第99話 健一さんと文化祭 誰…っすか?
俺達は『お肉』と大きく書かれた文字に引かれ、一つの模擬店へと足を運んでいた。ここでは、肉巻きおにぎり棒や肉巻きチーズなど串で食べ歩きしやすい物が沢山ある。
俺は手を繋ぎ、お腹を空かせている真緒に何を食べるか聞くために話しかけた。
「真緒は何が食べたい?」
「そうっすね、私はチーズの肉巻きがいいっす」
「分かった、じゃあ俺は肉巻きおにぎりにしようかな。真緒も食べるだろ?」
「食べるっす!」
「分かった。買って来るから真緒はどこかで待ってて」
「じゃあ、あそこで待ってるっすね」
そう言った真緒は賑わうエリアから少し離れた場所を指さした。
「あそこね、買ったらすぐに行くよ」
俺は真緒の後ろ姿を少し眺めてから、買いに模擬店へと歩き出す。お店の前に立つと賑わう声と、濃い匂いが周りを囲っていた。
なんだか、夏祭りを思い出すな。
そんな事を思いながら真緒の為にも、何本か買った方が良いと3本ずつ買い待っているであろう場所へと足を運ぶ。
真緒はどこまで行ったのか、少し歩いても姿が見えてこない。
「どこまで行ったんだ?」
真緒は、以前にナンパにあったから心配になる。早く見つけないと、そう思い辺りを見回していると久しぶりに聞く声で呼ばれた。
「もしかして羽島君?」
俺は呼ばれた方に振り向くと、そこには久しぶりに見る長い茶髪を揺らし綺麗な瞳と子が立っていた。
「…
「うん、久しぶり高校以来かな」
そう言って懐かしい笑顔を振りまく彼女は、高校時代に付き合っていた元彼女の
俺と別れてからは一切連絡もしていなくて今日こんな場所で会うなんて思いもしなったから驚きだ。
「そう、だな」
あまり顔を合わせたくなくて逸らし気味にぎこちなく返事をすると、花園さんはこちらに歩みを進め近づいてくる。
「ねぇ、羽島君。今日は友達と来たの?」
「え、い、いや…」
「もし、今一人なんだったら一緒に回りたいなーなんて。どうかな」
そう言って両手の塞がっている俺の腕に抱きついて来た。身長は俺と同じくらいで胸もそれなりにある彼女の弾力は少し懐かしさを感じるものだったが、全くと言って嬉しい気分にはなれない。寧ろ、怖いまである。
高校時代に付き合っていたからとしてもこの距離の詰め方は異常な気がした。前の彼女はもっとお淑やかでこんなスキンシップを好むような人では無かったからだ。
人は数年で変わってしまう、その事を少しばかり実感してしまう。
俺は塞がっている両手を動かし振り解こうするが、がっちりと掴まれて離れそうにない。
「花園さん、離してくれないかな」
「えー、私は離れたくないなぁ。久しぶりの再会なんだし、ちょっとくらい良いじゃん!」
「ごめん俺、彼女居るからこういう事をされるのは困るんだ」
「え…か、彼女?」
俺がそう言うと花園さんは目に見えて動揺し始める。
「そ、そうなんだ。羽島君彼女出来たんだ…どんな人?私よりも可愛い?」
「うん。あの子以上に可愛いと感じる子はもういないと思うくらいには可愛いよ」
「へ、へぇ…一度見てみたいなぁ。羽島君の彼女、挨拶したいし」
「俺の彼女は人見知りなんだ。そういうのは遠慮するよ」
俺は花園さんと真緒を会わせるのはしたくないと思いそう言ってしまう。真緒は案外自信がない子だ、毎日のように愛の行為ととれるキスやハグもしたいからという意味だけでは無いと感じる。
それは付き合う前から、たまに言っていた傍に居る事の確認からも分かるように。
だから俺もそんな不安に思う必要がないように受け入れている。好きだからしたい、そんな単純な物になれるように俺も彼女を好きでいる。
不安な事など何も感じて欲しくない、そう思うのに無情にもまだ腕から離れない花園さんとは別で俺の事を呼ぶ声が後ろからして来た。
「誰…っすか?」
「真緒…」
振り返るとそこには、怒りなのか不安なのか焦りなのか良く分からない表情をして唇を震わせている真緒の姿があったのだった。
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ここまで読んでいただきありがとうございます!
次回:第100話 健一さんと文化祭 私っすよね?
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現在連載中
『傷心中に公園で幼馴染の妹を段ボールから拾ったら、めちゃくちゃ世話してくれるようになった』
https://kakuyomu.jp/works/16817330662341789174
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