第8話 ボス攻略からの新スキル
「それじゃあ、このダンジョンのボスを倒しにいきましょうか。」
「やっとだね。虫ばっかりだったから虫じゃないのが良いんだけどなぁ。」
「まあ、普通に考えると虫だろうね。」
「そんなこと言わないでよ。自分に言い聞かせてたんだから。虫じゃない、虫じゃないって言い聞かせてるんだから。やめて!!私の希望を潰すのはやめて!!」
「分かったから行くよ、虫退治。」
「ねえ、わざとでしょ。怒るよ?怒っちゃうよ?」
「その怒りの矛先はボスモンスターでお願~い。」
「いや、アヤネに向けるよ。」
「はいはい、なら開けよう。ずっと揺れてるし。」
「ボスが揺らしてるのかな?」
「そうじゃない?オケラを倒したときよりも揺れが大きいし。こんなに揺れるなら虫じゃないかもね。」
「ホントに!!じゃあ、開けよう。すぐ開けよう。」
「それじゃあ、良い?せーのっ、」
2人で同時に大きな扉を押す。
ガガガガガ、ザザザザ、ザア
「暗っ!!何も見えない。」
「落ち着きなよ。すぐに明るくなるから。多分。」
「最後の言葉でとてつもなく不安になったんだけど。」
「大丈夫だって。現に私たちの周りは明るくなってるじゃん。」
アヤネがそこまで言うと明るいところが奥へ奥へ広がっていき、無数の穴が見えてきた。
「ね、ねえ、アヤネ。この穴は何?」
「なんだろう。この中にボスがいるってことかな?」
「穴に潜ってるってこと?」
「多分、そうだと思う。とりあえず近づいてみる?」
「怖いけど、そうしよう。」
「穴に潜る虫って何かいるかな?これまでに出てきてない虫で。......いなくない?」
「......幼虫」
「なんの?カブト?クワガタ?」
「いや、モグラ。」
「はい?モ、モグラ?虫じゃないよ?」
「虫じゃないかもしれないじゃん。アヤネが虫って言うから吊られちゃった。だからさっきのなし。」
「もしも、モグラだったら全身を使ったモグラ叩きってことだね。」
「そうだね。」
2人が部屋の中央まで歩いてきたとき、収まっていた揺れが再び揺れた。それもさっきとは比べ物にならないくらいの大きな揺れだ。アヤネとユアはしゃがんで、倒れないようにすることで精一杯だ。そのまま耐えること3秒。揺れは収まった。
「ユア、大丈夫?」
「大丈夫、アヤネは?」
「私も大丈夫。でも急にどうし━━━━━」
「アヤネ?」
アヤネが途中で止まったことを疑念に持ち、ユアはアヤネが向いている方向に目を向ける。そしてユアも動きを止めてしまった。
そこには虫ではなく......モグラがいた。
「アヤネ、私の勘が当たったみたい。」
「そうだね。めんどくさい戦いになる予感がするのは私だけかな。」
「潜るだけじゃないの?」
「それだけならオケラと同じだよ。何かめんどくさい能力を持っている気がする。
「とりあえず攻撃しよ。攻撃パターンが変わるまでは。」
「そうだね。私は観察で。あ、あとダメージ受けないでね。私の夢を叶えるために。」
「夢?...よく分からないけど分かった。」
「ありがとう。じゃあ、気を引き締めて行こう。」
「おー!!」
「【隠密】」
アヤネの気配が薄くなっていく。ユアは攻撃を受けないようにモグラに近づいていく。
「アヤネの夢ってなんだろう。気になるけどそれは被ダメ0のご褒美ということで。.....えいっ。」
ユアはモグラの頭上にジャンプして目を潰す。
「アヤネの目潰しが移っちゃったかも。」
頭に着地したユアはそう呟きながら頭に長剣を刺しながら、背中の方に走っていく。ユアが通ったところには綺麗なダメージエフェクトが上がる。
「うわあ、エフェクトがすごい。真っ赤っ赤だよ。」
モグラは断末魔をあげながら転がり始める。
「暴れないでよ。綺麗に斬れな、うわっ、落ちる!!尻尾に叩かれる!!の前にこの巨体に潰されて死ぬ!!アヤネ~!!」
「【火遁】」
ユアは潰される直前にその場から姿を消し、少し離れた場所に現れた。
「はあ、アヤネさんや、毎度毎度ギリギリ過ぎやしませんかね~?」
「え?その方がスリリングで興奮するじゃん。」
「ダメージ受けないでって言うならもうちょっと余裕をもって助けてほしいかな。」
「そもそも助けてもらわないといけないようなプレイをやめようよ。」
「あのねぇ、私は今日始めたばっかり、なんなら2時間前に始めたばっかりの超ビギナーだよ?無理でしょ。」
「私も昨日始めたばっかりのビギナーだよ。ていうかこのゲームをしている全ての人がビギナーだよ。」
「確かに、それは、そうだけど。」
「でしょ?ならもう一回、行ってらっしゃい。」
「アヤネは?」
「攻撃の観察ですがなにか?ほら暴れるのに飽きてこっち来てるから。頑張って来いっ!!穴、落ちないでね。」
「落ちんわ!!あれっ?『ゴツン』イタタタタ、言われたばっかなのに穴に落ちちゃった。でも横に繋がってる。ちょっと進んでみよ。」
ユアはボス攻略の途中ということを忘れてしまった。穴に落ちて見つけた横穴。興味を惹かれるのは分かるがここはボス部屋。ボスが掘った穴をボス攻略中ということを忘れて進む。1人で来ていたならとんでもない自殺行為だ。
「こういうところって何かありそうな感じがするよね。」
わくわくしながらどんどん進むユア。一方、地上ではアヤネが頑張ってモグラの攻撃を凌いでいた。
「ユア、絶っ対に穴落ちてから探索してる。くっ、このモグラ鬱陶しい!ユアにメッセージ送りたいけど目、離したら殺られる。」
モグラのモンスターは土を投げてくる。その全てがダメージになりうる。つまり全てを回避し続けなければいけない。そのためメッセージを送ろうにもキーボードを押そうとすればダメージを受けるため送れないでいる。
「仕方ない、【水遁】【隠密】」
モグラの視界が水に覆われる。その隙にアヤネはユアにメッセージを送った。
メッセージが届いたユアはというと
「ん?アヤネからメッセージ?えーっと、『ボス攻略中でしょ!!早く戻って来なよ。』あ、そういえばそうだった。けど、どこから戻れば良いの?」
そう、何も考えずに左折やら右折やらをして進んで来たためどこをどう行けば良いのか分からないのである。実際は歩き続けていればいつかは出られるのだが、そんなことは知る由もない。
「どうしよう!!アヤネ、帰り道が分からない、どうすれば、良いと思う?と返信来るまで適当に歩いてよ。」
ユアのメッセージを見てアヤネは「あいつ潰す。」と心の中で呟き、【変わり身】を使ってモグラの頭に立つ。そして
「とりあえず視力は完全に奪っとくね。」
グサッ
潰されていなかった目も潰されたモグラが暴れ始めたためアヤネは一旦、モグラから離れ、ユアに返信しようとした。が、そこでシステムアナウンスが聞こえ新たなスキル獲得を知らせた。
〈スキル【忍術Ⅱ】がスキル【忍術Ⅲ】になりました。〉
〈スキル【忍術Ⅲ】によりスキル【気配感知】【忍具生成Ⅰ】を獲得しました。〉
「これは勝った。火力が出なかった私が火力を出せるようになった。つまり最強。【忍具生成:爆裂手裏剣】」
スキル【忍具生成Ⅰ】
MPを15消費して何かに刺さった瞬間に爆発し、300のダメージを与える手裏剣、刺さった相手に毎秒50の毒攻撃を5秒間与える手裏剣、刺さった相手を10秒間麻痺させる手裏剣を作ることができる。
「さて、この手裏剣でどこまで減るかな。でも、とりあえず近づいて投げよ。当たらなかったら意味ないし。」
アヤネはモグラが投げてくる土を躱しながら少しずつ近づいていく。モグラとの距離15メートルといったところでアヤネはさっき作ったばかりの手裏剣を投げつける。
「ここら辺からなら届くかな。あー、でも土に当たったらダメかもしれないし土に当たらないように上に投げとこ。それっ。」
手裏剣は高く、大きな放物線を描きながらモグラに向かっていく。だが、角度が上過ぎたのかモグラには当たらず、モグラのほんの少し前の地面に刺さった。その瞬間、手裏剣は爆発し、モグラはもちろん、アヤネも吹き飛ばされた。アヤネは反射的に【火遁】を使い、ユアのところに転移して爆発からは逃れることが出来た。ユアは突然のアヤネ登場に驚いたが、自分も困っていたためすぐに笑顔になった。
「アヤネ、どうした?スゴい爆発音が聞こえたけど。」
アヤネはユアが穴に落ちてからのことを説明した。
「なるほど。新しいスキルを試したら思ったよりも強力で思わず【火遁】で逃げてきた、と。ところでさ、アヤネどうやったら出られるの?」
「え?適当に歩いてたらいつか━━━━━━来てる。」
「へ?来てる?何が?」
「あのモグラ。」
「ウソ、本当に?」
「本当よ。【忍具生成:麻痺手裏剣】。ユア、私の後ろに走って。私がこの手裏剣をあのモグラに当てて時間稼ぐから。それで縦穴見つけたらそこから地上に出て、メッセージ送って。転移するから。」
「分かった。気を付けてね。」
「うん。」
ユアはアヤネの後ろに走って行く。ユアが走り始めてから10秒ほど経ったときにモグラの姿をアヤネは捉えた。
「さあ、かかっておいで。動けなくなってる間に逃げるから。」
モグラのHPゲージは半分まで減っており、黄色になっていた。
「あれで4分の1くらい削れたんだ。なら今さえ凌げれば勝てるかな。」
その言葉と共にアヤネは猛スピードで進んでくるモグラに手裏剣を投げつけた。
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