第12話 めざせ就労女子!

 「学園入学前に調べましたの。本当は入学も辞退したかったのですけど、魔法を学ぶだけが学園生活じゃないからって、両親に説得されたのです」


 そう、アリアナ・コールリッジはゲーム設定では魔力無しなのだ。だから2年進級時には一番下の劣等生クラスに入れられていた。


 (私と違ってアリアナは勉強も全く出来なかったからね~。毎年お金の力で進級してたのよね、確か)


 実は貴族でも魔力無しはそこそこいるらしい。そういう者は、残念ながら出世は出来ないので、男性の場合は何か自分の身を立てるものを学ばなくてはいけない。剣術とか、商売とか。ただ女性は結婚という逃げ道があるから、身分の高い者に関しては大丈夫らしいのだが・・・


 (でも、せっかくこういう世界に生まれ変わったんだもん私だって氷出したり、雷起こしたり楽しみたかった・・・。魔術が全く使えないなんて、ほんとがっかりだ。)


 「ア、アリアナ様・・・。でもアリアナ様は勉学が凄くお出来になりますでしょ?!」


 「そうそう、それに凄く可愛らしいし!」


 「公爵令嬢でいらっしゃいますものねっ、それに、あの・・・ディーン様と言う婚約者もいらっしゃいますし」


3人とも一生懸命私を慰めようとしてくれてる。貴族のくせに魔力無しだと馬鹿にすることもない。本当にこの子達良い子だわ!


 「アリアナ嬢にはコールリッジ公爵家の強い血が流れているからね。ディーン殿と結婚するなら、全く問題は無いでしょ」


 ノエルも穏やかに笑いながらそう言ってくれた。


 (この子も優しいな・・・ふふ、でも私には慰めはいらないのだよ)


 私は笑みを浮かべた。精一杯悪役っぽくないようにしたつもりで。


 「ありがとうございます。でも皆様、実は私は勉学をしっかり修めてアンファエルン学園の教師になりたいと思っているのです」


 「えっ!?」


 私がきっぱりとそう言うと、皆は驚いて私に注目した。


 「魔術の教師は無理ですが、一般教育学や薬草学などの教師なら魔術が無くても大丈夫でしょう?もしくは、皇国の政治や経済に関わる仕事でも良いですわ。私、自分で身を立てられるようになりたいのです」


 「え、あの、でも婚約者のディーン様との結婚は・・・?」


 「ディーン様は私の事が好きでは無いのです。」


 はっきりそう言うと、皆ハッと息を飲んだが。やはり、そう言った噂は流れているのだろう。


 「だから学園を卒業した時に何があって良いように、将来に備えたいと思っているのですわっ」


 そう言って拳を握ると、皆呆気に取られたように黙ってしまった。でもその時、


 「ぶっ・・・あっははははははっ」


 沈黙を破って、クリフが文字通りお腹を抱えて笑い出した。


 「お、おいクリフ。」


 慌てたようにノエルがたしなめたが、クリフは目に涙を浮かべて笑い続けている。


 (私、そんなに笑わせるようなこと言ったかしら・・・?)


 ジト目でクリフの方を見ると、それに気づいたのか


 「悪い、悪い、・・・くくっ・・、ただ、アリアナ嬢は噂で聞くのとは、随分違うようだと思って・・・はは」


 謝りながらもまだ笑っている。

 

 (失礼だな、こんにゃろ・・・)


 私は腰に手を当てて、クリフを睨みつけた。背が低いので見下ろす事は出来ないけれど、精一杯背筋を伸ばす。


 「噂というのは、尾ひれも背びれも胸びれも付くものですわ。噂で人を判断してますと、いつか足元救われますわよっ!」


 (そう、クリフのバッドエンドみたいにね!)


 私がフンと横を向くと、クリフは笑うのをやめて


 「すまなかった、アリアナ嬢。ちゃんと謝るよ、ごめん。それに俺はアリアナ嬢の考え方、気に入ったよ」


 「え?」


 こんなに素直に謝られると思ってなかった。意外と良い奴かも?


 「でも、アリアナ嬢は公爵令嬢だ。ディーン殿と結婚しなくても、相手には困らないんじゃないのか?」


 と聞いて来たので、つい「ふふん」と笑ってしまった。


 「私、男性にすがって生きようとは思いませんわ。むろん、政治的戦略として私を使いたい方も居ると思います。両親は私を愛してくれていますが、父はそういう事も考えていると思いますわ。でも、それに大人しく乗る気はさらさらありませんの。だってそんなのつまらないんですもの」


 そう、国の中枢に居る貴族なら政略結婚は当然だ。でも本当の私は貴族なんかじゃない。


 「お相手を自分で見つけたいと言う事ですか?」


 ミリアがそう聞いて来たので、私は首を横に振った。


 「そういう事では無くて・・・私が生きていくのに、無理に好きでもない方と結婚する必要は無いかなって、そう思うだけです。もちろん、慕う方が出来れば別ですけど・・・」


 (慕う方か・・・私に関してはありえないな)


 だから精々朗らかに笑って、


 「そうですね・・・、自分よりも利口で知恵も知識も行動力もある女性を伴侶として迎える度量のある方なら、結婚してもあげても良いですわ」


 そう言ってウィンクしてやった。


 (うーん、今の言い方は悪役令嬢ぽかったかも?。あはは、まぁいっか)


 「アリアナ様っ、素敵だわっ!」


 ジョージアが急に私の手を握りしめた。


 「私も小さい時から疑問に思ってたの。どうして女性は男性と結婚する事だけを求められるのだろうって。しかも親に勝手に結婚相手を決められて!。結婚相手ぐらい自分で決めたいわよね!?」


 そう言ってキラキラした目で私を見つめた。


 「それに、私も男性の様に・・・。ううん、男性以上に働いて身を立てたいって常日頃思っていたの!」


 「おい、おい、ジョー。女性貴族で働いてる人は少ないし、男性と同じように働けるとは思わないな」


 ノエルがそう言うと、


 「そうね~ノエル。そういう考え方の人は多いわよね。でもジョーは、あなたより魔力が強いし勉強も出来るわよね~。という事はお仕事もジョーの方が出来そうよぉ~。それに別に結婚しても働けるでしょう?。エライシャ先生だってそうなさっているじゃない?」


 ミリアがおっとりとした口調で言った。でも目が笑ってない。怖い・・・。ノエルも顔が少し青くなってる。


 (う~ん、力関係が分かるな)


 「私は、素敵な殿方となら結婚したいと思いますが・・・。でも・・・旦那様が許してくれれば私も働いてみたいです」


 レティもそう言った。


 私は皆に考えを認めてもらえたのが、単純に嬉しかった。


 「わぁ、同じ考えの方がいらして嬉しいわ。私達、頑張って就職目指しましょう!」


 そう言って、就労&自立希望女子4人で輪の様に手を繋いだ。


 「あはっ、良いねそういうの。アリアナ嬢、俺も応援するよ」


 クリフは楽しそうにそう言って、私に笑顔を向けてくれた。


 (ぐっ!うあっ!美形の笑顔が眩しい!)


 一瞬ドキッとしてしまった。イケメン好きな私としては、勝手に胸がトキメいてしまうでは無いか!


 (さ、さすが攻略対象。まだ13歳だと言うのに麗しさ半端ない!。・・・いやいや、落ち着け自分。なんだかクリフに気に入られたみたいだけど、あまり近づかないようにしないとね)


 私はバッドエンドの多いクリフ・ルートを思い出しながら息を整えた。


 でも、クリフはゲームの中ではすごくひねくれていたのに、今の彼はそんな事は無いみたい。


 ぶっきらぼうだけど、普通の(超絶美形だけど)男の子。2年生でのひねくれ方とは違和感を感じる。1年の時に何かあったのだろうか?


 (説明書にはそこまでは書いていなかったなぁ・・・)


 やがて、話に花を咲かせているうちに、馬車はピクニック場所に到着した。


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