第57話 キュンが止まらん!
街へ行くのにディーンも誘ってみたが、「いや、部屋で読書をしたいから」と断られた。
私のグスタフ対策に付き合わせて遠乗りにも行けなかったのだ。せめて何か奢ろうと思ったのだけど・・・
(女子ばっかの中に一人は、やっぱキツイいか・・・)
私はディーンを別荘に残して、待ち合わせのレストランへと一人馬車に乗った。
街へは10分程で到着。
「アリアナ様!」
私の姿を見つけ満面の笑みで駆け寄って来るリリーに、私はメロメロになった。
(ああ~、リリー可愛い~っ!ヒロイン最高!)
私の口元がだらしなく緩む。
「アリアナ様、お待ちしてましたわ!」
「やっぱりアリアナ様が居ないと」
(ああ~みんなも可愛い~!)
やはり私は可愛い女の子達の中にいる方が癒される。朝のグスタフとのやり取りで消耗した体力も、回復した気分だ。
(イケメンは好きだけど、ゲームのイラストぐらいが丁度良いんだな)
リアルで過度なイケメンは体に悪いと言う事を、私はこの夏休みで思い知ったのだ。
「皆さん、お待たせしました。さぁ、お食事に参りましょう!」
(ああもう、お腹空いた!。グスタフの件もちょっとスッキリしたし、今日は食う!)
昨日の夕食も今朝の朝食も、あいつと一緒だったから、私はあまり食べれなかったのだ。
レストランのランチは評判通りの美味しさで、
(ん~!この世界って、ほんとに食事が美味しい)
それが私にはとても有難かった。前の世界では恥ずかしながら貧乏だったので、あまり美味しいものを食べた記憶が無いのだ。
ジョーが大盛にしたのを見て、私もそうしようかと思ったがそこは堪えた。アリアナは背が低い。このままではチビデブまっしぐらだ。
食後はテラス席に移動し、お茶とデザートを楽しめるらしい。
(なんてお洒落な・・・!)
何度も言うが前の世界じゃ貧乏だったので、そんな経験もした事無かった。
私達はデザートのメニュー表を真剣な顔で覗きこんだ。
「色々あって迷ってしまうわ」
「私は、このリンゴのタルトと、チョコのケーキと、シュークリームと・・・」
「ちょっとジョー!3つも食べる気?」
「あら、5つ食べようと思ってるんだけど」
ミリアとジョーの漫談を聞きながら、私はイチゴのショートケーキを選んだ。クリスマスと誕生日にも食べれなかった憧れの一品だ。
可愛い女の子達に囲まれて美味しいケーキとお茶・・・
(パラダイスじゃ!)
浮かれた気分でケーキを頬張りながら、私はふとディーンの事を思い出した。彼は今頃静かな別荘で、一人で昼食を摂っているのだろう。そう思うとどうにも罪悪感を感じてしまう。
(う~ん、協力してもらったし、色々迷惑かけたしなぁ・・・。ここは思い切って、一肌脱ぐか!)
私はコホンと一つ咳払いをし、ティーカップをソーサーに置いた。
「あの、リリー・・・。ちょっと聞きたい事があるのですけど・・・」
「なんでしょうか?」
「気を悪くしないで下さいね。あの、あなたって、もしかしてディーン様がお好きなのではないですか?」
周りの皆が、はっと息を飲む音が聞こえた。一気に場の緊張感が増す。そりゃそうだろう。これはきっと皆も気になりながらも聞けなかった事なのだ。
ディーンとリリー。一時期は学園で結構な噂になっていた二人だ。今は普通に友人として接している様に見えるけど、本当の気持ちはどうなのだろう?
(ゲームでは一番好感度の上がりやすい相手なんだよ。ディーンは最初に出会う攻略者だしね。リリーだって、私と友達になるまでは意識してたはず)
だけど聞かれた当人であるリリーは、落ち着いたまま笑みを浮かべていた。
「いいえ、私はディーン様の事はなんとも思っていません。良い友人でいられれば嬉しいとは思いますが。」
「あ、あの、私の事でしたら気にしないで良いのですよ。一応婚約者と言う事になっていますが口約束みたいなものですし、その・・・」
「アリアナ様。私の好きな方はディーン様ではありません」
真っすぐな目で私を見るリリーの顔は、嘘を言っている様には見えなかった。
「そう・・・なのですか?」
「ええそうです。それに、アリアナ様がそんな事仰ったら、ディーン様ががっかりなさいますよ」
「え?」
(何で?・・・どういう事?)
くすくす笑いながら言うリリーの言葉の意味が掴めない。するとジョーが勢いよく話に入ってきた。
「えー!?。じゃあさ、リリーの好きな人って、クリフ?」
「いいえ、クリフ様では無いです」
そう言って「私もあまり、横には立ちたくないですし・・・」と笑った。やっぱりクリフは女子からは敬遠されてしまうようだ。
(可哀そうなクリフよ・・・)
「で、で、で、では、もしかして、クク、クラーク様・・・?」
グローシアが青ざめながら聞いたが、リリーは首を横に振った。
「じゃ、パーシヴァル様?」
リリーは人差し指を唇に当てて、
「内緒です・・・」
そう笑って頬を薄くピンクに染めた。
(か、可愛らし過ぎる・・・!)
私はリリーのその愛らしいしぐさに仰け反りそうになった。
(や、やばい・・・キュンが止まらん!)
心の中で悶えに悶えた。
(あ、危ない・・・女子でも可愛すぎると、体に異変を起こすのか・・・)
さすが、ヒロイン!半端ないぜ。
「もう!リリーってば、秘密主義なんだから!」
私が一人で悶々としている中、皆はそうはやし立てたが、リリーは静かに笑ったままだった。
夕方まで買い物して私達は屋敷に戻った。
ジョーは大量のお菓子を買い、レティシアは何冊もスケッチブックを買いこんだ。家から持ってきたスケッチブックは、もう絵で埋まってしまったそうだ・・・。
「色鉛筆も買いましたし、これでカラーにできますわ!」
(ちゃんと睡眠はとるんだよ、レティ・・・)
私の心配をよそに、レティは帰るなり意気揚々と新しいスケッチブックを開いている。
遠乗りから帰ってきた男子達とも合流して、子供達だけの気軽な夕食の時、私はリリーとディーンを盗み見た。
(そうか・・・ディーンは失恋か・・・)
思い返してみるとこの世界に来てから、私はディーンとヒロインのイベントをことごとく邪魔した上に潰してきたのだ。
(うーん、途中まではさ、ざまぁって思ってたけど、今となっては罪悪感感じるんだなぁ・・・)
実は私は今日のお礼にと、ディーンにラピスラズリの付いた、小さなチャームを買っていた。彼の瞳の色に似ていると思ったからだ。
(でもなんだか、渡しづらい・・・)
そう思ってチャームはバッグに入れたままだった。
(それにさ、ディーンとは円満婚約解消したいと思っているけど、今はマズいんだよなぁ・・・)
だって解消した途端、グスタフの勢いが再燃するのは間違いないだろう。私は奴の流し目を思い出してゾッとした。
(ディーンには申し訳ないけど、しばらく婚約者でいて貰うように頼むかなぁ。せめてディーンにリリー以外に他に好きな人が出来るまでね・・・)
(それに今は違うかもしれないが、リリーだってこれからディーンを好きになるかもしれない!そうしたら二人とも幸せになれるじゃん!)
そんな風にも思ったが・・・。
(でもそれを考えると、やっぱり私と婚約してるってのが色々邪魔になる訳だよなぁ・・・)
リリーの性格からして、友達の婚約者には手を出さないだろう。
なんだか色々八方ふさがりな気分で、今日のメインの鯛のパイ包みにナイフを入れていると、ふと視線を感じた。
(ん?)
顔を上げるとパーシヴァルがこっちを見ていた。
なんだ?と思う間もなく、彼はサッと視線を逸らす。そして、何事も無かったかのように食事を続けていた。
(なんか・・・こういうの前もあったような・・・)
第二皇子とはこの別荘生活でも、程よく距離を保っているつもりだ。だけど気が付くと彼が私の方を見ている事が良くある。いったいどう言う事だろう?
(もう!面倒だから関わって来ないでよ)
そう思って私はメイン料理を口に運んだ。
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