第13話 ヒロインよ何故?
私達が馬車を降りたのは、大きな湖のほとりにある原っぱだった。
周りはきれいな山々に囲まれている。なんて美しい場所なんだろうと素直に感動してしまった。ゲームの絵じゃなくて、実写で見るとやっぱり迫力が違う!
「皆さん、ピクニックの場所に着きました。自由行動ですが、12時になりましたら昼食を用意していますので、こちらに戻ってくださいね。それから北の森の方には近づかないように。かなり奥深くて過去に迷ってしまった生徒も居ますので、気を付けてください」
引率の先生がそう言うと、生徒はあちこちに散っていった。
時刻は10時半。引率の先生方は使用人に指示して昼食の準備を始めている。簡易テーブルをいくつか並べているので食事はビュッフェ形式になるようだ。
ノエルとクリフは着くなり他の男子生徒達と湖の方へ行ってしまった。
「アリアナ様、あちらの大きな木の下にシートを敷きましょう」
「ええ、ミリア様」
私はそう答えながら辺りを見回した。
(ヒロインのリリーは何処にいるんだろう?)
何せこのピクニック、イベントが満載なのだ。アリアナがヒロインを湖に突き落とし、それをディーンもしくはパーシヴァルが助けるというパターンもあったはずだ。
いや、これに関しては絶対やらないけどね・・・。
「あとはアリアナに壊されたボートに乗って、溺れかけたヒロインを助けるパターンとか、アリアナに騙されて北の森に迷い込んだヒロインを助けるパターン。昼食の時、アリアナがヒロインにお茶をぶっかけるパターン、馬車が突っ込んでくるのもあったような・・・。」
「アリアナ様、どうされました?」
ぶつぶつ言いながら考え込んでいた私を、レティが不思議そうに見る。
「えっ、おほほほ、何でもないですわ」
(やばい・・・このピクニック、アリアナが破滅ルートに繋がるイベントが満載じゃないの!?マジでヒロインに近づかないでおこう)
そう思ってミリア達が用意してくれたピクニックシートに座った時だった。
「あ、あの・・・アリアナ様・・・」
鈴を転がすような美しく澄んだ声でそう呼ばれ、私は背中に冷たい汗が流れるのが分かった。
(う、嘘でしょっ?)
ぎっ、ぎっ、ぎっと、きしむ音が鳴りそうな調子で、私はゆっくり後ろを振り返った。そこに立っていた人物は・・・
(リ、リリー・ハートっ!?!)
「アリアナ様、今、少しお時間宜しいでしょうか・・・?」
美しい山々と湖をバックに、それに負けない程美しい少女。
(な、な、なんでーっ!なんでここ居るの?ヒロイン~~~!)
顔が引きつり全身から汗が噴き出てくる。
それでも気力を振り絞って、私は答えた。
「リ、リリリ、リリー様、ごごご、ごきげんよう。」
いかん、虫の声じゃあるまいし、どもり過ぎだって!。額からも汗が流れ落ちる。
「アリアナ様、あの・・・」
リリーが再びしゃべりかけた時だった。
「リリーさん、こちらは3組ですよ。リリーさんは1組ですよね?」
ミリアがにこやかながらも毅然とした態度でそう言った。
「え、ええ、でも私、アリアナ様に・・・」
「わ、私達、グループのものだけで楽しんでますのよ。遠慮して頂けたらありがたいのですが・・・」
今度はレティシアがリリーに向かってそう言った。ジョージアは一人、その様子を気まずそうに見ている。
(えっ?)
私はびっくりした。だって、あの優しいミリアとレティシアが、リリーに対して随分冷たい態度なのだ。口調は丁寧だけど、はっきりとした拒絶を感じる。
(え?どうして!?)
リリーの綺麗な目に涙が滲んだ。彼女は口元に手をやり、涙を隠す様にうつむく。
(うっ、これは・・・キツイかも・・・。)
こういうのって苦手なのよね。人から拒絶されたり、仲間外れにされたりって、本当に辛いの分かるし。しかも、リリーには何も落ち度が無いんだもの。理由も無しにそういう事されたら、どうしたら良いのか分からなくなるよね。
(リリーにはなるべく近づかないって決めていたけど・・・。)
「あ、あの、私、リリー様のお話を伺いたいですわ。」
私は思わずそう言ってた。
「アリアナ様!!」
ミリアとレティシアが声をあげる。
(うんうん、分かるよ。嫌がってたもんね。だから・・・。)
「ちょっと二人で席を外します。ここでなければ良いでしょう?」
そう言うと二人はかなり慌てた。
「そ、そんな。アリアナ様が席を外されることは無いですわ」
「そ、そうですよ。アリアナ様はここにいらっしゃってください」
そう言ってくれる。これってやっぱり公爵令嬢の私に気を使ってくれてるんだろうなぁ。なんだかつけ込むようで悪いけど・・・
「では、ここで少しだけリリー様のお話を伺ってもよろしいでしょうか?」
私はにっこり笑って両手を合わせ、拝むようにしてそう言った。そして、
「リリー様、どうぞ私の横にお座りくださいませ」
彼女にそう促した。
「ア、アリアナ様、ありがとうございます・・・」
リリーの目には、先程とは違う意味で涙が光っていた。
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