第14話 腹をくくるかっ!

 「リリー様、お話とは?」


 私がそう言うと、リリーは涙を拭いながら話し始めた。


 「あ、あの・・・私、アリアナ様に先日のお礼を言おうと思って・・・。あれから学校では全然お会いできなかったので・・・。あの、あの時は助けて頂き、ありがとうございました。」


 そう言って頭を下げる。


 (律儀な子だなぁ)


 そう言えば1組と3組ってなぜか校舎が離れてるのよね。お昼休みは最近ミリア達と外で食べていたし。放課後は私、すぐ寮に帰っちゃうし。


 だから待ち合わせでもしないかぎり、ばったり会うのは難しいだろう。


 (しかも、私はヒロインやディーンに会うのを避けているしね、はは)


 正直今だって、ヤバいフラグが立たないか冷や冷やしてるのだ。私は「んんっ」と一つ咳払いをして、リリーに向き直った。


 「お礼を言われるような、大したことはしていませんわ。それにあの時は私も、リリーさんに助けて頂きましたもの」


 「え?」


 リリーは戸惑ったようにこちらを見た。


 「ディーン様から庇っていただいたでしょう?」


 私がそう言ってディーンの名前を出すと、ミリアとレティシアが顔を見合わせて不思議そうに聞いてきた。


 「あの、アリアナ様。ディーン様と何があったのですか?。リリーさんに庇って頂いたとは?」


 私は、先日の経緯を皆に説明した。


 リリーが他の女生徒にいじめられていたこと。ディーンに誤解されて詰め寄られたこと。


 「リリーさんはディーン様にはっきり説明してくださいましたわ。しかも私に謝る様に言って下さったのです。あの時は少し慌てましたけど・・・」


 思い返すと少し笑えて来た。ディーンの呆気に取られた顔と慌てた様子を思い出す。


 「そう言えばリリーさん。最近はどうですか?。他の女生徒から、嫌な目には逢ってませんか?」


 私がそう言うとリリーは目を伏せた。


 「はい・・・あの・・・。」


 (この様子だと、まだ嫌がらせは続いているようだね)


 ゲームの中ではアリアナが率先してリリーをイジメていたけれど、それに乗っかって嫌がらせをするものもいた。


 名前なんて分からないけど、アリアナが現れる時にいつも何人かの取り巻きがいた。


 (ビジュアル的にはミリア達では無いよね。一組の生徒かな?)


 あいつらはいったい誰だったんだろう?。アリアナの友達だったんだろうか?。それとも単にリリーを虐める時だけアリアナにくっついていただけ?


 ゲームの説明書にはそこまで詳細には書いていない。


 (でも、そうか。今だってアリアナが先頭に立っていないだけで、リリーは周りから孤立しているのかもしれない)


 リリーは平民でこの学園に入学してきた上に光の魔力というレアな能力を持つ。しかも学園一と言って良い美少女で成績だって優秀だ。おまけにイケメン揃いの攻略者達と親しいとなれば令嬢達の妬みややっかみを買うのは仕方ないだろう。


 ゲームでも1年生の時リリーの友人は誰も居なかった。だからこそ攻略対象との距離も縮まりやすかったのだが・・・


 「リリーさん」


 「は、はい!」


 「リリーさんは今日、誰の馬車のグループで来られたのでしょう?」


 私がそう聞くと、リリーは少し困ったように目を伏せながら小さな声で言った。


 「・・・あの・・・パーシヴァル様や・・・その・・・ディーン様のグループの馬車に・・・」


 「まぁ、貴女!。ディーン様はアリアナ様の婚約者ですのよ!。それなのに・・・」


 ミリアが少し呆れたように言うと、アリアナは慌てて、


 「違うんですっ!他の馬車には・・・女生徒のいるグループには入れて貰えなくて・・・。パーシヴァル様が見かねて男子生徒だけのグループに入れてくださったんです。私・・・1組の女生徒の方に嫌われているみたいで・・・。」


 「でも、それは貴方が婚約者のいるディーン様や第二皇子であるパーシヴァル様に馴れ馴れしくしているからだと噂がたっていますけど・・・?」


 レティシアがそう言った。続けてミリアも、


 「そうそう!。平民出身なのに魔力が強い事を鼻にかけて、他の女生徒を馬鹿にしてるとも伺いましたわ!」


 「そ、そんな!。私、そんな事してません」


 リリーの目からとうとう涙が一筋零れ落ちた。


 (そうか・・・。そういう噂が立っていたからミリアもレティシアもリリーに冷たかったのね。)


 だって私の婚約者に色目使ってるって噂なんだもんね。二人とも私に気を使ってくれてたんだ。


 私はミリアとレティシアが単にリリーに意地悪なんじゃないと分かってうれしかった。


 (それにしても・・・さ)


 私はちらりとリリーを見た。


 彼女は口元を抑え、一生懸命こらえながらも涙が頬を伝っている。


 その横顔・・・。


 (まつ毛長いなぁ~・・・)


 思わず、「ほう」っと溜息が出る。


 (さすがヒロイン!!。泣いてる姿も絵になる~!)


 ゲームのヒロイン大好きな私は、小さくガッツポーズしそうになったが、いやいや、見惚れてる場合じゃない。


 そういう状況はさすがにリリーが可哀そうすぎる。きっと今日のピクニックだって、居場所が無いんだろうな・・・。


(う~ん私、なるべくリリーには関わらない方針だったんだけど、これは腹をくくるかっ!)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る