女王様な彼女の本音と素顔
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「はぁ……」
水族館の中にある女子トイレにて、アタシは溜息を吐いた。鏡に映る自分の姿を見つめながら思う。どうしてこうも上手くいかないのだろうか、と。
「もっと楽しいデートになるはずだったんだけどなぁ……」
そう呟きながらアタシは髪を弄ぶようにして触る。サラサラとした手触りを感じながらアタシは再び溜息を吐いた。
しかし、本当に物事というのは思い通りにならないものだ。せっかく罰ゲームと称してポチと二人きりで、それも初の私服デートという絶好のシチュエーションだというのに、どうしてこうも失敗してしまうのか。
……原因は既に分かっているんだけれどもさ。それは多分、アタシの性格のせいなんだろうと思う。だって、自分でも自覚しているくらいだから。自分が素直じゃなくて捻くれているってことくらいはさ。
そんなんだから、こうやって上手くいかないことばっかり起きるんだろうなぁ……そう思いつつアタシは蛇口を捻り、水を出す。そして手を洗い始めた。
流れ出てくる冷たい水が気持ちいいと思いながら、アタシは考える。どうすればもっとポチと仲良くなれるのかを。
「……けど、あいつもあいつで、もうちょっと気遣いってもんが出来ないのかなー」
アタシは苛立ちを覚えながら呟く。アタシにも悪い部分はあったけれども、ポチにしたって悪い部分はあると思うんだ。折角のデートなんだしさ、もう少し気を遣ってくれても良いんじゃないかなって思うんだよね。それに―――
「せっかく早起きしてメイクも頑張ったのに、服も気合を入れて選んだのに、ポチってば全然褒めてくれないんだもんなー」
本当に酷い話だと思うよ。アタシはこんなにも頑張っているのに、全然気付いてくれないんだもの。そんなにアタシって、女の子として魅力がないのかなー。
それとももしかして、アイツって年上の甘やかしてくれるお姉さんとか、そういうのがタイプなんだろうか。だとしたら、望み薄かもしれない。だって、どっちかと言うとアタシは子供っぽいし、胸もないし……。
……ああもうっ! なんでアタシの方がこんなに悩まなくちゃいけないわけ!? もうこうなったらヤケクソだ! こうなったらとことん楽しんでやろうじゃないの! それで絶対に振り向かせてみせるんだからね! 覚悟しなさいよ!
そう思いながらアタシは化粧直しをするべく、ポーチを取り出すのだった。そして念入りにチェックしていく。よし、これでバッチリだな。うん、大丈夫そうだぞ。これならポチもイチコロだろう!
自分に自信を取り戻したところで、アタシは意気揚々とトイレを後にするのだった。そして待っているポチのところへ戻ろうと歩いていって―――
「ねえねえ、キミキミ! ちょーっといいかな?」
突然、見知らぬ男に声を掛けられた。誰だコイツ? 馴れ馴れしいヤツめ。そう思って睨みつけてやる。すると男は慌てた様子で両手を合わせながら頭を下げてきた。
「おっと、ごめんごめん。いきなり話し掛けたりしたら驚くよね。あはははっ!」
何がおかしいのかさっぱり分からないけど、とりあえず笑って誤魔化しているようだ。なんとも胡散臭い男である。
「で、何か用?」
アタシはぶっきらぼうに答える。さっさとポチのいる場所に戻りたいというのに、邪魔なんだけど。早くどっか行ってくれないかな。
「えーっと……キミ、すっごく可愛いね! 俺たちと一緒に遊ばない?」
「はぁ?」
「そうそう! 絶対楽しいからさ!」
アタシが怪訝そうな顔をして見つめてやると、どこからかもう一人の男がやって来て話に割り込んできた。
二人の男の外見を説明するなら、一人は金髪に日に焼けた肌、そして黒いサングラスを掛けた二十代前半くらいのチャラそうな男。もう一人は茶髪で顎髭を生やし、ピアスとかネックレスとかジャラジャラ付けた同じく二十代前半くらいのチャラそうな男だった。
うへぇ……気持ち悪いなぁ……。こういうタイプの人って苦手なんだよねぇ……関わりたくないなぁ……。そう思っていると金髪の男が続けて言ってくる。
「あ、あれぇ? どうしたのかなぁー?」
「黙ってないでさぁー、答えてくれよー」
ヘラヘラと笑いながら問い掛けてくる男たちに対して、アタシは答えた。
「……お断りよ」
短くそれだけを告げると踵を返す。だが、男たちはしつこく追い掛けてきて話し掛けてくるのだ。正直言って鬱陶しくて仕方ない。
「そんなこと言わずにさぁー、ちょっとだけでもいいからさぁー」
「いいじゃん別にぃー、一緒に楽しもうぜぇー?」
……ああもうっ! しつこいなぁ……! いい加減にしてよ! こっちは急いでるんだから! 心の中で文句を言いつつも、無視して歩き続けることにする。すると男たちが付いてくるではないか。
もうなんなのよ! 勘弁してほしいんですけど!? ああもうっ! イライラするぅー! そう思った瞬間、アタシの目の前に見慣れた顔が近付いてくるのが見えた。そう、ポチだ。何故かあいつはアタシの方に向かって歩いてきているのだった。
何でこっちに向かって歩いてきているのかは分からないけど、これはチャンスだと思った。ポチをこのまま捕まえれば、この状況から脱することが出来ると思うからだ。
それに……もしかすると、ポチはこの二人組の男たちにアタシが話し掛けられているのを見て、助けに来てくれたのかもしれない。そう思うと嬉しくなった。
だからこそ、アタシはポチに向かって声を掛けるのだった―――。
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