第6話 大きい決断
横山を見ながら俺は、お茶を飲むか、と提案する。
すると横山は、うん。でもお構いなく、と笑顔になる。
俺はその姿を見ながら汚い急須でお茶を入れる。
こんなどっかのガラクタの様な急須がまさか役に立つ日が来るとはな。
思いながら俺はお茶を淹れる。
「.....」
「ど、どうした?横山。気になる事でもあるのか」
「いや。急須からお茶を淹れるの.....面倒臭くない?凄いなって」
「.....母親に教わったんだ。それでな」
「そっか」
横山は差し出した汚らしいカップに入ったお茶を飲む。
それから==的な目をしてからほうっと息を吐く。
そして周りを見渡した。
い草の良い香りがする、と言うが。
そんな馬鹿な。
「築何年も経っている。.....そんな訳が無い」
「まあ確かにね。.....でも好きだな。.....私。こういう部屋の香り」
「.....」
「.....」
俺は言葉に詰まって黙りながらお茶を静かに飲む。
すると横山が、ねえねえ、と声を掛けてくる。
俺は顔を上げると。
横山がめっちゃ近くに居た。
何をしている!?
「今度から通っても良い?ここに」
「.....何.....かよう.....通うってなんだ!!!!?」
「通うんだよ。私がお迎えとか朝ご飯とか作るの」
「.....!」
「.....ダメ?」
ダメ.....では無いが。
過ったのはあの顔.....というか。
永島の顔が浮かぶ。
俺は首を横に振った。
それから、いい。有難うな。そう提案してくれて、と笑顔を浮かべる。
「まあそう言うと思った。でも私は落語の門下生と同じ様に通うから」
「え?.....い、いや。だから良いって」
「芸能界を甘く見ないでねぇ」
「.....芸能界と比較したらダメだろ.....」
アハハ。まあ冗談は置いておいて。
私は通うよこの場所に、と笑顔を浮かべる横山。
俺は、それはしない方が良い、と言うが。
ダメ。何があっても通う、とニコニコする横山。
「また危険な目に遭っても.....」
「遭ったら君が守ってくれるでしょ?」
「.....いや.....俺はそもそも護れてすらいない」
「.....ううん。そんな事はない」
あの時.....君は逃げず。
私を襲ってきた人を威圧してくれた。
君は.....ヒーローだよ。私の、と笑顔を浮かべる横山。
それから俺の手をしっかり握った。
その分の恩返し、と言いながら。
「.....私はしっかり貴方に恩返しする」
「.....そんな事をして何になる?お前.....危険が伴うぞ」
「だから君が護ってくれるでしょ?」
「.....」
護る.....か。
あの時すら護れてないのにな。
今更その言葉を聞いても、と思うが。
すると横山は立ち上がる。
それからニコッとしながら勝手に窓を開ける。
「.....気持ち良い場所だね」
「.....そうだな。.....俺はいつもその場所から外を眺めている」
「そうなんだ。.....じゃあ今度からは2人で見ようよ」
それ同居している恋人の様なセリフなんだが。
思いながら俺は外を見遣る。
すると頬杖をつきながら俺を見てくる横山。
そしてまたニコニコしながら目を細める。
「.....まるで恋人みたいだね」
「.....その恋人みたいな事をしているのはお前だ」
「そうだね。.....えへへ」
「.....」
よく分からないな。
思いながら俺は横山を見ながら外を見る。
それから、うん。やっぱり決めた、と立ち上がる。
そして、このアパートに引っ越す、と話してくる。
「.....は!!!!?」
「どうせ.....あの場所には悲しみしか無いから。.....だから知り合いを説得してこの場所に引っ越す。勿論、横の部屋だけどね。空き部屋だったよね?」
「意味が分からない.....!?何故いきなりそんな事になる!?」
「その場所に引っ越したらこの場所にいつでも来れるから」
「.....だが.....」
だってマンションに私1人暮らしなんだよ?
それは危ないと思わない?、と向いてくる横山。
待て待て。
オートロックとかあるだろうに。
思いながら俺は横山を見る。
「.....オートロックとかあるだろ。お前」
「オートロックとか私の力弱いし何の役にも立たないよ?アハハ。だって私だけしか住んでないんだから。私は君の側に居る方が安心だな」
「.....」
まあお前が決めるならもう何でも。
思いながら俺は諦めた様に溜息を吐く。
そうしていると横山が聞いてきた。
鍋島とは会ったの、と。
俺は、!、と思う。
「.....私はそんな女はもう捨てて良いと思うけど。今直ぐに。だからもう会わなくて良いんじゃ無いかな」
「.....和穂とは会ってないからな.....もう絶縁しているとも言える。お前の言う通り会わなくても良いと思うがあくまで彼女彼氏関係だしな」
「山形くんを捨てた癖に。あの女」
「.....そうだな」
言いながら眉を顰めて目の前を厳しい顔で見る横山。
俺はその顔に気を紛らわせる為に聞く。
お前は何故ここまであれこれするんだ、と。
すると横山は口をω の様にして、それは内緒、と唇に人差し指を添えて満面の笑顔になった。
「内緒ったら内緒」
「.....訳が分からない.....」
そもそも社会から省かれた俺だ。
なのに何故この娘は.....俺に手を差し伸べる?
こんな俺に.....何故。
思いながら俺は窓から手すりを触って外を見た。
訳が分からないな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます