第59話 そっちなのかよー!
私には一つ手札があった。多分、私以外には誰も気づかなかった事。
(さ~て、対決しますか!)
まっすぐ前を向いたまま、私は彼に話しかけた。
「わたくしの事をお嫌いなのは分かりました。では、なぜ馬に一緒に乗る事にしたのです?」
「何?」
「くじに細工をしていましたよね?。わたくしが嫌いでしたら、他の方と乗れば良かったのでは?」
私はパーシヴァルがわざとこの組み合わせになるように、くじを操っていた事に気付いていた。
(簡単な仕掛けだ。なぜそんな事するのかは分からなかったけどさ)
彼はワザと私に最後にくじを引かせた。パーシヴァルは私の前だ。彼はくじを引くふりをして箱に手を入れた時、同じ番号の紙を箱の中に入れたのだ。
「わざわざ嫌みを言う為にこんな事をしたのですか?」
私の言葉を聞いて後ろにいるパーシヴァルの雰囲気が少し変わった。
「・・・化けたと言うか、ほんとに変わったんだな・・・。昔のアリアナ嬢ならそんなに頭は回らなかったよね。事故で頭でも打ってマシになったのか?」
(口悪いな、こいつ!)
失礼な言い方だ!だけどまぁ・・・その通りではある。
(それにしてもさ、外面マックスの八方美人皇子が、私には随分な言い方するじゃない!?ゲームの中じゃあ女と見れば声かけまくって、リリーにも呆れられてたくせに!)
なんだかイライラしてきた。だって私はこの遠乗りピクニックを楽しみにしていたのだ。グスタフも居なくなって、折角夏休みを楽しめると思ったのに!
腹の探り合いも面倒くさくなって単刀直入に聞いた。
「で、目的は何なのです?」
「何だって・・・?」
「耳ついてます?目的は何かと聞いてるんですよ。嫌いな私とわざわざ同じ馬に乗った理由を聞かせて頂けますか?」
パーシヴァルは驚いたようで、しばらく黙っていたがフッと笑って前方を指さした。
「は?何ですか?」
「見えるだろ?。ディーンとリリーだ」
「馬に乗ってますね」
「ああ、・・・お似合いだと思わないか?」
「思いますけど?」
即答した私にパーシヴァルは「えっ」と言う声を漏らした。
「そりゃ思いますよ。まるで物語の主人公達の様です。美男美女で言う事無しです」
私の言葉にパーシヴァルは呆気に取られたようだった。
(ふん、私(アリアナ)を怒らせようと思ったのか知らないけど、そんな事じゃ私はビクともしないよ)
だってディーンとリリーの組み合わせに、さっきはよだれ垂らさんばかりにウットリしていたのだ。
(ふふん!クラーク×リリーを考えてはいるけど、リリーがディーンを好きなら応援だってしちゃうんだよ、私は)
自慢げに胸を張った私の後ろから、かすかにパーシヴァルの動揺が伝わってきた。
「・・・だったらっ!」
(え?)
いつもへらへらしているパーシヴァルには珍しい、感情が乱れた声を聞いて私は思わず振り向いた。
パーシヴァルは横を向いて振り向いた私の顔も見ずに眉を寄せていた。
「だったら、もういい加減、開放してあげてよ・・・」
「え?」
「婚約だよ!。君が無理やりディーンにさせた」
「あ・・・」
奇しくも昨日、もやもやと考えていた内容と同じ事を言われて私は狼狽えた。
慌てて前へと姿勢を戻す。
(そ、そりゃ・・・私だって解放してあげたいよ・・・)
昨日と同じもやもやが、心の中に広がっていく。
「ディーンは君と婚約してからずっと辛そうだった。なのにコールリッジの権力の前に文句をいう事も出来ない」
(う・・・)
「学園に入ってから、明らかにディーンはリリーに惹かれていたんだ・・・。なのに、君がいるから・・・」
(ううっ・・・。)
私はパーシヴァルの言葉にぐっと胸が苦しくなった。良い訳は出来ない・・・言い訳はできなけど、
(こっちだって事情があるんじゃい!だいたい、リリーには他に好きな人がいるんだってーの)
「こ・・・こう言っては何ですが、パーシヴァル様には関係の無い事では・・・?」
「関係あるよ。僕の親友の事だからね」
その言い方に少しムッとした。
(親友、親友って、ちょっと踏み込み過ぎじゃないの?。リリーの気持ちだって考えなさいよ!)
そりゃ、リリーもディーンが好きだって言うのなら、その方が良いに決まってるけどさ・・・。
「君、邪魔なんだって分かってる?」
(は?分かってるわい!)
「昨日、夜にディーンを呼び出してたよね?」
「えっ?」
(気づかれてたのか・・・)
「戻ってきた時、ディーンは難しい顔してた。家の権力振りかざして、またディーンに無理難題でも押し付けたの?」
「け、権力なんて・・・!」
(振りかざして無いよね?。お願いって言ったし・・・。あれ?でも振りかざした事になるのか・・・?)
私の後ろにコールリッジ家を感じていたから、ディーンは私の頼みを断れなかったの?だから嫌々、仲睦まじい婚約者を演じてくれたのだろうか?
そう思った私は言葉が続かなくなった。
「僕はさほど力も持っていないただの第二皇子だ。けれどディーンの為なら君と刺し違えても良いと思っている」
この言葉を聞いて私は何故か違和感を感じた。
(この人、さっきからディーンの事ばっかり言ってる・・・)
ゲームのパーシヴァルは確かにディーンとは友達だけど、リリーを巡るライバルでもあった筈だ。最後には、どちらと結ばれてもお互い祝福する程、仲の良い親友同士ではあったけど・・・。
(この人は初めからディーンの恋を応援して・・・しかもディーンの為に私と刺し違えてもって・・・とにかくディーンの為にって、ディーンの事しか考えて無い・・・)
そこで、はたっとある考えが浮かんだ。
(ま、まさかね・・・え?・・・でも)
あまりに突飛な考えだった。だから私は深く考える事も無く、半分冗談のつもりで振り向いて彼に問うてしまったのだ。
「あなた、もしかしてディーン様の事が好きなのですか?」
ダイレクトにそう言った私にパーシヴァルは一瞬、虚を突かれたようにぽかんとした。けれど、その顔は見る見る赤く染まり、「あ・・・、う・・・」と何も言えないまま俯いてしまった。
「え?え?え?」
(マジで・・・?)
パーシヴァルは彼のキャラには似つかわしくない程焦っている。そして私はそれ以上に焦っていた。
(そっちなのかよぉー!!)
茹でだこの様に赤くなり、黙って片手で顔を隠している第二皇子に、なんだか居たたまれなくなって急いで再び前を向いた。
(ど、どういう展開・・・)
このゲームにBL要素は無かったはずと、私はどう対処して良いか分からずパニック状態だった。
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