第9話 永島龍子の言葉
人の全てを大切にする。
歩み出す。
それは.....俺にとっては良く分からない問題だ。
何故なら俺は暴力を行なった事もある。
そういう不良だから、だ。
だが.....そんな馬鹿な俺でも1つの今の事は分かる。
大切な思いを大切にする、という事が、だ。
俺は考えながら外を見る。
世の中にはそれすらも分からない様な奴も居る様だが。
永島は違う。
「.....2人で幸せになってくれればそれが一番.....か」
そう呟きながら窓から外を見ていると。
ねえねえ、と声がした。
横を見ると横山が立っている。
満面の笑顔で、だ。
俺は、な、何だ?、と声を掛ける。
「今日は.....有難うね」
「ああ。その事か。.....心配するな。.....俺は何もしてない」
「君はいつもそう言うけど.....君がしてくれた事は本当に大きいよ。山形くん」
「.....ああ。でもそれは事実だ」
ま、まあそれは置いて。そ、それで.....、と声を発する横山。
俺は、?、を浮かべながらその姿を見る。
すると横山は何かを差し出してくる。
それは.....布に包まれたものだ。
「.....これは何だ?」
「これは.....お菓子。.....作った。初めて」
「.....!.....それを俺に?.....永島に渡せば良いじゃないか」
「駄目。君だから」
「.....?」
俺は訳も分からず中身を見てみる。
それはマドレーヌとかクッキーとかそういうのだった。
意外だな。
横山はこういうのも作った事があるのかと思ったのだが。
「.....初めて作ったのか」
「そうだね.....は、初めてだから味は期待しないで」
「.....そうか。.....永島にも渡してやってくれないか」
「う、うん。龍子ちゃんにも渡すけどね」
「.....ああ」
そしてそんな会話をしていると。
クラスの女子達が、その.....、といきなり横山に声を掛ける。
駄目だよ。山形とあまり話をしたら、という感じで。
俺は、!、と思いながらハッとする。
それもそうだな、と思いながら。
心配するよな、と考えながら。
何を浮かれていたのか。
「え.....そ、そんな事ないよ」
横山が困惑する。
それからクラスの女子達は、でも.....沙羅ちゃんが襲われたの.....山形が原因でしょ?、と俺を見ながら話す。
俺は目線を逸らしながら、ふむ、と納得する。
横山は、そんな事ないもん、と言っているが納得してない様だった。
すると。
「待って」
そう声がした。
顔を横に向けると.....プリントを持った永島が居た。
相変わらず険しい顔をしている。
そして俺を見据えながら眉を顰めている.....が。
予想外の言葉が出た。
「.....彼は悪くないわ」
まさかの言葉にクラス中が、え?、という感じになる。
それもそうである。
何故なら永島は.....生徒会書記である。
つまりその様に話すのは説得力があるのだ。
「私は誤解していた。.....改めて沙羅に話を聞いたら.....納得した」
「.....龍子ちゃん.....」
「人は見かけによらぬもの、ね。.....私はそう思ったわ」
「.....」
俺は唖然としながら永島を見る。
するとクラスメイト達が、永島が言うならマジかもな、と納得しだす。
どういう事だ、と思いながら俺は永島を見る。
永島は、貴方の事を誤解していたかもしれない。.....私は、と切り出して見上げてきながら向いてくる。
その言葉に横山はニコッとする。
「.....有難う。龍子ちゃん。庇ってくれて。嬉しい」
「勘違いはしないで。.....強く信頼した訳じゃない。全てを庇ったつもりもない」
「.....充分だよ。.....有難うね」
横山は目の前の永島を見ながらニコニコする。
俺はその姿を見ながら永島を見る。
すると永島は俺を見てから、沙羅の事を助けてくれて有難う、と向いてくる。
その姿を見ながら俺は頬を掻く。
「.....沙羅。生徒会の資料を持ってきたわ」
「あ。そうなんだね。龍子ちゃん」
「.....用事はそれだけ。今はちょっと忙しいから.....また後で会いましょう」
言いながらそのまま永島は去って行く。
その背中を見ながら一瞬考えてから、永島、と声を掛ける。
すると永島は俺に向く。
それから、何かしら、と言葉を発する。
俺はその言葉に返事をする様に、ありがとう、と言葉を発した。
「.....お前にこうやって助けられるとは思わなかった」
「.....私が貴方から頂いたモノを返しているだけよ。だから何もしてない。助けたつもりもないわ」
「.....そうか。.....それはそれで有難うな」
「.....」
永島はそのまま去って行く。
俺はその姿を見ながら横山を見る。
横山は笑顔を浮かべながら俺達の関係を見ていた。
何だか嫉妬しちゃうな、と言いながら。
そんな言葉に俺は苦笑しながら.....そのまま椅子に腰掛ける。
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