第3話 オカルト研究会の二人 - 2
「このサイト、UFOの出現予測をしてくれるの」
「なんだそれ」
「言葉のままの意味だよ。過去の目撃情報から、次にいつ、どこにUFOが現れるかをAIが予測して、それを地図上に表示してくれるってこと」
便利でしょ? さも自分の手柄かのように鼻を鳴らして、はーちゃんは言った。
一方幸介はといえば、それをちっとも便利そうには思えなかった。むしろ胡散臭さしか感じられないとさえ思った。
大丈夫なのかそれ。疑問符を放り投げたら、信用しなさいよ地獄に落ちるわよ、と、懐かしい台詞が返ってきた。すっかり死語だと思ってたんだけどな、その言葉。
「で、これが今日の出現予測。小田原市内で時間は二十三時ちょうど。どうよ?」
はーちゃんが、拡大した地図に刺さったピン印を指す。
ピン印は、見事に町はずれの森の中を指していた。
「……森だな」
「うん、森」
「
「日付変わるまでは電車あるから、問題ないっしょ」
「……」
恐る恐るはーちゃんを見た。そうしたら、はーちゃんもこちらを見ていた。丸い瞳が、興奮と期待の色に染まってキラキラと輝いていた。勿論一緒に行ってくれるよね? と、そんなことを言っているような気がした。
同時に、やはり正攻法で彼女に待ったをかけるのは不可能なのだということも悟った。けれども、正攻法以外の方法を幸介は持ち合わせていなかった。だから無理にでも言葉を継いだ。でもさ。理屈を捻り出すことだけに、普段たいして使う用事もない脳みそをフル活用した。
「深夜徘徊で補導されるかも」
「私服で堂々としてれば大丈夫。ソースは私」
「あー、変質者が出るかも。ほら、なんだっけ、今話題の事件」
「髪切り魔? 変死体?」
「そう、それ」
うーんと唸りながら、はーちゃんは考える素振りを見せた。しめしめと思ったのは幸介の方である。
髪切り魔も、変死体も、それぞれが現在進行形で小田原の街を騒がせている事件の一つだ。
前者は店舗や公共施設の女子トイレで個室に入ろうとした女性が襲われ、髪をごっそりと切られたというもの。
後者は、普段人の立ち入らない山林の中で、腐乱した成人の遺体が立て続けに二体発見されたというもの。
どちらも方向性の異なる出来事ではあるが、『事件』という単語は少なからず、希望と情熱に満ち溢れた彼女の精神に一滴の鎮静剤を垂らす程度の効果が見込めるのではないかと、幸介は考えていたのであった。
もっとも、その程度の情報で行動を思い止まるような人間ならば、彼女が校内において奇人変人の名をほしいままにすることはなかったのだろうが。
案の定、幸介は自身の見込みの甘さを即実感することになる。
思考の末、彼女は驚くほどアッサリと回答を提示した。
「大丈夫でしょ」
そして、幸介が食い下がるよりも先に言葉を継いだ。
「変死体は、山菜取りの人が道に迷って餓死したって話だし、髪切り魔も、結局は髪切ってくるだけの変態でしょ?」
うんうん、とはーちゃんが頷く。どのあたりに納得するだけの要素があったのかはもはや不明だが、とりあえず彼女の中では一通りの決着が着いてしまったらしい。
満面の笑みと共に、はーちゃんは言葉を紡いだ。
「UFOに逢えるなら、髪ぐらいは差し上げてもいいかな」
ダメだこれは。そう幸介の心が折れた瞬間であった。
【次回:オカルト研究会の二人 - 3】
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