第96話 健一さんと文化祭 えへへ、美味しいっすか?
俺だけの特別サービス。真緒はそう言って教室前の裏手へ行ってしまった。
さて特別サービスとはなんだろうと考えるが、全くと言って出てきそうにない。
真緒のこう言うサプライズ系は予想の斜め上を行くから、予測なんて出来た覚えがないしな。
一番予想出来なかったのは誕生日でのヌード写真集だ。
あんなの誰が予想出来るんだって感じだし、修学旅行に急に付いて来てと言ってきた時も驚いた。
と言うことは今回も派手に斜め上のものを出してきてくれるのだろう、期待しておこう。
そう思っていると、お盆にオムライスを乗せた真緒が戻ってきた。
「健一さ…ご主人様、出来上がりましたっす」
「う、うん。ありがとう」
真緒は俺以外の接客をしていないからかご主人様呼びに慣れておらず、少し拙さを感じるが、一生懸命に役に成り切ろうと頑張っている姿は見ていて感動する。
メイド服もラフな格好を好む真緒は着慣れないだろうに、俺の我儘に付き合ってくれているのは涙が出てきそうだ。頑張ってデザインして本当に良かったよ。
だから、きちんと言わないとな。
俺は料理を運び終わり、対面の席から椅子を隣に持って来ている真緒に言う。
「俺の我儘に付き合ってくれて本当にありがとう、メイド服すごく似合ってるよ。可愛い」
「えへへ、そう言って貰えて嬉しいっすね」
そう言って真緒はピッタリと椅子をくっ付けて肩が当たる距離で座り始める。家では膝の上に乗るくらいには近くに来るが、ここは学校ということもあり真緒も控えているのだろう。
まぁ、この距離でも十分近く他のお客には羨望の眼差しを向けられているが、そんな事を気にしている余裕はない。真緒とイチャついても怒られないなら場所など些細な問題に過ぎないのだ。
どんな事よりも真緒優先、それが当たり前になりつつあり。最近は仕事の休憩中真緒と触れ合っているし料理をする後ろ姿を見ているだけでも疲れが取れる気がするからだ。
そんな事を考えていると右隣に座る可愛い真緒は手を繋いできた。
「一つ目は手繋ぎっす」
「それが特別サービスってやつなのか?」
「そうっすよ、ここからなら他の人には見られないっすから。存分に触れ合えるっす」
「…最高だな」
学校の日はこの時間真緒に会う事すらできず、触れ合う事なんてありえない。でも、今なら普段とは違う空気感の中楽しむ事が出来る。
俺はそう思い真緒の手を握り、指を動かすと自然な形で絡み合う。
「なんかドキドキしちゃうっすね」
「そ、そうだな」
これくらいなら別に見られても恥ずかしくはないが、家ではない場所でコソコソといちゃついているのはちょっといけない事をしている気分になってくる。
真緒も俺と同じなのか、少し顔が赤くなっている気がした。
「つ、次のサービスっすね。ご主人様はオムライスになんて書いて欲しいっすか?」
「それは、特別サービスとは違うのか?」
「そうっす、オムライスに付いてるやつっす」
「そうか。じゃあ、何にしようかな」
俺はオムライスに書いて貰う言葉を考えていなかったので少しだけ悩んでしまう。こんな時はどうするか…
「おまかせって出来る?」
「出来るっすよ。ちょっと待っててくださいっす」
そう言った真緒は、オムライスに文字を書いてくれる。
『あいしてる』
字はそこまで綺麗じゃないが、一生懸命に書く姿を見ていると気持ちが伝わってくる。
書いている事は王道といったものだったが、真緒に書いて貰ったという事実が俺にとっては凄く嬉しい。
「書けたっす。どうっすか?」
「いいね、嬉しいよ」
「良かったっす。それじゃあ次のサービスっすよ」
真緒はスプーンを手に持つと、オムライスの端に切れ目を入れて掬う。そしてあーんといって俺の口の中へ…
口を閉じると、ケチャップの酸味とチキンライスの仄かな甘みが広がり凄く美味しい。
前にも真緒のオムライスを食べた事はあるが、場の雰囲気で味も変わる。いつもと変わらない、真緒の料理なのについ笑みが溢れてしまう。
「えへへ、美味しいっすか?」
「うん、美味しいよ」
もしこれが特別サービスの一つなのだとしたら、とても安心する。次はどんなことをしてくれるのだろうかと、周りから向けられる嫉妬の視線に気付かず少しだけ期待してしまうのだった。
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ここまで読んでいただきありがとうございます!
次回:第97話 健一さんと文化祭 次はこれっす!
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現在連載中
『傷心中に公園で幼馴染の妹を段ボールから拾ったら、めちゃくちゃ世話してくれるようになった』
https://kakuyomu.jp/works/16817330662341789174
甘々作品なので気になれば是非読んでいただければ幸いです!
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