第86話 健一さんと急な来訪者 健一さん私のせいにするんすか

「お、お兄ちゃん達何してるの!!」

「ん?どうしたんだ涼香」


「何かあったっすか?」


 凄くあれな声が聞こえてきて、耐えられなくなった私は叫びながら勢いよく扉を開けると、そこには鏡の前で椅子に座る真緒ちゃんと右手に何かを持ったお兄ちゃんが居た。


「何してる?」


 2人とも服を着ているから想像していたものと違い、私は状況が分からず思わず尋ねてしまう。


 するとお兄ちゃんが右手に持っている物を見せながら説明してくれた。


「なにって、歯磨きだけど?真緒がして欲しいって言うから」

「あ、健一さん私のせいにするんすか。酷いっすよ」


「仕方ないだろ?実際そうなんだから」

「そ、そうっすけど…」


 真緒ちゃんはなにやら言い包められてしまっている。だが、未だ状況を完全に理解できていない私はどういう経緯でそうなったのかを求めようと聞くことにした。


「えっと、それでなんで真緒ちゃんは歯磨きをして貰っているの?」

「聞いて下さいっすよ涼香ー。健一さんお風呂で私に発情してたから、聞こえないようにすればって誘ったんすけど、ヤらないの一点張りで」


「当り前だろ!今日は涼香が居るって真緒も言ってたじゃないか」

「そうっすけど、あんなに大きくしてたら私もしたくなるってもんじゃないっすか」


 とお互いに睨み合い喧嘩が始まってしまいそう。これって私が原因だったりしないよね?早い所終わってほしいな。


 そう思っていても話は続く。


「仕方ないだろ、いつも一緒に入ってるからって真緒の身体にはまだ慣れそうにないんだから」

「そ、それってやっぱりしたいって事っすか?良いっすよ今からでも――」


「真緒ちゃん?」

「ひっ…す、すまないっす涼香」


 私は少し怒り気味に真緒ちゃんの名前を呼ぶと、身体を震わせて足の細い椅子の上で体育座りをし始める。


 ため息を一つ付き、とりあえず変な事をしていないと確認が出来たので部屋に戻ろうと声を口を開く。


「もう長くなりそうだから私戻るね。くれぐれも真緒ちゃん誘っちゃだめだからね、お兄ちゃん真緒ちゃんには甘いんだから」

「涼香、俺は別に甘くないぞ?」


「お兄ちゃんどれだけ好きだからって歯磨きをしてあげるなんておかしいからね?」


 そう言うとお兄ちゃんは自分の行動がやっとおかしい物だと理解したのか、「それもそうだな」と言って真緒ちゃんと見つめ合う。


 なんか痴話喧嘩に自分から巻き込まれに行ってるみたいで嫌になり、洗面所を後にするのだった。



*****



 涼香が洗面所を出て行ってから俺と真緒は黙ったまま見つめ合っていた。


「健一さん、磨いてくれないんすか?」

「今の空気をよく言えるよな」


 真緒は涼香が居なくなるとケロッと表情を変え、期待に溢れた目で俺の顔を見て来る。そもそもなんで俺が真緒の歯を磨く事になったのかというと。


『し、しないからな?』

『えぇ、そんな事言ってほんとはしたいんすよね。ちょっとしたコミュニケーションの一種っすよ?大丈夫っすよ声を抑えれば聞こえないっすから』


 お風呂に入っている時、真緒が誘って来て一瞬心が揺るぎそうになった。だが、俺も常識を備えたものとして頑張って耐える。


『い、いや今日は絶対しないから!』

『本当にしないんすか?』


 寂しそうに座っている真緒は俺の顔を見上げるように振り返ってくる。いつもならこんな顔をさせてしまったら、我慢が出来ないだろうが今日は特別だ。


『ごめんな、本当に今日は出来ない』

『本当の本当にっすか?』


『あぁ』


 そう言うと真緒は軽く頬を膨らませて来る。可愛い、いつもなら抱きしめてキスするんだけどお互いに裸だし俺が我慢が出来なくなりそうだから今日はしないでおく。


 でもこのまま何もしないというのは真緒が可哀想だしなぁ。


『真緒何かして欲しいことあるか?エッチ以外なら何でもいいぞ?』

『何でも…じゃあ抱きしめてキスしてくださいっす!』


『ごめんそれもなしで』


 真緒は不満なのかまた頬を膨らませている。

 どうしてこういう時に限って的確な所を当てて来るのだろうか。いや、真緒の事だ、いつもしている行動を要求してきているだけという可能性はある。


『真緒、他にないか?』

『そうっすね…普段して貰ってる事をするのも面白味ないっすよね。健一さん、私達ってまだしてない事あったっすか?』


『うーん、なんだろ。お風呂は一緒に入っているし、髪も乾かしてあげてるし。ご飯だって食べさせ合ってて…他にって言ったら、歯磨きくらいか。でも一人でするものだしな』


 そうは言ったものの風呂も髪もご飯も全部一人でする事だよなと考えてしまった。


『それっすよ健一さん!』

『え?』


『歯磨き!して欲しいっす』


 とこんな感じで真緒の歯磨きをしていたという事だ。


「健一さん、早く早くー」


 真緒は続行を求めているようだ。涼香を待たせてしまっている状況だから出来るだけ早く終わらせる事にしよう。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ここまで読んでいただきありがとうございます!


次回:第87話 健一さんと急な来訪者 これでまた思い出が出来たっすね


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現在連載中

『傷心中に公園で幼馴染の妹を段ボールから拾ったら、めちゃくちゃ世話してくれるようになった』

https://kakuyomu.jp/works/16817330662341789174


甘々作品なので気になれば是非読んでいただければ幸いです!

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