第87話 健一さんと急な来訪者 これでまた思い出が出来たっすね
「それじゃあ磨くからな」
「お願いするっす」
そう言うと真緒はゆっくり口を開いて、歯並びの良い白い歯、舌が見えてくる。そして舌が徐々に口から出てきて…
「おい、真緒舌を出したら歯が磨けないだろ?」
「舌からして欲しいなあって思ったんすけど、健一さんの舌で」
「真緒、もう歯磨きどうでも良くなっているだろ」
「……」
俺がそう言うと図星を突かれたのか口を閉じて目を逸らしてしまう。歯磨きをして欲しいと言ったのは真緒なのに、仕方ないやつだな本当に。
「歯磨きが終わったらしてあげるから今は歯を磨かせて」
「ほんとっすか?約束っすよ」
「約束だ」
「わかったっす」
次は素直に聞いてくれるみたいだ。俺は歯磨き粉の付いた歯ブラシを真緒の口の中に入れていく。
最初は手前から磨くため、柔らかい下唇を軽くつまみ下の歯に歯ブラシの毛先をあてる。
歯ブラシの毛先を歯と歯ぐきの境目で軽く小刻みに動かす。
シャコシャコ
俺と真緒だけの空間に歯を磨く音だけがしている。
「真緒、痛くないか?」
真緒は喋れないからか、右手でグッドの形を作り痛くない事を教えてくれた。それを見た俺は少し安心して、次々と歯を磨いていく。
人の歯を磨くなんて経験がないからわからないが、真緒が目を瞑って気持ちよさそうにしているのを見ると案外楽しいかもと思い始めてきた。
シャコシャコ
手前の歯を磨き奥の歯へと動かしていく。奥になるにつれて磨くのが難しくなり時間が掛かってしまう。
暫く磨いていると真緒が肩を叩いてきて、何かを訴えてきている。なんだろうと顔を見ると目を強く瞑り苦しそうにしていた。
「ど、どうした?」
「んー、んー!」
何か言いたそうにしているが、わからず少し後ろに下がると真緒は口を閉じて洗面台でおえっと吐き出した。
俺はすかさず、水の入ったコップを真緒に渡すと口に含み再びペっと吐き出す。
「健一さん、唾考えてくださいっすよ」
「ごめん、磨くのに集中してて」
「まぁいいっすけど、次は気をつけてほしいっす」
少し真緒に叱られてしまったが、歯磨きをしていれば唾が自然と溜まることを完全に失念していた。
次は気をつけようと、コップに水を入れて真緒の前に立つ。
「次反対行くからな」
そう伝えて、先程とは反対側の歯を磨いていく。大体磨き方がわかったので苦戦することはないが、真緒に言われる前から唾の溜まり具合に目を配る。
そして何度か口を
初めは楽しいかもと思っていたが案外大変で歯医者さんの苦労というか大変さがわかった気がする。
「ふぅ終わったぞ真緒」
「ありがとうございますっす。すごくスッキリしてるっすよ。これでまた思い出が出来たっすね」
「それなら、よかった。部屋に戻ろうか、涼香も待ってるだろうし」
「健一さんはしないんすか?」
そう言う真緒は俺の服の袖を掴む。これはあれか俺が磨いたのだから真緒も磨きたいと言う事なのだろうか。
でも、まだご飯食べてないしその後でもいいような。
「真緒、ご飯食べてからでもいいか?」
「いいっすよ!」
磨いたのが気持ちよかったのか嬉しそうに返事をしてくれる真緒を見ていると、たまには磨いてあげるのもありかななんて考えてしまう。
「またして欲しいっすね」
「はいはい、たまにならな。今は涼香に怒られないように早く戻らないと」
「それもそうっすね、涼香ゲームでもしてるっすかね」
「どうだろ案外漫画読んでたり」
「健一さんのえっちな本すか?」
「んなわけ」
そんな涼香が何をしているのかを冗談交じりに話して2人揃って部屋に戻るため扉を開けるとそこに待ち受けていたのは2人の想像を超えたものだった。
「すぅはぁ、すぅはぁ、お兄ちゃんの匂い…久しぶりの…はぁぁぁ最高♡」
「「……」」
「この一枚持って帰っても、バレないよね…いや二枚三枚でも…」
「何やってるんすか涼香」
「あっ、真緒ちゃん…」
涼香はベッドの上で俺の下着を頭から被り匂いを嗅いでいたのだ。涼香は真緒の姿を見るや顔を青ざめていき、軽く肩を振るわせ始める。真緒の顔は見えなかったがよくないオーラを放っていたのは隣に居るだけでも、ひしひしと感じ取れた。
「涼香、今から外に出されたいんすか?」
「ひっ…ご、ごめんなさーい!!」
攻守逆転と言わんばかりに涼香の綺麗な土下座姿を見ることになり、台風明けには出禁を喰らうなどこの時の俺には知る由もないのだった。
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ここまで読んでいただきありがとうございます!
次回:第88話 健一さんと急な来訪者 外す訳ないじゃないっすか!
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現在連載中
『傷心中に公園で幼馴染の妹を段ボールから拾ったら、めちゃくちゃ世話してくれるようになった』
https://kakuyomu.jp/works/16817330662341789174
甘々作品なので気になれば是非読んでいただければ幸いです!
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