いつか、だれかの

大日本帝国の明路天皇が崩御し、新たな時代が幕を開ける。ひとつの戦争が終わり、また次の争いの兆しが見え隠れする。数多の命が生まれ、それ以上に死んでいく。これは、激動の時代の物語。



明路45年。明路天皇の崩御と時を同じくして、とある田舎の小さな村が石化するという事件が起こる。生存者は1名、行方不明者2名。生存者の少年は政府が保護をし、行方不明の2名は捜索中ではあるが、見つかる望みは薄いだろう。2名は姉弟であるが、姉の方はどういう訳か村人や住居を石化した犯人らしい。我々は彼女を異能の力を持つ……能力者と呼ぶ事にした。


小さな村とは言え、何十という世帯が、たった一人の少女に壊滅させられた。彼女は、最早人間とは呼べないだろう。運良く生き延びた少年は心傷が大きかったのか、事件のことを思い出せない様子だった。しかし、村を滅ぼした少女が彼の地を去った後、彷徨う少女と石化する木々を遠目に目撃した人もいる。この目で見たとしても信じられるかは分からないが、今はその力を信じ、畏れ、遠ざける他ないのだろう。この悲劇を繰り返さない為にも。


泰生2年。今年は色々なことが立て続けに起こった。あの桜島の大噴火、世界大戦の勃発、美しい東京駅。それから……2人目の能力者の出現。死の淵を彷徨うような青ざめた顔つきの、弱々しい少年だったらしい。身元はよく分かっていない。目撃者及び生存した被害者は、少年を中心に激しい落雷があったようだ。また、彼自身の身体からも放電されていて、それが彼を苦しめていたという。能力者は力を得てすぐは力の制御が出来ないのだろうか?


泰生12年。新たな能力者が現れた。今度は氷の力。能力の発現……覚醒と共に、少女は自らの故郷を氷漬けにしてしまったようだ。その日は丁度大きな地震があった。少女の覚醒は地震の最中だったのだろうか?第3の能力者は、第1の石化の能力者の例に類似しているような気がする。

そう言えば石化の能力者は現場検証によると、父親が無理心中を図っていたようで、石化していた父親と母親は、石化するより以前に、死んでいたらしい。或いは石化の能力者も、無理心中に巻き込まれようとしていたのだろうか。


泰生14年。第4の能力者は闇の力……詳細は秘匿されてしまって不明だが、闇の能力者は自ら軍に出頭したという。それから程なくして、闇の能力者の妹だという少女が兄を返せと軍に突っ掛かり……事もあろうに、兵士は少女を殺してしまったらしい。

当該の街は治安が悪い地域もあり、兵士は常に殺気立っている。だとしても、これは余りにも凄惨な事件だ。


闇の能力者の妹だという例の少女が、第5の能力者になっていたらしい。どういうことだ?少女は死んだはずではなかったのか?その少女は毒を用いて闇の能力者を軍から連れ出したようだ。触れるもの全てを腐食させてしまう力、らしい。


仮説ではあるが、石化、雷、氷、毒の能力者の共通点として、恐らく彼らは一度死に瀕している。生の代償のように、人知を超えた力を与えられ、そして覚醒したばかりの頃は強大すぎる力を制御出来ないのではないのだろうか?調査してみなければ分からないが、闇の能力者の詳細も調べる必要がありそうだ。



ここで日記は途絶えてしまっている。これはとある研究者が記したものであったが、彼は軍に出向いたその日の夜、薄暗い路地裏で遺体となって発見された。

軍は関与を否定。だが軍は、暗号化され、研究者の部屋に並んでいたこの日記に、気づくことはなかったという。



Others01

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