第84話 健一さんと急な来訪者 あれを出すっすか

 真緒にご飯を作れそうにないと言われ、急いで冷蔵庫の中を確認した。あったのは今晩に使うであろう物が少しだけ。


 確実に3人分もないし、買いに行くとしても外は本降りに近い。今日の夜に台風が来るとなると今から出かけるのではもう遅いだろう。


「ま、真緒どうするんだ?」

「…」


 真緒は考えているのか目を瞑り無言で顎に手を当てていた。俺も涼香も料理は出来ないので、申し訳ないけど真緒頼りになる。


「あれを出すっすか、健一さんには食べて欲しく無かったんすけど」


 そう言う真緒は不服そうにキッチンの棚からある袋を取り出して来た。あれはたしか、真緒がここに頻繁に来るようになってからあった物で開けるなと強く言われていた物。


 袋はかなり膨らんでおり、中に何か物が一杯入っているのだろうと窺える。


「真緒それって何が入ってるんだ?」

「……」


 俺は真緒に聞くが無言で、机の上に袋を置いて座ってしまった。袋の口はテープで固く結ばれている事からあまり俺には見られたくない物なのだろうか。


 だが、食材の無い現状を打開できるのならとテープをハサミで切って中を覗いてみる。


「こ、これは…」

「お兄ちゃん、何が入ってるの?」


「カップ麺だな、それも大量の」

「おーすご。これ真緒ちゃんが買ったの?」


「買ってないっすよ。健一さんのため込んでいた物っす、カップ麺は身体に悪いから隠してたんすけど、そうも言ってられなさそうなので今日と明日だけっすよ健一さん」

「なんで俺に言うんだよ」


 納得がいっていないのか真緒は不機嫌だ。頬を膨らませて、眉を寄せて睨んでくる。


 それにしても、凄い量だ。ソース焼きそばにラーメン、うどんそれにレトルトや缶詰まで賞味期限は切れているが出かけなくても食べられるように買ったのがこんなにも隠させていたなんて…真緒のご飯が美味しすぎて忘れていたな。


 改めて思い返すが真緒が現れてからの一年ちょっと、レトルトやカップ麺にお惣菜と手軽に摂取できる物は主食として食べていなかった。


 それだけ真緒が俺の健康重視にご飯を作ってくれていた事を実感する。


 毎日ご飯を作るのは大変だろうに、レトルトに頼らずに作ってもらっていたのか。


「真緒、ここに来て」

「?はいっす」


 俺は自分の膝を手で叩き真緒を誘う。すると素直に座ってくれる軽く柔らかい真緒を優しく後ろから抱きしめる。


「ありがとう、これまで料理も他の事も」

「健一さん…」


「お礼になるか分からないけど、何かさせて欲しい」

「そんな、私は健一さんに健康に居て欲しいだけっすよ。でも、そうっすね何か。今は出てこないので見つかったら言うっすね」


「分かった、いつでも言ってな。一つじゃなくてもいいし」


 そういうと真緒は体重を俺の胸に掛けてきた。温かくてとても安心する。自然と抱きしめる力が強くなって顔が近くなってしまう。真緒も顔だけをこちらに向けて、触れそうな距離に近づいた時、前からゴホンッとわざとらしい咳払いが聞こえてきた。


「あの、私が居るからそう言うのは見てない所でしてくれないかな」

「あ、そうだったな。忘れてたよ」


「涼香一回、一回だけだからさせて欲しいっすよ」


 真緒はこの状況でも平常運転のようで、涼香の許可を貰おうとしている。この展開前も見たような…夏休み前に。


 でも今は、流石に家だし真緒のスイッチが入らないとも分からない。ここは出来るだけ穏便に済ませたい所。


「真緒、あとで一杯しよう。だから今は落ち着こうな」

「いやっす!今したいっすよ」


 そう言って真緒は身体をこちらに向けて抱き着いてくる。


「ま、真緒ちゃんが、こんなに駄々をこねる子だなんて。お兄ちゃん何したの…」


 若干涼香は引いているのか顔を引き攣らせている。まぁ、俺からしたらいつもの真緒だけど、普段の態度とまるで違うのだからそんな顔になっても仕方ないよな。


「断じて俺は何もしてない。ただ毎日真緒のしたいようにさせてただけで」

「それが原因だよ!甘やかしすぎたんだよ。私の前ではそんな幸せそうな顔しないのに」


「涼香それは当たり前っすよ、友達と好きな人だと対応が変わってくるっす」


 真緒はごく当たり前のように言って抱きしめる力を強くしてくる。もしかしてこのまま粘るのだろうか、自分としては真緒とキスしたいが…


「真緒、先お風呂入っちゃおうか」

「あ、そうっすね。お風呂なら好きにできるっすもんね、健一さん沸かしてくるっす」


 そう言うと真緒は立ち上がりお風呂を沸かしに行った。これでこの場は切り抜けたと胸を撫で下ろしていると涼香は俺に向かって口を開く。


「お兄ちゃんと真緒ちゃんって、もしかしてお風呂一緒に入っているの?」

「あっ」


 また一つ涼香に要らない情報を与えてしまったようだ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ここまで読んでいただきありがとうございます!


次回:第85話 健一さんと急な来訪者 ちょっとしたコミュニケーションの一種っすよ


応援、☆☆☆レビューよろしくお願いします!励みになります。



現在連載中

『傷心中に公園で幼馴染の妹を段ボールから拾ったら、めちゃくちゃ世話してくれるようになった』

https://kakuyomu.jp/works/16817330662341789174


甘々作品なので気になれば是非読んでいただければ幸いです!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る