第7話 笑顔のワケ

横山が俺の部屋の隣の部屋に引っ越すと言い出してから丁度夜になった。

俺は布団の上で後頭部に両手を添えながら天井を見上げる。

あの後、横山は俺に生徒手帳を返してから。

そのまま俺にこう告げてきた。


『でもその。お部屋を片付けた方が良いかもね。虫が湧いちゃう。今日は時間が無いからアレなんだけど.....明日にでも片付けようかな』


という感じで、であるが。

横山は俺に夕食を作って笑顔を浮かべていた。

俺はそれは何だか悪い気がしたので片付ける事にする。

それから片してから今に至っているのだが。

横山は不思議な女性だ。


「.....借金苦.....か」


俺の親父とは正反対の存在だ。

何故なら俺の親父はギャンブル中毒だったから。

だから横山の.....その。

ご両親はとても真面目だったんだろうな、と思う。


「.....」


そんな良い子のご両親が自殺なんて.....想像もしたくない。

思いながら俺は横を向いた。

それからそのまま目を閉じる。

そして.....眠りに落ちた。



ピンポーンと音がした。

俺は目を覚ましながら、?、を浮かべてまた警戒する。

こんな朝から何なのだ。

思いながらドアを開けるとそこに横山が立っていた。


「おはよう」

「.....おはようってこんな朝早くに何をしに来たんだ?」

「言ったでしょ?暫くこの場所に通うって」

「.....確かに聞いたが.....」

「入っても良いかな」


横山は笑みを浮かべる。

俺はその姿に、あ、ああ、と返事をしながら招き入れる。

それから申し訳なさそうな顔をした。

その姿に、?、をまた浮かべる。

するとこう話してきた。


「ゴメンね。引っ越そうと思ったけど龍子ちゃんが許さないって。引っ越すの」

「.....え.....ああ.....そうなのか」

「だから今日から通う事にするね」

「.....ああ」


本当は今日も龍子ちゃんは許さなかったけど。

だけど私がゴリ押しで話したら行っても良いって言ったから来ちゃった。

と笑顔になる横山。

俺はその姿を見ながら、そうなのか、と反応する。


「.....龍子ちゃん厳しいからね.....ゴメンね。あれこれ言ったのに」

「.....いや。.....そういう事情もあるだろうからな。.....大丈夫だ」

「代わりに今日から通うからね。.....定期的に」

「実際それも大丈夫なのか。.....その。永島が怒らないのか」

「だって君は良い人だから」


ニコッとしながら、それから昨日はゴメンね。片付けれなくて、と申し訳そうな顔をしてから周りを見渡して驚く。

あ、片付いてる、と言いながら。

俺は、ああ。申し訳無い感じがしたから昨日片したんだ、と告げる。


「.....そうなんだね」

「ああ。.....有難うな」

「じゃあ今日は朝食を作ろうかな。.....学校に行く準備もしないとね」

「.....そうだな」


それから俺は準備を始める為に洗面所に向かう。

そして顔を洗ってから制服を着る。

そうしてから戻ると.....そこに美味しそうなトーストと目玉焼きとハムが置かれており.....横山は鼻歌を歌っていた。

可憐な姿だ。


「あ。戻って来たんだね」

「.....ああ。.....すまないな。こういうものを作ってもらって」

「作ったっていうか地味だけどね。.....簡単なものだし。.....こっちこそゴメンね」

「これが簡単?.....凄いなお前は」


うん。簡単だよ?

だって卵落として実際に焼くだけだし、とまた笑顔になる横山。

俺はその姿を見ながら顎に手を添える。

それから、なあ、と聞く。

そしてこう尋ねた。


「.....お前はどうしてそんなに明るい笑顔を浮かべられるのか?」

「?」

「.....お前は.....相当に苦しい思いをした筈なのに」

「私は.....そうだね。.....明るく無いと周りが暗くなるから笑顔で居るんだよ」


私自身が笑顔で居ないとお父さんもお母さんもきっと見ているから.....心配しちゃう、と俺に向いてきながら柔和になる。

俺はその姿を見ながら、成程な、と頷く。

それから、お前はそれらを基に動いているんだな、と向く。


「でも私はそれだけじゃ.....無いって思うけどね」

「.....?.....それだけじゃ無いっていうのはどういう事だ」

「私、貴方のお陰もある」

「.....俺のお陰?」

「そう。貴方という存在があるから笑顔で居られる」


1年前ぐらい前からそう思ってる、と俺に笑みを浮かべる。

そして、だからこの前渡したお弁当も学級委員としての意味もあるけどそれ以外にも多くの意味がある。その中の1つが今の様な感謝の思いなの、とニコッとした。

俺はその姿に、!、と浮かべながら横山を見る。

そして、.....でもその。照れくさいね、こういうの、と笑顔になる横山。


「何というかこの気持ちが少しだけでも君に伝わると良いけど」

「.....十分に伝わってる。.....有難うな」

「うん。そっか。なら良かったよ」


そして、じゃあ食べよっか、という横山に。

俺は頷きながら座布団に腰掛ける。

それから.....手を合わせている横山を見た。

こんなに良い娘なのにな、と思う。

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