第9話 脱出からの攻略完了

ユアはアヤネに言われるがまま穴の中を適当に走っていた。そして7回目の別れ道に差し掛かったとき、ついに地上へと繋がる縦穴を見つけた。それを赤い帽子をかぶったおじさんの壁キックのごとく上ろうとする。が、4回蹴ったところで滑り落ちてしまった。ならば仕方がないと両手を縦穴の壁の中心を通る一本の直線になるように付き、足も同じようにして少しずつ壁を上る。そうすること3分ほどで地上、もとい穴に落ちる前にいたボス部屋に戻ってきた。




「やっと着いた~。あ、そうだそうだ。アヤネにメッセージ送らないと。」




そう言いながらユアはアヤネに穴から出たことを報告した。




その3秒後、アヤネは土汚れまみれになった状態で現れた。






◇◇◇


アヤネはモグラに麻痺手裏剣を投げつけるとユアが行ってない方向へ走り始めた。




「ユア、頼むから早くね。逃げ切れる自信がこれっぽっちも無いから。」




その言葉通り、モグラが動けるようになってから3秒後、つまりアヤネが走り始めてから13秒後にはモグラはアヤネが通ってない道から現れた。




「そりゃ、そうだよね~。この穴掘ったのこのモグラさんだろうしね~。最短距離が分かるよね~。どうしよっか。とりあえず走っとこう。」




アヤネはモグラが出てきた反対方向に向かって走る。が、AGIの数値がアヤネよりも高いのかだんだん距離が縮まってきている。




「うわあ、私よりも速いとか誰も逃げらんないじゃん。ここって一層だよね?ダンジョンのレベル高くない?それよりも忍者のダンジョンの方が簡単なのはダメじゃない?あれ、隠しダンジョンでしょ。隠しよりも正規がムズイっておかしくない?」




ダンジョンの難易度を愚痴っている最中にもモグラはアヤネに近づいていてその距離は3メートルにもなろうかというところまで迫っていた。アヤネはこのままでは殺られると思い、使えるスキルを確認するがまだどれも使えない。仮に使えるようになっても【水遁】が最初のため使えない。ユアのところに移動できなくなってしまう。考えを巡らせていると別れ道を見つけた。アヤネはそこで一か八かの賭けに出ることにした。




「これしか突破口は見つからない。成功すれば儲けもの。でも失敗したなら確実に死ぬ。どっにしろこのまま走るだけじゃ確実に死ぬ。ならやってみる価値はある。」




アヤネはそこの別れ道を右に曲がった瞬間、左側の壁に跳び、左側壁を蹴り、地面と平行に天井ギリギリの宙を舞う。モグラはそれに反応できずにアヤネの下を通る。モグラの体とアヤネの間は10cmもない。アヤネはモグラの背中に落ちると転がってモグラの進行方向とは逆の地面に転がり落ちる。3回転してから立ち上がると急いで走る。モグラの逆に。モグラはすぐに引き返してくるがアヤネとの距離はさっきよりも広がって15mほどになっていた。




「はあはあはあはあ、危なかった~。成功してよかった~。これでちょっとは時間稼ぎ出来たはず。それにしてもギリギリだったな~。」




アヤネの言う通り、ギリギリ尽くしの回避だった。別れ道に入った時にはモグラとの距離は2m、跳んで壁を蹴った後の空中でのモグラとの距離は10cm、何か1つの行動が少しでも遅かったら、AGI極振りではなかったら、パルクールをしていなかったら、ダメージは確実に受けていただろう。死んでいた可能性も大いにあり得る。本当にギリギリな回避であった。その後も走り続け、モグラとの距離が5mまで縮まった頃、待ちに待ったメッセージが届いた。




「よしっ、やっとだ。バイバイ、【水遁】」




アヤネはモグラの前から消えた。【水遁】をご丁寧にもモグラの方に向かって発動して。








♢♢♢


こうしてユアのもとへ転移してきたアヤネは地面を転がったときに土まみれになったのであった。




「アヤネ、どうしたの?その汚れ。」




「話すと長くなるからまた今度ね。」




「りょーかい。」




「さてと、そんなに休憩してないけど第2ラウンドの開始だよ。」




「よ~し、勝つぞ~。」




2人が武器を構えると、このダンジョンのボスであるモグラのモンスターが土の中から出てきた。




「あれ?半分になってる!!何したの?」




「あの爆発だよ。」




「あ、なるほど。」




「それじゃあ頑張ってね。あ、一応、言っとくけど、もうあの爆発出せないから。陰で応援してるからね。【隠密】」




「あれ?またですか。仕方がない、このユア様の華麗な勝利を見せてやろう。」




アヤネが【隠密】を使ったためモグラはユアしか眼中にないためユアに向けて一直線に進む。ユアはその場から一歩も動かず、モグラがユアを潰そうと左前足を降り下ろしてきたときに動き始めた。モグラの左前足をバックステップでかわす。そして左前足に向けて走りだし、横薙ぎに長剣を振るって左前足を切断した。




「よしっ。」




満足気な声を出すがすぐに振り返り、ボスを見る。ボスは「グワアァァン。」って感じで叫ぶとユアの方を向き、戦闘態勢を整える。するとユアが「次は私ね。」と言わんばかりにモグラに向かっていく。それを見て陰でこっそりとしていた人物が頭に手を当てたことにはもちろん気づかない。ユアは跳び、長剣を振り上げ、頭を叩き斬ろうとした。それに対してモグラは.....土に潜った。




「!!」




ユアはその行動に対応出来ず、その体勢のまま硬まってしまった。さらに着地する直前、着地点の土が盛り上がり、そこからさっき土に潜ったモグラが出てきた。そして口だけ出した。ユアはそれによってパニックの絶頂へと昇っていった。今にも口の中に入り、食べられそうになったときに助けが入った。




「【火遁】」




モグラに食べられることなく、ユアはアヤネによって救出された。




ユアは起こった事が予想外過ぎて助けられてからも硬まっていたためアヤネはビンタした。パチンッと音を出した頬の持ち主であるユアはその1撃でフリーズが解除された。




「痛い。なぜ?」




「壊れたものは叩いて直すって言うでしょ?フリーズしたらとりあえず叩いてみるのが私だから。」




「だからって人を叩くな!」




「それと」




「おい、無視るな。」




「HPゲージが黄色になってからの攻撃を見てないのにどうして突っ込んだの?反省も兼ねて行ってこい!!」




モグラは話している間に結構、近づいてきていた。




「え?って近っ!!アヤネも加勢!!」




「だが断る。」




「こんなときにネタいらないから!!」




「ほら、集中。華麗な勝利でしょ?【変わり身】」




アヤネがどこかに消えた。




「おい!!くっ、」




ユアは降り下ろされているモグラの爪を長剣でどうにか受け流すと懐に入り、斬ってない右前足の肩を斬り上げる。右前足の肩は切断され、モグラが痛そうな声を上げる。と同時にHPゲージの色が赤色へと変化した。ユアは肩を斬り上げた後、すぐに逆方向に走り出す。モグラは右半身を地面に打ち付ける。ユアはその逆に走っていたためノーダメージですんだ。そこにさっき消えたアヤネがやってくる。




「おめでとう、ユア。あとちょっとだし倒したいでしょ?もちろん倒させてあげますとも。思う存分暴れちゃってください。それじゃ、」




アヤネはそれだけ言うとどこかに走っていった。




「アヤネめ、このダンジョン、クリアしたら絶対に1回はぶつ。覚悟しとけよ。」




ユアはモグラに正面を向け、長剣を構える。モグラもユアに正面を向け、戦闘態勢を取る。両者、同時に敵に向かって走り出す。が、モグラのHPゲージは赤色に変わっており、攻撃パターンが変わっている。ユアはさっきの反省を生かしてゆっくり走り、モグラの動きをよく見ながら進む。するとモグラが向きを急に変えて止まり、尻尾をぶつけにくる。ユアは警戒していたのもあって高く跳ぶことで難なく躱せた。のだが、モグラがまた土に潜ってしまった。ユアは着地時を警戒するが何もしてこなかったためユアが首をかしげているとどこからかアヤネの叫び声が聞こえた。




「跳べ!!」




ユアはその一言を聞いた瞬間に思いっきり上に跳んだ。ユアがジャンプの最高到達点に達したとき、さっきまで自分が立っていた場所からモグラの顔がひょこっと出てきて、モグラも跳ぶ。ユアめがけて一直線に上昇してい。ユアはモグラの行動に驚いたものの冷静に動いた。剣を振りかぶり力の限り振り下ろす。その斬撃は上昇中のモグラの頭を真っ二つにし、ボスモンスターはダメージエフェクトを散らしながら消滅していった。

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