第4話
翌日、娘は不安そうに私についてくる。
集落裏に作った小屋に二人で入る。
「何でもするのね? じゃ、服を脱いで」
「あ、あの……」
娘は怯えている。掘っ立て小屋だが隙間はどこにもない。
ここには私達しかいないし、覗かれる心配も全くない。
「いいから脱ぎなさい。一緒に、お風呂に入るの」
私はどうしても我慢ができなかった。
この娘は汚い、ついでに臭い。
可愛い女の子が美容に気を使わないのは許せない。
綺麗にしないと血も啜れない。
「ええ、と。この地では水も貴重で。たまの雨もそのほとんどが飲み水です。お風呂なんてとても……」
「ええ。そう思ったから水が落ちてくる場所を見つけて汲んで来た」
この世界でも雨は降り、その水は普通に飲めるらしい。
落ち物にもなぜか水がある。
何もない空間から滝が現れたときは実に壮観だった。
その水を岩を掘った池に集めて数回に分けて集落の近くに貯めてある。
石などの無機物なら水が汚染されることはないのは確認済み。
大きな岩を見つけて吸血姫の力技でくり抜き、風呂を作った。
質は悪いが石鹸もどきも作った。
落ち物の魚を放って水の安全も確かめた。あとは沸かして入るだけ。
「せっかく綺麗なんだもの、ちゃんと髪も手入れしなきゃ」
嫌がる娘を風呂に沈める。湯は一瞬で濁った。すぐに入れ替える。
質が悪く泡立ちにくい石鹸をつけ、娘の全身を撫でまわす。
数回同じことをしてやっと水が澄んだままになったころ、私も湯船につかった。
「ふう、やっと綺麗になった。これからは数日毎に一緒に入りましょう」
「うう、もうお嫁にいけない……」
娘は顔を真っ赤にして湯船につかっている。
服は落ち物で新たに作った。あとで着替えさせる。
汚れが落ちて臭いのもなくなれば、ちゃんと女の子のいい匂いがする。
だが、今すぐ襲って血を啜ろうとは思えない。
「今まで、頑張ってたのね。もう、私がいるから大丈夫」
その体を抱きしめた。娘は一瞬びくりとするがそのままおとなしくしている。
「はい、何度も死にかけました。もういっそ。そう思ったのも一度や二度じゃ……」
娘はそう言って涙を流した。その背中を何度もなでる。
全身に痛々しい傷がある。化け物に襲われてついた傷だろう。
まだ塞がり切っていないものもあり、わずかに血が滲んでいる。
思わずというか、本能のなせる業かその傷をなめてしまった。
「ひやぁ―― な、何をするんですか!?」
娘が思わず立ち上がる。頬を紅に染めとても怒っている。しまった、と思う。
私が人でないとバレれば面倒なことになる。
「ほ、ほら。動物も傷を舐め合って治すでしょう? この方が早く治るから」
「な、なるほど。流石、博識ですね」
ちょろい。まんまと騙されてくれた。
私が傷から出る血をこっそりといただいても、もう疑問に思わないようだ。
心地よい湯につかりその笑顔に私の胸は再び不思議な温かさを感じる。
束の間の安息。
その数日後、あのようなことが起きるとは思いもせず。
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