第10話 心重ねて

永島龍子。

彼女は俺を否定していた。

しかしそのうちに俺を半分は認めてくれた様だ。

俺はその姿を見ながら考える。

そうしていると昼になった。


「山形くん」

「ああ。横山」

「その。お昼ご飯.....龍子ちゃんも呼んで良いかな」

「え?.....俺は構わないが。だがアイツは良いのか。永島は」

「龍子ちゃんと仲良くなってほしいから」


言いながら俺をニコニコして見てくる永島。

しかしアイツは書記だぞ。

次期生徒会長に就任するかもしれない様な。

俺の様なゴミクズと馴れ合うのは、と思うが。


横山は見透かした様に、そんな事ないよ、と否定した。

俺は、!、と浮かべながら横山を見る。

柔和に俺を見る横山。


「君が考えている事は手に取って分かるよ。あはは。だからこそ言うけど。私はそうは思わないよ」

「横山.....」

「あくまで私は君が良い人だから言ってる」


俺に対してそう話しながら。

横山はニコッとする。

それから俺に真剣な顔をする。

そしてこう告げてきた。


「貴方の彼女とは違う。私達は貴方をこうして見ているから」

「成程な。.....有難うな。そう言ってくれて」

「貴方の彼女は最低だけど。私は分かる。貴方が素晴らしい人だって」


それは言い過ぎだとは思うが。

思いながら俺は苦笑いを浮かべる。

だが横山はニコニコしながら俺をずっと見てくる。

俺はその顔に複雑な気持ちになる。

すると横山は、じゃあ行こうか、と俺の手を握ってきた。


「あ、お、おい」

「行くよ。早くしないとお昼時間終わっちゃうよ」

「しかし俺はまだ行くって言ってないぞ!?」

「大丈夫だよ。君の顔は行くって言ってる」


俺の言葉にそう返事をする横山。

そんな言葉に俺は驚きながら横山を見る。

そして横山は俺の手を握ったまま駆け出して行く。

それから屋上までやって来た。

その場に永島が居る。


「遅かったわね」

「ゴメンね。龍子ちゃん。何か山形くんが行きたがらなくて」

「俺なんかが邪魔をしたら悪いかと思ってな。.....すまない」

「.....大丈夫よ」


そっけない態度だが。

嫌がっている様には見えなかった。

俺はその姿に、変わったものだな。コイツも、と思ってしまう。

そう思いながら俺は永島を見る。

すると永島は、早くしないと昼休み終わるわよ、と話してきた。


「あ。そうだね。急がないと。じゃあ食べようか。ね?山形くん」

「あ、ああ」


俺はそう返事をしながらお弁当を受け取る。

目の前の永島はかなり小さいお弁当を持っている。

俺のお弁当の10分の1くらいの大きさしかない。

何というか心配になるが。


「大丈夫よ」


あまりに見すぎたのか俺にそう話してくる永島。

それからクスッと笑う。

俺はその姿に、そうか?、と聞く。

永島は、私はあまり食べないの。ストレスでね、と永島は話す。


「ピアノのコンクールのストレスとかもあってね。私はあまり食べない」

「ピアノをやっているのか?」

「.....そうね。くだらない事よ。そもそも私は.....どんなに頑張っても登るのがコンクール中5位ぐらいにしかならない。私は落ちこぼれね」


言いながら俯いて自嘲気味になる永島。

俺は顎に手を添える。

それから永島をもう一度見る。

俺はそうは思わないな、と話した。


「.....何故そう言えるの?」

「お前は一生懸命に頑張っている。落ちこぼれは何もしない奴だ。俺なんかそうだしな」

「.....貴方は本当に不思議な人ね。貴方は自分を犠牲にして他人を救おうとしている。いつも。でも貴方のやり方はあまりお勧めしないわ」

「俺は良いんだ。俺なんかは救われる意味が.....」


それは無いわよ、と永島は苦笑いを浮かべる。

それから横を指差してくる。

俺の右側に居た横山が悲しげな顔をしていた。

その顔に慌てて、ま、まあ救われる意味は無いけどあるかもな、うん、と頷く。


「.....山形。私は貴方を特別視しているわ。だからそんな事は言わないの。大丈夫よ。貴方は救われる運命の下にあるわ」

「永島.....」

「貴方の様な人は沢山見たし沢山出逢ってきた。だけど貴方の様な心からの善人は居なかったわ。嘘吐き、傲慢、ゴミクズ。大罪に当て嵌まる野郎ばかりだった。だけど貴方は不良だけど魅力がある。だから自信は持ちなさい。大丈夫よ」


そんな事を言われたのは初めてだった。

何故なら俺の存在は常に、無い、とされていたから。

正直に言って意見は厳しいかもしれないが。

俺にとってはあまりに衝撃だった。


「そうだよ。山形くん。私は初めから言っているけど。貴方には魅力があるんだよ。あはは」

「横山.....」

「だから自信を持ってね」


『貴方は素晴らしい息子よ。貴方が幸せになる事を祈ってるわ』


笑みを浮かべる2人を見て。

その言葉が頭を過ぎる。

成程な。


何かやっと俺は掴んだんだな。

きっと何かを。

そう初めて思えた様な気持ちになった。


「母親みたいだな。お前ら」

「母性があるって事かしら?」

「まあそういう意味だな。すまない」


2人は驚きながらクスッと笑う。

そして永島は、まあ。とにかく食べましょう、と提案してくる。

俺はその言葉に少しだけ笑みを浮かべて、だな、と返事をした。

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