皆は指さしながら、その景色に見入って興奮していた。
草原の一角には綺麗な花も沢山咲いていて、まるで花畑だ。向こうの方には小川が流れている。
(うお~!まるっきりスイスじゃん!)
海外旅行などした事無い私には感涙モノの景色だ。
「なんて美しい所なんでしょう・・・!」
「花冠を作りましょうよ!」
女子は全員歓声を上げた。
「あっちの方は崖になっているから近寄らないようにね。さぁピクニックシートを広げてくれ」
クラークは使用人にテキパキと指図している。
私は女子達と一緒に花畑の中に座った。大きさや色も様々な花達が風に揺れる度にその甘い香りを運んでくる・・・。
(自分の幸せよりも、好きな人の幸せか・・・。)
私は先ほどのパーシヴァルを思い出していた。
(ディーンとリリーを純粋だって言ってたけど、あんたの方こそ純粋だよ)
私は今更ながら、グスタフ避けにディーンを使った事を後悔していた。
(結局ディーンを利用してるって事なんだもんね・・・。これは久しぶりに自分が嫌いになりそうだわ・・・)
自己嫌悪感に沈みながら、私は花畑にうつ伏せになった。
(・・・大丈夫・・・底まで落ち込んだら・・・後は浮上するだけだから・・・)
そのまま目をつぶる。
これは私のいつもの儀式だ。
どんなに嫌な事があっても辛い事があっても、例え自分を嫌いになったとしても、底まで沈んだ後は切り替える。その後は何も考えずにとにかく動くだけで良い・・・。
しばらくして私は握りしてめいた手から力を抜いた。目を開けて横を向くと花の蜜を吸いにミツバチが飛んできている。
目に見えるだけの世界は、ただただのどかだ。
(うんっ、やっぱりディーンとは婚約解消しよう!)
後の問題は全部自分で引き受ける。グスタフの事だってなんとか解決して見せるわい!
少しスッキリした気分で、私はそのまま仰向けに寝転がって空を見上げた。怖いくらい真っ青な空を作り物のような雲がゆっくりと滑っていく。
(パーシヴァルはディーンがアリアナと婚約した時どう思ったんだろ?アリアナがあんな風じゃ無かったら、やっぱり親友として祝福するつもりだったのかな?)
だとしたら、どんな気持ちだっただろう?。私だったら多分しんどい。
そう考えると同時に、私はこの世界の人物の有り方がゲーム設定とはがらりと違っている事に不安を感じていた。
「いったい、何が起きてんの?」
(私と接触のある人は、私が悪役令嬢しない事で影響を受けるかもしれない。でもパーシヴァルは・・・)
この別荘で会うまで、ほとんど話もした事無いのだ。
空に向かって右手をかざした。太陽が少し眩しい・・・。目を細めて自分の小さな手を睨む。
う~むと顔をしかめていると、誰かが上から私を覗きこんだ。
「・・・リリー?」
気付かないうちにリリーは私の傍に座っていたようだ。そして手には花で編んだ冠を持っていた。私は起き上がってその花冠を見て驚いた。
「ええっ凄い!リリーが作ったのですか?」
「はい。」
「うわぁ器用ですねぇ!」
(どうやって作ってんじゃ?)
幾重にも編まれた花が見事に輪っかを作っている。
「どうぞ、アリアナ様」
そう言ってリリーはその花冠を私の頭に乗せた。私はそれを両手で抑えながら、見上げてみる。
「とてもお似合いです」
リリーが少し首を傾けながらふわりと微笑んだ。彼女のピンク色の髪が太陽の光を受けながら柔らかく流れる。
その桁外れのヒロイン力のパワーに、私は花冠を見上げたまま後ろに倒れそうになった。
(もっ、もっ、もっ最高~!・・・マジで花の妖精だって!)
私は締まらない顔でへらへら笑い返しながら心の中で(リリー可愛い!可愛い!可愛い!・・・!)を連呼する。
自分でも単純だと思うが一気に気分が浮上した。
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