霊獣との邂逅(1)

 別の仕事が入ったエマさんに代わり研修を受け持った(本人の態度的に仕方無くっぽいけど)UNdead社員のシャム・フェリティアさん、通称フェリさんに連れてこられたのは生気無き植物が点在する砂の荒れ地。

 肌をひりつける熱風、焼き付いた紫色の空、数日前の思い出と関連されたこの景色は忘れたくても忘れる訳が無い。


「ここって残響の空谷ですよね」


 現世で死んだ後、私が流れ着いたエクソスバレーの自然領域はエッセンゼーレに襲われ危うく死にかけた一種のトラウマでもある。

 今でもあの時と変わらない風が当たると命を刈り取る鉤爪を思い出し冷や汗が浮かびそうだ。


「へぇ、良く覚えてたね」


 目的地を的中させてもフェリさんは興味無さそうに呟くだけですぐに会話を終わらそうとする。

 余力をお喋りに割いたりプライベートを交える必要がある世間話系をやりたくないフェリさんは不必要そうな題目が出た瞬間、"面白いプライベートなんて無いよ" とか "黙秘は行使出来るよね? " って射殺す視線で冷たく正直に却下される。

 おかげで会話が発生せず周りには靴と砂が擦れる微かな音だけが鳴っていた。

 この状況分かる? 押し潰されそうになる程空気が重過ぎるんだ。凄いきまずいんだよ。

 雑談が駄目なら仕事関係の話なら付き合ってくれるよね? よし、意を決して話を振ります。


「えっと・・・・・・ フェリさん。今日、ここに来た目的ってなんですか?」


 予想通りフェリさんはこの質問には回答すべきと判断し、最速で伝わるであろう返答を素早く的確に紡ぐ。


「最近、っとストップ」


 やや早歩きで先導していたフェリさんが急に足を止める。


「・・・・・・岩陰に身を潜めなさい」


 そっとチラ見した向こうの獣道には黒い体色が特徴のエッセンゼーレ、忘れ難き因縁の相手ミニマムボーイ三匹が子供の[[rb:飯事 > ままごと]]みたいに岩肌と砂地を合わせた大地の上ではしゃぎ回っている。

 敵は遊ぶのに夢中で余裕を持って隠れた私達には全く気付いていない。

 そんな敵を見て警戒を解き、岩に力を預けたフェリさんが暫く閉じていた口を必要最低限に開く。


「丁度いいや。あの三匹を相手に貴方の実力を示してみて。戦闘はエマから教えて貰ったでしょう?」


 倒せと言いたいのだろうがそんな指示をするのは私の実力を測る為だろうか。

 なんにせよ、昨日の夜のトレーニングを試せるし初めてエクソスバレーに来た私に強烈な洗礼をくれたお返しをしたかった丁度いい機会だ。

 剣を呼び寄せいつでも装備可能な状態にすると、私はミニマムボーイ達に走って行く。

 手頃な間合いに入った瞬間、右手に氷剣を掴み目の前の標的を切り崩す心と剣を同一させ素早く振る。

 剣には渦巻く邪念を断ち空気が凍てつく威力が宿っておりやっと気付いたミニマムボーイに不意の一撃を喰らわせ、敗北の証である無形の霧を創造する。

 いきなり倒れた同朋に慌てて臨戦態勢を整えてももう遅い。

 巨大な鉤爪は冷静に弾き忍び寄る一方には蹴りでお帰り願ったら、今一度気持ちを入れ直し再度剣に氷雪が生きる低温を保たせる。

 昨日、社内のトレーニングジムで何度も演習した剣術でミニマムボーイ達の鉤爪と斬り合い衝突で距離が離れた今こそ昨日身に付けた戦術を実践する時だ。

 剣から創ったのは自らの意思を持ち所持者の私に忠実に従うナイフみたいな氷の集合体。

 これはプカク峰でニパスを掌握する氷神が披露した空気中の水分を凍らせて刃に変えた技を工夫して扱える様に鍛冶場で改造したものである。

 エッセンゼーレの素材は構成体とも言えるネガティブな感情に呑まれぬよう原型を留めたまま力として落とし込む事は出来ないが一部の能力は使い手の心持ち次第でそのまま流用出来るのだ。

 切っ先から凶刃と示す煌めきを放っているにも関わらず無謀にも飛び掛かる残党達。私は浮かぶ氷刃に対処を命じる様に技の名を唱える。


「踊れ、氷刃。 "グレールエッジ"」


 超低温の短刀が一糸乱れぬチョクトウを踊り黒い肉体を抉る凍傷を与える。

 擦傷から張り巡る震撼の痛みがエッセンゼーレの躍動する憎しみを奪い、遂に息の根が止める。

 私一人で勝ち得たエクソスバレーでの戦闘の勝利である。

 ミニマムボーイ達の殲滅を確認し充実した喜びで満たされた私とは対称的に陽炎の様にゆらりと現れたフェリさんは私の戦闘を見た客観的な感想だけ真剣な声色を乗せて伝えてくれる。


「悪くない。まだ粗雑だけど体幹もブレてないし足技にもキレがある。身体能力の高さはきっとフィギュアスケートの経験が生きてるんだろうね」


 フェリさんは寡黙な人かと思いきや答えられる範囲でなら丁寧に言葉を返してくれる。

 結論から述べてたり要点を抑えた話し方をしてるから本当に必要な時に伝わる最低限の言葉だけ話すタイプの効率重視の人なんだと思う。

 ミニマムボーイの肉体も消滅し安全が戻ったところでフェリさんから話の続きが再開される。


「そういえばここに来た目的をまだ言いきれてなかったね。今回はエッセンゼーレが出現した原因について調査しに来たんだ」

 

「出現も何も、残響の空谷は自然領域なんですからずっといるものかと思ってました」


 自然領域はエッセンゼーレが多くいるから命が惜しければ無闇に足を踏み入れてはならない。

 だからこそ全ての自然領域にはエッセンゼーレが生息していると考えていたがフェリさんは否定せず黙って頷いた。


「キタザトさんの考えは最もだよ。でも、貴方が来る前の残響の空谷は自然領域なのにエッセンゼーレがいない数少ない場所だった。つまり貴方がここで襲われた事が異常なんだよ」


 記憶を手繰り寄せてみれば、確か出会ったばかりの桐葉さんもミニマムボーイに対峙しながらそんな事を言っていた気がする。


『おかしいな。この自然領域でエッセンゼーレは出現しないはずだが』


 あの時は用語が全然分からなくて理解出来なかったけど現世で言ったら危険な外来生物がやって来た様な物だよね。

 静穏だった場所になんの前触れも無く怪物が現れたら疑問が湧くし原因を追求するべきだろう。

 その役目に選ばれたのが手の空いていた自分だったと仕事の経緯を説明するフェリさんに面倒くさそうな素振りは無く、桐葉さんの采配を合理的判断だと納得していたみたいだった。


「まぁ、一回の調査で全てを明らかに出来るとは思えないからついでに貴方を鍛えて欲しいと頼んだんだろうね。さ、行くよ」

 

 

 残響の空谷はじっくり屋外博物館を観覧しても一日で全て回れる程度の小さな自然領域。

 博物館と違い目を引く建造物も為になる知識も無い岩と砂だけの空白の乾燥地を探索するのに一時間も必要無かった。

 

「・・・・・・ 他の場所にエッセンゼーレはいない。不変ない残響の空谷だ」

 

 空谷の全貌と巻き上がる砂塵が合わさった景色を一望出来る展望の崖でフェリさんは頭を悩ませる。

 その種はここに来るまでに巡った空谷の現状を見たからだろう。

 もっと多くのエッセンゼーレが跋扈しているかと思ったら、少し高い崖に登るまでに遭遇したエッセンゼーレは私が力試しがてら戦ったミニマムボーイ三匹だけ。

 それ以外はいつもと変わらない静かで何も無い荒れ地だったのだ。

 客室のパソコンから調べたけどエッセンゼーレは人々が抱えた陰鬱な感情から生まれた存在であり楽しい感情に包まれて生を謳歌する対極の存在を許さない闇の怪物。

 光と闇が相対し決して混ざらない様に人の感情が及びにくい自然領域でしか生きられないエッセンゼーレは人工領域に紛れ無いのははっきりと立証されている。

 が、エッセンゼーレが出現した理由や一部の自然領域でエッセンゼーレが出現しない理由は権力にも優れた学会の知恵を持ってしてもまだ解明されていない。

 自然領域を生み出した感情に明るい物が少しでも含まれていたかとか色んな予測が出回っているがどれも具体性に欠けている為、討論も全く進展していないのが現実だったりする。


「人為的原因も考慮すべきか」


 黙々と考察するのに最適な無音の世界に入り浸ったフェリさん。

 けど静かだった展望の崖をどこからともなく響いた少女のアイドルみたいな作り声が打ち壊した。


「あっれれ〜? こんな所でフェリちゃんと出会うなんて偶然だね〜♪」


 常人離れのバランスで一番背の高い灰色の木に立つ地雷系ミニワンピースの女の子はステージで振りまけば誰もが虜になりそうな満面の笑みを携えているが、表面上で取り繕っただけでその裏には尋常じゃない殺気が溢れているのは一目で分かった。

 フェリさんは女の子の顔を見た瞬間、何も言わずに私を腕を引きこの場を去ろうとするが、女の子は指を鳴らして出現させたピンク色の電気柵で逃走を許さない。


「せっかく美少女が来たのに逃げるなんて、日本で言う据え膳なんたらだよ?」


 据え膳食わぬは男の恥って言いたいのかな?


「ねぇ、忙しいの見て分からない?」


「そんなの知ったこっちゃないよ。エクソスバレーいちのアイドルが来たんだから全てを放棄してでも喜ぶべきじゃない♪」


 木から見下ろす女の子と気怠げな態度を崩さないフェリさん二人の殺気は均衡を保っていたが片方が強める度にもう片方が出力を上げていき状況は一触即発。その影響は紫色の空に雷雲が募り始め、落雷で硬い地盤を削ぐ程だ。


「あの、フェリさん。あの方は・・・・・・?」


「敬称を付けてもてなす様な奴じゃないよ。念の為、武器は構えといて」


 ずっとフェリさんの近くにいたんだけど余程、影が薄かったのかな。

 ようやく私の存在に気が付いた女の子は腰を屈め頬に指を当てながらアメジストみたいな瞳で観察する。


「ん〜? そこのアナタは~・・・・・・ UNdeadの新入社員さん? へぇ、無愛想なフェリちゃんが先輩かぁ〜 似合わな〜い♪」


 先輩は自ら志願してなる様な身分じゃないんだけどなぁ・・・・・・

 なんて正論を言ってもこの子には多分、通用しないか。

 数種類の赤メッシュが入った黒髪を揺らし猫みたいにスタっと音も無く降りた女の子は手慣れた振りと決めポーズを交えてアイドルさながらの自己紹介をする。

 

「初めまして新入りさん♪ 一度吸ったらもう夢中、煌めき振りまく狂気の愛薬、ヒステリック・ラブポーションだよ。宜しくね☆」


 ヒステリック、ラブポーション!?

 一度、認識すれば頭から離れない特徴的な長い名前。

 最悪の事態が想像した私は慌ててフェリさんに確認した。


「あの、ヒステリック・ラブポーションってもしかして・・・・・・」


「キタザトさんも調べてたなら話が早いね」


 苦虫を噛み潰した様な睨みと共にフェリさんはウェブサイトに載っていた同じ情報を冷酷に告げる。


「こいつはエクソスバレーの[[rb:超危険人物 > ・・・・・]]だよ」



 エクソスバレーにはネットの有志によって定められた絶対に会ってはいけない超危険人物がいる。

 理不尽な強さと常軌から外れた倫理観を兼ね備えたそいつらは鮮明な画像は無かったものの幸運に目撃出来たと言うスレ民によって細かい特徴は文として記されており "運悪く該当する容姿を見掛けたら全力で逃走に費やせ、さもないとその日が二度目の命日になる" と警告されていた。

 無論、UNdeadでも問題に挙がっていて社長の桐葉さんからは騙し騙しに戦い一時も速く逃げる事を意識してくれと言われている。

 そして私が出会ってしまった女の子は目を引く数種類の赤メッシュが入った黒髪、見つめる相手を深淵に引き込む紫の目、胸元で存在を放つタータンチェックのサテンリボンと黒の地雷系ミニワンピース。

 ネットに載っていたヒステリック・ラブポーションの特徴と完全一致している。

 ヒステリック・ラブポーションは自分が一番強くて可愛い女である揺るぎない信念を持っておりそれを遮る障害は例え新芽であろうと容赦無く摘み取る残虐な人物らしい。

 一通り私の姿を観察し終えたラブポーションは可愛く唸って今一度、私を見る。

 

「な〜んかパッとしない見た目だね〜♪ 淡雪みたいにすぐ溶けそうってゆうか〜 ラブちゃんが手を下さなくても野垂れ死にそう、みたいな?」


 明らかに喧嘩を売られているが相手は回れ右絶対の超危険人物。下手に買えば私が返り討ちに遭う。

 挑発に乗らないよう耐え忍んでいたがいつの間にか前に出ていたフェリさんが舌打ちした。


「充分に離れて」


 フェリさんが虚空から昼と夜の化身とも言える双剣を取り出した直後だった。

 地を蹴り風を切ってほぼ空中を浮いた様に駿足で近付いたラブポーションが骨を組み合わせて造られた片手剣を抜き出し痛覚を刺激する電撃を短い刃とフェリさんの腕に迸らせる。


「ちょっとフェリちゃ〜ん? なんで邪魔するの〜? ラブちゃんは新入りさんとお話したいだけなのにー」


「何がお話したいだ。可能性の芽を潰したいだけでしょ。それに新人に傷があったらエマにこっぴどく叱られるから」


 フェリさんの戦法は双剣と滑らかな体術で敵を翻弄するスピードタイプ。

 瞬間移動を繰り返す様に切っては距離を置くヒット&アウェイで姿を眩ませ視覚外から狙い澄ました鋭い一撃、怨嗟の檻に囚われた自分を解放する欲望を大成しようと漆黒の闇を翔ける鴉の軌道を辿り右に持つ黒の短剣でアッパーを放つ[[rb:黒 > こく]][[rb:鴉 > が]][[rb:翔天 > しょうてん]]がラブポーションの急所を狙い澄ますも


「は〜い、残念〜♪」


 有り得ない反応速度で寸前に躱し、更に受け止めた剣を器用に操って黒の短剣を吹き飛ばした。

 態勢を立て直す為に急いで刺さった短剣を取ろうとするがそれはラブポーションの術中。

 計算かもしくは偶然か、短剣は対岸にある。簡単に取りに行ける距離では無い。

 その隙を刈り取ろうとするラブポーションだがそんな事はさせない。

 フェリさんを庇った私が剣を呼んで間一髪で止める。


「今の内に剣を!!」


「・・・・・・ ありがと」


 フェリさんが態勢を整える間、相手を受け持ったがラブポーションは攻撃の手を緩めていて防御する私に嘲笑を向けている。


「あっはは!! 何、その攻撃!! 軽すぎて思わず笑っちゃうよ!!」


 エクソスバレーでは精神の強さで攻撃の重みが変移する。昨日のトレーニングである程度の心の研磨は出来たもののやはり超危険人物の相手が務まるまでには達していないか・・・・・・

 剣戟が激しくなる事にラブポーションの煽りは更に勢いが増す。


「ねぇねぇ、もっと本気出しなよ!! 殺す相手が全力で抗ってくれなきゃラブちゃんもつまんないんだから!!」


 徐々に滲み出た残虐な挑発に乗るのは癪だがこのまま力無き連撃を繰り返しても勝ち目が見い出せないのは事実。

 こうなれば氷の刃を使った波状を押し寄せ連携で攻めるしかない。


「踊れ、氷刃。"グレールエッジ" !!」


 周囲に舞った氷の刃はラブポーション目掛けて精密に飛んで行くが、奴はつまらなそうに避けたり剣で粉砕したり大袈裟に対処せず全て空振りに変えた。

 すかさず技の隙を狙って雷を蓄えた剣を近付けるラブポーションだが、短剣を取り戻したフェリさんが奇襲で好機を掻き消す。


「ごめんね、大変な役を一任させて」


 私の返事を待たずに怒涛の連撃を浴びせるフェリさんに対し、歴戦の感覚と生まれ持った身体能力で簡単に攻撃を捌くラブポーションは狂気を隠した可憐な慌て顔を披露する。


「えぇ〜 速すぎるよ〜💦 もっとゆっくり戻って来れば良かったのに〜」


 お前の戯言にはこれ以上付き合えないと口を閉ざすフェリさんはただ一心に双剣を前のめりに押す。

 想定以下の反応すら無く退屈で仕方ないラブポーションは子供みたいに膨れている。


「あれ〜? もう省エネモード? でもラブちゃんはもっとお喋りしたいから無理矢理にでも開いてもらうけど」


 鍔迫り合いの片手間にラブポーションが私にウインクを向けると見えない巨大な手が頭を掴み猛烈に脳内を揺らす。

 一瞬の激痛が過ぎ去ると精神の異常な変化にすぐ気付いた。

 ハートが周囲に浮かぶ程、心体が欲情した様に熱くなり視線がラブポーションから外せない。

 それに無意識に口が思ってもいないあいつへの愛を零す度に戦意が薄れていきラブポーションに剣を向けるのも困難になって来た・・・・・・

 戦闘する、相手の中には、精神状態を操って、状態異常、にして来る奴も、いるんだっけ・・・・・・


「キタザトさん!!」


「これであの子もラブちゃんにメロメロだね♡ どう? 少しは言葉を出す気力が湧いた? それとも〜 殺した方がやる気倍になる?」


 その時、フェリさんが制御していた怒りが少しだけ顕になる。


「こんの下劣が・・・・・・」


 助けに行きたいのに、体がラブちゃんに刃向かう事を躊躇っている。

 防御に集中したフェリさんを蹴りで崩したラブ、ポーションは剣を手の内で弾ませてゆっくりと私に近付いて来る。

 一体どうすれば・・・・・・


「さぁ、ラブちゃんの為に命を差し出して? 今のアナタならそのくらいの好意は持ってるでしょ♪」


 本来ならば確実に断る理不尽な要求だが "恍惚状態" に陥っている私はベタ惚れの相手に抗えない。


「うん。好きに扱って」


 本心とは違うラブちゃんの供物を望んだ私の体は武器を手放し抱擁を待ち侘びるよう腕を広げる。

 ラブちゃんはそっと背中に腕を回し、生糸の様に柔らかく肉感も申し分ない魅惑の女体を惜しみなく当てているが左手は武器としても使用する剣を刺し貫く為に短く持っている。


「大丈夫。痛みは一瞬だしなんなら甘美すらにも感じるよ。ラブちゃんに包まれながら死ねる事、至上と思いながら逝ってよね♪」


 ただ戦闘を面白く彩りたいが為に他人を犠牲にしようとする奴になすがまま狂気の刃を受け入れるしか無い私。

 生動の根幹、心臓を狙い刃が嫌に輝いたその時だった。

 突如、荒地の中心に現れた巨大な竜巻が砂を巻き上げて暴走しラブちゃんの動きを鈍らせる。

 その間に恍惚が解け、体の自由が効くようになった私は脇腹目掛けて蹴りを噛まし、吹き飛ばされないよう大地に根深く差す様にフェリさんの元へ駆け寄る。

 やがて荒地を騒がせた風は止みその中心には緑の体毛を持つ犬の亡霊が物言わずに立っていた。


 霊獣との邂逅(1) (終)

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る