第2話 真逆の心

そもそも彼女の浮気相手に殴られるとは。

訳が分からないと思う。

考えながら俺は痛む頬を触りながら横山を見る。


横山は鼻歌混じりで何かを作っている。

温かい夕食を作ってあげる、と言われたのでお世話になっているのだが。

でも正直言って.....悪い気しか起こらない。

横山に申し訳ない感じだ。


「はい」

「.....これは何だ?」

「あんかけチャーハンだよ」

「.....!」


湯気がもの凄い。

あんがしっかりトロトロしており食欲をそそる。

7月なのだが.....だがそれでも雨に濡れていたのでこの熱さが丁度心地良かった。

俺には.....こんな優しいご飯を食べる資格は無いのにな。

そう。

俺の様な.....親にも見捨てられた様なクソッタレな野郎には。


「食べないの?」

「.....いや。.....正直言って良いのか。俺がこれを食べて」

「?.....不思議な事を言うね。アハハ。食べて良いに決まっているでしょ」

「だが.....不良だぞ俺は。良いのか」

「.....君だからこそだよ」


意味深な事を言いながら、さ。さて。早く食べよ、と笑顔になる。

俺はその姿にため息を盛大に吐きながらあんかけチャーハンを一口.....何だこれは.....メチャクチャどころの騒ぎじゃない。


そこら辺の定食屋の味を超えているじゃねーか。

海老もそうだがあんがしっかり味を.....。

視界が歪んだ。


「.....はは」

「ちょ、ちょっと待って。どうしたの.....!?」

「.....いや。.....ゴメンな。みっともなく泣いちまって。.....ただ懐かしいなって」

「.....ご両親のご飯と似ているって事?」

「横山。.....俺はな。.....それこそぶっ殺したいぐらい憎んでいる相手が居る.....俺の母親はとても優しかったんだが.....その母親の暖かさと同じだな。お前の暖かさは」

「私は.....そこまで偉大じゃ無いよ」


この世界にはもう希望も無いかと思っていた。

だけどその中で.....こんなにも優しい人も居るんだな、と。

そう思いながら俺はあんかけチャーハンを食べる。

正直この17年生きてきて初めてだと思う。

ここまでゆっくり食べたのは。



「ごちそうさまでした」

「はい。アハハ」

「.....」

「.....じゃあ片付けてくるね」


言いながら横山は慌てる様に器を片付ける。

その姿を見ながら俺は立ち上がる。

それから食器を洗う姿に俺も横から手伝った。

すると横山はビクッとする。


「.....どうしたの?」

「どうしたのって手伝うの当たり前だろう。.....俺はお世話になっているんだから」

「そう.....なのかな?」

「そうだ。.....お前こそそんなにビクビクしなくて.....も。.....そうか。俺が怖いんだな」


俺大きしいな。それは悪かったな、と思いながら俺は器を片付けてからそそくさと後にした。

のだが。

いきなり衝撃を感じた。

それもその筈。

背後から抱きしめられたのだ。


「!?」

「.....待って。そういうつもりじゃない。私は.....そういうつもりでビクッとしたんじゃないから」

「.....そうなのか?」

「.....うん。.....横に人が立っているのが信じられないの。.....私はずっと孤独だったから。だからビックリしちゃっただけ」

「そうだったんだな」


大変だったね。.....君も、と俺を見てくる横山。

俺はその姿を見ながら、みっともなかったな。さっきは。それに怖かったろう。すまない、と切り出す。

すると横山は、全然気にしない。.....吐き出してくれて嬉しかった、とニコッとしてきた。


「.....私はもっともっと君の事が知りたい。.....君のその痛みも私が抱えるから」

「.....」

「.....何があったか話してくれる?」

「.....浮気された。.....彼女に」

「.....そうなんだね」


俺の言葉に横山は直ぐに納得した様に柔和になる。

それから真剣な顔をした。

その姿を見ながら俺はハッと胸を傷ませる。

バカだな俺は。

何でこんな事を話した。


「.....ショックだった。アイツに裏切られたのが」


何だこれ?俺の考えとは裏返しの事ばかり横山に言っているんだが。

思いながら俺は黙ろうとすると。

俺の手を横山は握った。

それから、話して。吐露して、と俺を座布団に座らせる。

そして対面から俺を真っ直ぐに見てきた。


「君の意外性が見れて.....私は最高に嬉しい。.....有難う」

「いやいや。こんなの情けないだろ。最高に嬉しいってそれはおかしい」

「何で?人間は弱い生き物なんだよ?.....情けないって何が情けないの?そもそも君は.....複雑な人生を歩んでいるから尚更.....泣きたくなるでしょ」

「.....」


横山は他に目もくれず真っ直ぐに真剣に俺を見てくる。

音が無い空間。

カッチコッチと時計の針の音だけが聞こえる。

ずっと真っ直ぐに見る横山につい全てを話してしまった。

これで良かったのか分からないが。

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