泰生異能奇譚

るび

エンドロールでずっと待ってる

それまで降っていた雨が嘘のような、夕暮れ。橙の空に影差す建物、赤い月。珍しいものだから母さんを呼びつけると、不気味な月を見た母さんは苦笑し台所へと戻っていった。当たり前に日が昇り、沈んでいく。幼かった僕は何の感慨もなくそれらの景色を眺めていた。もう戻ってはこないのだと、知っていれば……大切にすることが出来たのだろうかと、今更思う。だけどもう、手遅れだ。


その日僕が見たのは災厄だった。町の人びとが、残さず石化した事件の、当事者であり生き残り。僕は何が原因で……誰が原因で、故郷の人びとが石になってしまったかを知っていた。


あの女の子は、今頃どこで何をしているのだろう。抑えの利かないまま目に映るもの全てを石に変え、嘆き、涙を流しながら何処かへ消えていった彼女は……


あれから僕は故郷を離れて、海の見える街に住んでいる。事件の後政府のある機関に引き取られ、成人し、今は軍人として身を置いている。僕は……多くから憎まれ、僕自身にとっても憎むべき存在であるはずの彼女を、未だ憎めずにいた。そんなこと、誰にも言えなかったけど。


事件から数年後、雷を身に纏う人間が現れたとか、ここ数年の間にも、そういった異能の力を持つ人間の噂を数度聞いた。

今思えば彼女のことはそれらの発端だったのだろう。神の悪戯か偶然の事故か、それとも一縷の奇跡か……とにかく能力者達は人間離れした力を与えられてしまった。能力者の多くは彼女のように姿を眩ませ、隠れ潜んでいるのだという。


不思議なことに僕は、もう一度彼女に会いたいと思っているのだ。彼女を責め、詰りたい訳ではない。きっと孤独を強いられている彼女の、力になりたいと。


何故と問われれば僕はこう答えることしか出来ない。あの日、あの場所で、ただ一人生き残った僕だから……あれは多分、偶然ではない。


あの日僕は、確かに一度、死んだのだから。


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