第16話 内閣府特殊情報局 ー 2

「あ、はい」


 言葉に導かれるようにして、戸倉さんの後をついて歩き出す。よく見れば、廊下に満ちていた異質感は熊だけではなかった。


 ネズミの大群が、束ねられた書類を背に乗せて走っていく。


 大柄な鷲が、自販機の取り出し口からペットボトルを掴み飛び去っていく。


 廊下の所々には警備員らしき人が立っていたが、近くに寄ってみればそれらは全てマネキンであった。


 眼前を通り過ぎる度、マネキンが一様に敬礼する。予め行動をプログラムされた人型ロボットかとも思ったが、戸倉さんは明らかに彼らとコミュニケーションを取っていた。


 熊にしたように敬礼に合わせて声をかけ、肩を叩いて労をねぎらい、時にはグータッチを交わす。前者二つはまだしも、突然のグータッチに人間のような反応速度で対応できるロボットなど、幸介は見たことも聞いたこともない。


「あの……これは……」


「ついてくればわかる」


 しかし困惑と動揺の色に染まった幸介の問いかけに対し、戸倉さんはただそう言葉を口にするだけであった。


 ついてくればわかるということは、ついていった先で、ちゃんと説明をしてくれるということなのだろうか。考えを巡らせたけれど、答えは出てこなかった。答えが出せなかったので、仕方なく彼女の後をついて歩いた。


 五分ほどは歩いただろうか。


 やがて、一つのドアの前で戸倉さんは足を止めた。


「ここだよ」


 見上げると、ドアの上部には下手くそな手書き文字で『6係』と書かれたプレートが貼られていた。


 これまでに廊下で見た部屋には全て綺麗に印字されたプレートが貼ってあったのに対して、ずいぶんとやっつけ感が滲み出ている。


 部屋が建物の奥に位置しているのか、先ほどまで人や謎の生物(?)たちで賑わっていた廊下にも、自分と戸倉さん以外の姿は見当たらない。


 閑散とした、寂れた商店街のような空気。


 どこかの部室に、よく似ていると思った。


 戸倉さんがドアを開ける。


 視界に飛び込んできたのは、十畳ほどの部屋一面を埋め尽くした二次元キャラグッズの類だった。


【次回:内閣府特殊情報局- 3】

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