台風とお泊り

第81話 健一さんと急な来訪者 健一さん覚えてるっすか?

 夏休みが終わり蒸し暑い日々が続いている中、真緒は薄着でべたべたとくっ付いてくる。


「健一さん熱いっすね」

「そりゃ抱き合ってたら熱いだろうよ」


「困ったっすよ、熱いっすけど離れたくないっす」

「俺も離れたくはないけど、熱いのは深刻な問題だな。熱中症になるわ」


「健一さんクーラー付けたいっす」

「そうだな。真緒リモコン取ってくれる?」


「えー健一さん取って下さいっすよ」

「真緒の方が距離近いと思うんだけど」


「引っ付いてるんすから距離なんて変わんないっすよ」

「それもそうだな」


 そんなやり取りをしながら、休日を2人で謳歌していた。真緒は「今年初めて夏休みの宿題で怒られなかったっす!」と喜んでいた事もあり、久しぶりの宿題の無い休日で気分も高揚しているのだろう。


 俺も朝から真緒とイチャつけるので仕事をしている場合ではない。いつか働かなくてもお金を稼げたら、真緒とずっとこうしていたいな。


「健一さん、朝ちゅーの続きしないっすか」

「そう言って10分前にもしただろ?」


「んー、もう1回したいっす」


 そう言う真緒は顔を近づけて来る。いつか5分毎でせがんで来そうだな、まぁ俺もしたいので文句は言わないのだけど。


 そう思い真緒の唇に重ねようと顔を近づけたとした所でタイミング悪く、呼び鈴がなってしまう。


「ん!誰っすか、私と健一さんが愛を育んでるって言うのに」

「お、落ちるけ真緒。配達の人とかだろ。向こうも仕事で来てるんだろうし――」


「お兄ちゃーん!」

「よし、真緒怒っていいぞ」


「健一さん、涼香には容赦ないっすね。仲直りしたんじゃないんすか?」

「真緒とのキスを邪魔されたんだ、怒るに決まってるだろ?」


「そうっすね!怒ってくるっす!」


 冗談で言ったんだけどな、そう思っていると真緒は立ち上がり玄関を開ける。


「涼香どうしたんすか?」

「ま、真緒ちゃん居たんだ」


「?居るも何も私の家でもあるんすから当たり前じゃないっすか?」

「?どういう事?」


 どうやら涼香に真緒と同棲している事を伝えてなかったようだ。これはひと悶着ありそうな…そう思っていたが、真緒が5分ほど玄関で説明をすると「なんだー」と馬鹿みたいな声が聞こえて来る。え、今ので終わり?


「健一さんただいまっす」


 そう言う真緒はさっきと同じく俺の膝の上に乗り涼香に背を向けるようにして肩に顎を乗せてきた。


 俺もこの態勢だと真緒を抱きしめやすい事から気に入ってる。


「あの、私一応お客さんなんだけど…その、目の前でイチャつかれると…ね?お兄ちゃん」

「何の用だ?」


「あ、もう私の話は無視なんだ。まぁ良いけど。えっとね改めて仲直りの印にとプリン買ってきました!それも、北海道からのお取り寄せだよ!」

「ぷ、プリン!?涼香食べたいっす」


「おぉ、真緒ちゃんデザートには食いつくのね」

「真緒もう少しでお昼だからそれまで我慢しような」


「はいっす…」


 真緒はプリンと聞くと顔を涼香の持っていた袋に向けるが、お昼だからと言うと明らかに残念そうに返事をしてくる。なんだか悪い事をしてしまったみたいで、俺の分は一口食べたら後はあげよう。


「じゃあ健一さんお昼作るっすね」

「あぁ、お願い」


「涼香もお昼食べるっすか?」

「え、いいの?真緒ちゃんのご飯美味しい凄く食べたい!」


「了解っす!」


 そう言うと真緒は俺の膝から降りてキッチンの方へと歩き、冷蔵庫を開けて食材を出し始める。さて今日はどんなお昼になるのだろうか。


「真緒、今日のお昼は?」

「今日はっすね、焦がし醤油チャーハンっす。健一さん好きっすよね」


「大好きだわ、ありがとう」

「いえいえ、それじゃあすぐ出来上がるっすからね」


 俺の質問に答えると、クルンと後ろを向きまな板で何かを切る音が聞こえて来る。涼香は俺との会話を聞き、真緒の料理姿をじっと見つめこちらに振り向くと質問してくる。


「いつ結婚するの?」

「え?何その質問」


「いやだって、もう夫婦みたいな会話じゃん。距離感も近いし」

「そうかな、いつもこんな感じだけど」


「いつもって、お兄ちゃん達いつからこんななの…付き合ってから?」

「いつからだっけか、真緒が家に来た時には料理してくれてたしな」


「そうっすね、一年と半年前位っす。私覚えてるっすよ、私が健一さんの為に初めて作った時の反応。あれで料理が一段と好きになったんすよね」

「へぇ、なんか素敵。因みに真緒ちゃんがお兄ちゃんに初めて作った物って何?」


「確か…あ、ふふ健一さん覚えてるっすか?」

「えっ…そ、そりゃあ…覚えてる、よ」


「そうっすよね、凄く美味しそうに食べてたっすもんね」


 とは言ったものの思い出せない。何食べたっけ?真緒の料理はいつも美味しいから、次への期待のせいで最初に食べた物なんて覚えてないぞ。無難に俺の好きな物から当てずっぽうに言った方が良いだろうか。


 そう、答えが中々見えずしどろもどろしていると一緒にテーブルに着いている涼香が近寄って来て小さく耳打ちしてくる。


「お兄ちゃんこれ応えられないと、喧嘩の原因になっちゃうよ」

「おい、プレッシャー掛けるなよ。こちとら全然覚えてないんだぞ?」


「夫婦の危機だね。頑張って」


 そう言う涼香はなんだか楽しそうに笑みを浮かべる。悪魔かこいつは!もしここで答えられないとどうなるのだろうか。


 怒りはしないだろうが真緒が悲しむ事になってしまう。それだけは嫌だ。


 いつまでも笑顔の真緒を見ていたい。なら、もう思い出すしかないか…あの日、あの日は確か…


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ここまで読んでいただきありがとうございます!


次回:第82話 健一さんと急な来訪者 じゃあ明日作るっすね


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現在連載中

『傷心中に公園で幼馴染の妹を段ボールから拾ったら、めちゃくちゃ世話してくれるようになった』

https://kakuyomu.jp/works/16817330662341789174


甘々作品なので気になれば是非読んでいただければ幸いです!

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