第78話 健一さんと前日のお昼 ふふ、覚えてたんすね
「私が瑠々華のお姉ちゃんになる前…安達になる前に」
「え?」
「私、瑠々華と血が繋がってないんすよ。当然、お母さんとお父さんとも」
俺はあまりの衝撃の事実に驚き、声が出ない。真緒は俺の顔を見ず網の上に置いたサザエを見詰めて続きを話す。
「小学1年の頃っすね。本当の両親が事故で亡くなって、今の安達家に引き取られたんすよ。その頃の事なんて全然覚えてないんすけど、唯一覚えてるのは料理っすね」
「料理?」
「はいっす。私、物心ついた時から包丁持ってたんすよ。元両親2人が料理人だったらしくて、あ、これは今のお母さんから聞いたんすけど。ずっと料理を教えてくれてたっす、顔も名前すら思い出せないのに料理だけは身体が覚えてるんすよね」
これまで一度も、真緒の過去について聞いたことが無かった。真緒と付き合う前は俺自身に余裕もなかったし、知りたいとすら思っていなかったと思う。
でも、今は聞きたい。
「そっか、その中にサザエもあったんだ」
「そうっすね。私の舌が和食よりも洋食が好きだったり、家族全員が料理てんでダメなんすけど私だけが料理出来たり、胸の大きさが対局にあったりと、探せば色々出て来るんすよね」
そうだったのか。初めて真緒のお母さんにお会いしたときに顔が綺麗でお母さん似なのだろうと思ったが、どうやら違うらしい。真緒の顔が綺麗で可愛いのは変わらないが。それにしても胸を言った辺りが少し強調されていたように感じたが今は気づかなかった事にしよう。
「でもそのせいなんすかね。私がこんななのにいつも優しくて、健一さんと出会った時の話をしたらお母さん泣いてたんすよ、本当の家族みたいに。だから、少しでも恩返しがしたいんす。幸せになってもう大丈夫って言ってあげる為に」
真緒のご実家に行った時、結婚の話が異様に早かったのはそう言う理由もあったのだろう。そんな話を聞かされたら…いや、聞かなくてもか。
「真緒は俺が絶対に幸せにするよ。これは約束。俺との約束は覚えられるんだろ?」
「約束…ふふ、覚えてたんすね」
「当り前だ」
真緒の熱が出た日にちょろっと言っていただけだけど、忘れられるか。そして俺も約束を破棄にする気は無い。
「これから、またこの前みたいにちょっとした事で喧嘩するかもしれない。でも、真緒と別れるなんて選択は絶対にしない、言いたい事があれば思いっ切りぶつけてくれて構わないよ。暴力はごめんだけど…」
真緒がこれまでどんな子でも誰の子でも、そんなのは関係ない。
俺は小指を立てて左手を持ち上げると、真緒は少し不思議にこちらを見て来る。
「約束。口だけじゃ信用できないだろ?」
「ふふ、子供っぽい約束の仕方っすけど悪くないっすね」
そう言う真緒は右手の小指を絡ませる。
「うるせ、真緒はまだ子供だろ」
「えー健一さんと5つしか年変わんないっすよ?」
「十分離れてるよ」
「ふふ、ありがとうございますっす。約束、守ってくださいっすね」
真緒は微笑み指を強く絡ませてくる。俺も応えるように強く絡ませ…
「あれ、いつの間にサザエ焼いてたのお姉ちゃん」
と良い所で瑠々華ちゃん帰還。逆に今まで気づかなかったのが不思議でしかない。
「あー、さっきからっすよ。瑠々華のお肉は別のお皿に移してあるっすから、サザエが出来るまで食べてていいっすよ」
「はーい、お姉ちゃんありがとう!」
元気よく感謝を述べる瑠々華ちゃんは真緒が避けておいたお肉を食べ始める。それを見た真緒はこちらに顔を近づけて、耳元で囁く。
「さっきの話、瑠々華には内緒っすよ」
「え、知らないの?」
「瑠々華が2,3歳の頃なんすから覚えてるわけないっすよ。それに、別に言わなくても良いっす、血が繋がってなくても私の大切な家族っすからね」
真緒はそう言うと汁の出てきたサザエを調理を始める。左手でトングを持ち「健一さん、醤油入れてくださいっす」と俺にも手伝わせるようだ。
だが、真緒の右手も今は塞がってしまっているから仕方がない。
結んだ小指はお店を出る時まで続いたのは二人だけの秘密。
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ここまで読んでいただきありがとうございます!
次回:第79話 健一さんと夏祭り! きちんと話し合って下さいっすね
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現在連載中
『傷心中に公園で幼馴染の妹を段ボールから拾ったら、めちゃくちゃ世話してくれるようになった』
https://kakuyomu.jp/works/16817330662341789174
甘々作品なので気になれば是非読んでいただければ幸いです!
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