第4話 興味はございません!

 「あ、あ、あら~、リリー・ハート様。こんな所にいましたのね!」


 さりげなく、私はリリーと女生徒達の間に入っていった。


 ちょっと声が大きすぎて、上ずっていたし、若干ワザとらし言い方だったけどね・・・。


 でも私の声を聴いて、そして突然渡り廊下の陰から現れた私の姿を見て、女生徒は振り上げていた手を止めた。


 そして他の女生徒達と一緒に、今度は私に対して向き直った。


 (う、怖・・・。)


 同級生のはずだけど、全員私よりも背が高い。それに今まで口論してたせいか目がギラついてる。



 「な、なんですの貴方っ。誰ですの?邪魔をしないでくださいます?」


 手を振り上げてた女生徒が甲高い声を上げた。


 そう言えば私、1か月遅れで一昨日学園に入学した所だから、顔覚えられてなくて当然なのだった。クラスも違うようであるし。


 興奮気味の相手に若干ビビりつつ、私はなるべく落ち着いた態度と涼しい声で返事を返した。


 「わたくしは、アリアナ・コールリッジ。一昨日遅れてこの学園に参りました」


 そしてにっこりと渾身の微笑みを浮かべてみせた。


 「コールリッジ・・・!?」


 私が名乗ると女生徒達の間にザワっと緊張が走った。


 (ふっふっふ)


 そりゃ、そうでしょう。実はコールリッジ家と言えば泣く子も黙るこの国の筆頭公爵家。そんじょそこらの貴族じゃ、太刀打ちできないほどの大貴族なのだ。


 こちらを睨んでいたはずの女生徒達は動揺し始め、急に態度が大人しくなった。


 (おー!水戸黄門状態だー)


 私がちょっと感動を覚えていると、


 「し、失礼を致しました!。アリアナ様、お久しゅうございます。」


 どうやら以前お茶会かなんかで私と面識があったのだろう、一人の女生徒が私に話しかけてきた。


 「アリアナ様っ。こ、ここにいるリリー・ハートは庶民のくせに、あなた様の婚約者であるディーン様を誘惑しようとしてたんですよ!」


 慌てた様子で、私に向かってリリーの悪口を言い始めた。


 「そ、そうですよ。私達はそれを注意していたのです。アリアナ様もお嫌でしょう?、この人になんとか言ってやってくださいませ」


 そう言って、にやにや笑いながら私を仲間に引き込もうとしてきた。


 ちょ、ちょ、ちょっと!マジやめてくれ!


 (冗談じゃない!こういうのがダメだから、目立たないようにしようと思ってたのに!、くそーこいつら私を破滅させる気か!?)


 「昼食の時間や、放課後もディーン様にまとわりついていて。」


 「ディーン様だけでなく、この国の第二皇子のパーシヴァル様にも色目を使ってるんですよ。」


 「もしかして、この学園に入れたのも、先生方に媚を売ったからじゃないのかしら?」


 「そうよね~、じゃないと庶民が貴族の為の学校に入るなんて、おかしいですもの。」


 女生徒達の悪口はどんどんエスカレートしていく。


 「そ、そんなこと・・・私は・・。」


 あまりの言いぐさに、リリーの声が震えた。


 すっかり私を取り込んだ気になっている女生徒達は、にやにや笑いながら私の方にすり寄ってきた。


 私は黙ったまま彼女達の間をすり抜ける様にリリーの方へ進んだ。女生徒達はそれを勘違いしたのか、「アリアナ様、どうぞお仕置きしてやってください」なんて言ってくる。


 おあいにく様、私はこんな奴らの仲間になんてなるわけがない!


 私は彼女を背に庇うようにし、女生徒達に向き直った。


 「貴女達、何を言っているのですか?。媚でこの学園に入れるわけが無いでしょう?。貴方達の仰っている事は、この学園の先生方に対する侮辱でしてよ!」


 私の言葉に、女生徒達のにやにや笑いが固まった。


 「リリー様がこの学園に入られたのは間違いなく彼女の実力。・・・それにわたくしディーン様が誰を気にかけようと、全く気にしておりませんの!」


 きっぱり宣言すると、女生徒達は鳩が豆鉄砲くらったような(いや、実際見た事無いけど)顔をした。


 「それから、誘惑にのるような男性については、これっぽっちも興味はございませんわ」


 そう言うと今度は口をポカーンとあけて、呆気にとられた。


 (よし、今のうちだ!)


 「リリー様」


 「あ、はいっ。」


 「アーボット先生がリリー様を探してましたので、一緒に参りましょう。それでは皆様ごきげんよう、おほほ」


 そう言って、私はまだ状況がつかめていない様子のリリーの手をむんずとつかむと、超速足でその場を後にしたのだ。



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