第18話 ガーベラ

難なく大蛇の魔物を倒したアリト、そしてようやく手に入れた薬草。

村へ帰る途中メルから、薬草を必要な理由が語られた。

それは亡き父親の代わりに母親の病気を治したいとの事。

そして眠ってしまったメルを抱え、ミラ達は村へ帰って来たのだった。


            ーー


そして現在…


村へ着いたミラ達は母親の待つメルの家に訪問していた。



「娘を保護していただき、ありがとうございました…」

「娘を寝室で横にさせてきますので。そこへお座り下さい」


……


「私はメルの母のガーベラです…コホンコホン…」


カチャ


メルの母ガーベラ、目の下にはくまがあり、声もかすれている。

彼女はメルを寝室に寝かしつけた後、紅茶を出した。


「紅茶いただきます」

「それよりも、お体はどうしたのですか?」


「えぇ、コホンコホン…」

「三日前に夕ご飯を作っていたら急な立ち眩みがしました」

「一日休めば平気だと思ったのですが、今も続いてまして……」


「薬などの服用はしなかったのですか?」


「もちろん売っている物を試してみましたが、何も効果が無いようで…」


「そうなんですね…」

「失礼ですが、旦那様の職業は?」


「夫は医療関係の仕事をしていました」

「そして夫は、体の弱い私に合う薬を定期的に作ってくれていたんです」


「だから…」

ミラはそっと呟く。


「ある時、夫と娘は私に必要な薬草を取りに行く時と言って出かけました」


ーー


「メル、今日はお父さんのカッコイイとこを見せてあげよう!」


「カッコイイところ?」


「あぁ、お父さんのお仕事の一つ“素材採取”だ」


「やったぁ!」



「じゃあ、ガーベラ出かけてくるよ」


「えぇ⁉魔物がいるんでしょ?メルが居て大丈夫なの?」


「大丈夫さ」

「森付近はミッシュラビットというウサギの魔物しか現れないんだ」


「そう……あなたが言うなら良いけど…」


ーー


「ですが…家に帰って来たのは冒険者に保護された娘だけでした……」


「…っ⁉」


「娘に事情を聞くと“パパはメルを守って…”と」

「信じられなかったです……」


「……」


「ですが娘を保護してくれた冒険者の方に言われました」

「森の入り口に居た娘さんに事情を聞いて助けに行ったが、大蛇の魔物に応戦する一方で救出する事が出来なかったと」

「そして…今となっては形見の、“本”だけがその場所に残ったと」


「その本て…」


「夫が仕事で使っていた本です」

「そしてその本には一枚の紙が挟まっていました」

「見ると…私の薬に必要な薬草の絵が……」


「はっ!それをメルちゃんが…⁉」


ガタンッ!

「えっ⁉コホンコホン!」

「それはどういう事ですか⁉」

「まさか娘は…コホンコホン!」


「落ち着いて下さい、ガーベラさん」

「メルちゃんは怪我もしてませんので」


カタン


慌てて立ち上がったガーベラだったが再びイスに座る。

落ち着いた彼女を見たミラは話し出した。


「こちらも説明をしていなかったですね」

「私達は冒険者なんです」


「っ⁉冒険者⁉」

「てっきり娘と遊んでくれてた方だと…」


「実は……」


ミラは冒険者ギルドにあった依頼の紙の事、そして森で何があったのかを全て話した。


「そんな事が…」

「何故…メルは……」


「メルちゃんはガーベラさんを、お父さんの代わりに助けたいと、そう言ってました」


「なっ……う…うぅ……」


ガーベラは両手からこぼれるほどの涙を流した。


……


少ししてからミラは調合部屋に居たアリトを呼びにいっていた。


「薬はどう?アリト」


「あぁ出来たぞ」


「ホント⁉じゃあ持っていきましょう!」


……


ササ…


「ガーベラさんこちらが…」


ミラはテーブルに薬を置くとアリトを紹介した。


「娘の願いを叶え、守っていただき、ありがとうございました」


「あぁ」


「そして私も救われました、これを…」

ジャラ…

ガーベラは感謝の言葉と共に、袋に入った金貨を渡す。


「その必要はない」


「ですが……」


「そんな事より薬を飲んだ方が良い」


「…分かりました」

ササ…

ゴクン。


「懐かしいですね…これでまた…」

シュー…。


「ガーベラさん、お顔の色が!それにその声…!」


ガーベラが薬を飲むと目の下のくまや声までもが良くなった。

それを見たミラは驚きを隠せないようだ。


……


「改めて、ありがとうございました」


「あぁ、では俺たちは街へ戻る」


「え、ちょっ!もーう…?」


「行くぞっ」


「…はいはい」


ガチャッ。


アリトとミラが玄関から出ようとした時…


タッタッタ!

「お兄ちゃん!お姉ちゃん!」

ボフッ‼

寝室から走って来たメルはアリトとメルに抱きついた。


「メルちゃん…」

サラサラ…

ミラはメルの頭を撫でる。


「お兄ちゃん…お姉ちゃん…」

震えた声のメル。


「メル、これを…」

ファー…

キラーン。


アリトは名前を呼び、魔法である物を作り出した。


「これはなあに?」


「お守りだ」


「ウフフ…良かったわね、メルちゃん」


「うん‼」


そして別れの時が来た。



スタスタ……


「お兄ちゃーん!お姉ちゃーん!」

「ありがとう~!ばいば~い!」

ガーベラに抱えられながら大きく手を振るメル。


……


距離が遠くなってもアリトとミラは手を振り返した。


「寂しくなるわね…」


「そうだな」



無事に依頼を達成し、ガーベラの病も治したアリト達はチルストラップに戻ったのだった。


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