独吟俳諧歌仙「花菖蒲」の巻
鈴呂屋こやん
独吟俳諧歌仙「花菖蒲」の巻
花菖蒲おばさんになる庄屋の娘
新茶振る舞う古民家のカフェ
散歩するいつもの道を間違えて
歩かぬ犬を抱っこして行く
外猫の餌を貰えた夕月夜
空き地のゴミに混ざるコオロギ
残された黄花コスモス生い茂り
写真に思う幸せな頃
不用意な言葉は消せない染みのよう
はるか昔の過去ログになく
探しもの分からぬままに一休み
カップラーメンの蓋を折り曲げ
真夜中のオフィスの窓は薄曇り
月は鉄塔の網にかかった
鹿達は道路我がもの顔をして
奈良の仏の魂祭する
花散って跡形のない西大寺
乗換迷う新社員いて
軒下は今年も帰る燕の巣
更地の多い海沿いの郷
みずみずしい山の滴り何の夢
思想は情を殺しあやめる
忘るなよ心痛めたあの夜を
手首の傷もわかり合えれば
柊の枝を折り取りリースにし
二十四日はどうせ仕事と
ご褒美は何に給与を当てにして
小銭ばかりの残るパチンコ
月天心土手を歩いて帰る道
夜の底にはリコリスの咲く
恋心隠して風はやや寒く
神殿に行く聖女慎まし
終わらない悲しみばかりこの世界
核の前では誰も人質
咲く花に笑え怒りが何を生む
春は崩れてゆく前の滝
独吟俳諧歌仙「花菖蒲」の巻 鈴呂屋こやん @manyashoya88
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