第58話 第二皇子

 食事中、男子達の話題は今日の遠乗りの事のようだった。


 「今朝、遠乗りに行ったとき、気持ちの良い場所を見つけたんだ」


 クラークがにこやかに男子達に「そうだよな」と確認する。


 「それほど遠くは無いから、女性でも馬で行けると思うんだ。明日は皆でピクニックに行かないか?。ディーンも今日は遠乗りに行けなかったしね」


 「でも・・・私は馬に乗れないですよ」


 ミリアが残念そうに言う。


 (うん、私も余裕で乗れない)


 普通はそうじゃなかろうか?


 「私は乗れるわ。」


 「わ、わたくしも、もちろん乗れます!」


 ジョーと、グローシアは乗れるらしい。


 (へぇ・・・さすが!二人とも運動神経良いし、グローシアは騎士目指してるもんね)


 それとも貴族の令嬢は乗馬もたしなみなのだろうか?


 (うーむ、アリアナはどうだったろう?)


「乗れない人は、僕達が一緒に乗るから大丈夫。二人乗りで行こう。アリアナも心配しなくて良いからね」

 

 (乗れないで決定だな)


 皆はクラークの言葉を聞いて目を輝かせたが、グローシアは絶望的な顔になった。馬に乗れると言った事を後悔しているようだ。


 (クラークと一緒に乗りたかったんだろうなぁ・・・。彼とは、私が一緒に乗った方が良さそうだね)


 他の女子が一緒に乗ったら、グローシアは乗馬に集中出来ないだろう。普通に危ない。


 だが、そんな私の思惑は完全に覆されてしまったのだ。



 次の日の朝、朝食を済ませた私達に、


 「折角だから、馬に乗るパートナーをくじ引きで決めよう!」


 にこやかな顔だが押し強めに、パーシヴァルがそう提案してきた。そして私達は反対する間も無く、箱の中の畳んだ紙を引かされていたのだ。


 「同じ数字がパートナーだよ」


 それぞれが紙を開いていく。その結果、


 クラークとミリア


 ディーンとリリー


 クリフとレティシア


 パーシヴァルと私


 と言う組み合わせが決まった。


 (げっ!なんでパーシヴァルと!?)


 一番近づきたく無い奴なのに!?私はくじを思わず握りつぶした。


 ちなみにジョーとグローシアはそれぞれ一人で馬に乗り、ノエルも二人乗りに自信が無いとの事で一人で馬を使う事になった。


 そしてピクニックへ出発の時・・・、


 グローシアはクラークと一緒に馬に乗ってるミリアをジットリした目で睨み、ミリアは心底迷惑そうな顔をしている。


 クリフの横に並びたくないと言っていたレティシアは、「馬に乗ったら、誰もこちらを見ないで下さい・・・」と据わった目で私達に念を押した。


 そしてディーンとリリーは、


 (ふぉ~これはこれは・・・!)


 リリーを前に乗せ、馬にひらりとまたがったディーン。美しい景色も相まってまるで一幅の絵を見るようだった。


 (さっすが、美男美女!・・・これは、お似合いだわ)


 レティもさぞかし絵に描きたいだろうなぁと、うっとりと眺めていた私の肩を後ろからポンっと誰かが叩いた。


 振り向くとにっこりと笑うパーシヴァルの顔。


 「僕達も行こうか」


 だけど私は気づいてしまった。


 (目、全然笑って無い・・・こいつ・・・)


 笑顔の向こうに黒いモノが垣間見えるた気がした。躊躇したけれど、周りはもう出発の準備ができている。


 「・・・よろしくお願いします」


 私は一抹の不安を覚えながらもパーシヴァルの手を借りて馬に乗った。


 こうして、遠乗りピクニックが始まったのだ。


 今日も絶好のピクニック日和で、青い空に鳶がゆうゆうと弧を描いている。

クラーク達の馬を先頭に、途中イルクァーレの滝を横目に見つつ、私達はゆっくりと高原を登っていった。


 いつの間にかパーシヴァルと私の馬は最後尾になっていた。そして私の後ろで手綱を操っているパーシヴァルは、親しげな様子で私に話しかけてきた。


 「さすが名門コールリッジ家だね。別荘にまで何頭も馬を用意してるなんてさ」


 「・・・ありがとうございます。父が馬好きなもので・・・」


 「食事も毎回手が込んでて豪華だしね。宮廷の料理よりも贅沢かも?」


 「・・・恐れ入ります・・・」


 口調は楽しげなのだが、何故か嫌みっぽく聞こえるのは気のせいか?


 「いやぁそれにしてもさ、君には前に随分と手を焼かされたよねぇ。ディーンに近寄るもの全員に噛みつく勢いで罵詈雑言を浴びせるもんだから」


 (うっ・・・。こいつ)


 「よその令嬢にお茶をぶっかけた事もあったっけ?」


 嫌みどころか堂々と文句を言い始めた!


 パーシヴァルとディーンは小さい頃からの友人だ。ディーンの出席したパーティやお茶会にはパーシヴァルも一緒に来ていたのだろう。昔のとんでもなく我儘で傲慢娘だったアリアナをきっと良く知っているのだ。


 (アリアナってばディーンに近づく者は老若男女構わず攻撃していたらしいからなぁ・・・パーシヴァルには恨まれていて当然か)


 ここは素直に謝っとこうと、私はしおらしく、


 「そ、その節はご迷惑をおかけいたしました。恥ずかしい態度をお見せした事、心苦しく思いますわ。子供の時の愚かな過ちだとお許し頂ければ有難いのですが・・・ほほ」


 と、目一杯おしとやかな風情で私はペコッと頭を下げた。


 「ふうん、随分と化けたんだね?」


 (む・・・!)


 「凄い凄い、たいしたもんだ」


 (は?)


 「純粋なディーンやリリーじゃ、すぐに騙されそうだ」


 (何!?)


 「いったい何を企んでるのやら」


 (な、何だこいつ!?)


 昔の事をぐちぐち言う奴は好きになれない。こっちはちゃんと謝ってるのだ。しかも私が何か企んでるのかだと!?失礼な!


 私はアリアナのふりしながら、ロリコン回避に必死なだけなのだ!


 (だいたい、文句あるならその場で言えっての。アリアナがやった事を私に言われたって・・・)


 「僕は君に石を投げられた事もあるからねぇ、池に突き落とされた事もあったっけ?だからそう簡単には誤魔化されないよ」


 「!?」


 (すみません!アリアナが申し訳ない事をしましたぁ!)


 私は心の中で土下座した。


 (第二皇子に石まで投たのか!?それに池に突き落としただと!?下手したら不敬罪で殺られてるっての!)


 心の中でアリアナに突っ込みつつ、これはパーシヴァルは手ごわいぞと感じていた。


 (別にこの人に好かれようとは思わないけど、ずっと恨まれてるのはしんどい。それにさ・・・)


 私は後ろに座っているパーシヴァルを、ちらっと見上げた。彼の表情はあくまで遠乗りを楽しんでいる様ににこやかだ。


 (いまいち目的というか真意が分からないのよね。・・・う~ん、ちょっと揺さぶってみるか)


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