第74話 健一さんとお酒の味 それとこれとは違うっす

 土下座を継続してからだいぶ時間が経った。だが、真緒は風呂からまだ上がってこない。真緒と風呂に入る時、あまり時間が掛からないのでおかしい気がする。


 これは一度聞きに行った方が良いだろうか、いや今は真緒が戻って来た時に怒っている事をもっと深く反省した方が良いに決まっている。


「土下座の角度…土下座の角度を…」

「健一さん何やってるんすか?」


「あ、真緒ごめ――」

「なんで入ってこないんすか」


「へ?」

「私先に入ってるって言ったっすよね。なんで入ってこないんすか?」


 真緒の予想外の言葉に驚き床に付けていた顔を上げると、脱衣所の扉からひょこっと顔をだし頬を膨らませていた。まだ怒っているんじゃないのか。


 そう思っていると、


「健一さん早く来てくださいっすね。まだ洗ってないんすから」

「え?あ、はい」


 そう言った真緒は扉を閉め姿が見えなくなってしまう。あまり状況を把握できていないが、これは洗いに行くべきだろうか。


 俺は痺れた脚を頑張って動かし、扉を開き服を脱いでいく。


「お、お邪魔します」

「遅いっすよ」


「い、いやぁ。真緒怒っているだろうしさ、今日は別々に入るのかなって…」

「怒ってるっすよ。でも、それとこれとは違うっす。お風呂とベッドとエッチは何があっても毎日一緒っすから!」


 何か凄い事を言って来たような気はするが、一緒に住んでいるのに喧嘩?したままというのも居心地が悪いし、話せる機会があるのは純粋に助かる。


「分かった、それじゃあ洗うな」


 俺はいつも通り、シャワーで髪を濡らしシャンプーを付けて優しく洗っていく。普段ならここで会話があるのだが、今日は静かだ。これは相当怒ってらっしゃる、本当に俺は何をやらかしてしまったんだろう。


「健一さん」

「は、はいっ!」


「何そんなにびっくりしてるんすか、少しくらいお話ししてもいいじゃないっすか」

「そ、そうだな。じゃあ一つ聞きたいんだけど」


「なんすか?」

「真緒の服が脱げてたのってなんで?」


「それは、健一さんが無理やり…脱がしてきたからっすよ」

「む、無理やり…」


 やはりそうか、真緒の許可なく強引にヤろうとしてたのか。最低だな俺は!


「ごめん真緒、酷い事してしまったよな」

「酷い事?ま、まぁ傷付いたっすね」


「本当に申し訳ない、何か償いをさせてくれないか」

「償いってそんな大げさな、でもそうっすね。明日の早朝ランニングはもう少し距離伸ばすっすかね」


 に、肉体的刑罰という奴か。そんな無慈悲な…そう思ってしまうが、冷静に考えると真緒が受けた傷はそれほど大きいって事になるよな。これは10㎞、20㎞は覚悟しておいた方が良いだろうか。


「健一さん次は身体洗ってくださいっす」

「あ、あぁ」


 その後はあまり会話も弾まぬまま体を洗い合い、髪を乾かしている最中。


 真緒は挙動不審に周りに見て何かを探しているように見えた。


「真緒何か欲しい物でもあるのか?」

「あ、えっと…いや大丈夫っす。それより次は健一さんの番っすよ」


 そう言って強引に場所の交代を促してきた。まだ髪が湿っている事に違和感を感じながらも今は従った方がいいだろうと、洗面所にある椅子に腰掛けるのだった。



*****



 酔った健一さんにお腹を触られてから私は体重を気にしていた。夏休みに入ってから、碌に運動もせずご飯を食べていたせいかお腹を摘むと、ぶよってきている気がする。


 胸が無いのにお腹が出てしまったら印象としては最悪、健一さんに嫌われてしまうかも。


 明日からランニングの距離を伸ばす予定ではあるし、明後日までには少しでも体重を落としたい。


「真緒、大丈夫か?」

「え、何がっすか」


「いや、全然宿題に集中できてなさそうだからさ」

「そうっすか?でも、はい…少し疲れてるんすかね」


 今日も健一さんに宿題を見て貰っているが、体重が気になりすぎて集中が出来ない。さっき洗面所の隅から隅まで見たけど体重計らしき物は見当たらなかった。


「健一さん、私って…」


 聞きたいのに私は言葉を詰まらせる。自分が太って健一さんにとって魅力が落ちてしまっているのか、知りたいのに怖い。また、言われるのが。


「真緒、今日はもう宿題辞めようか」

「え…」


「一度きちんと話したい、このままなのは嫌だからさ」


 そう健一さんは真剣な顔で私の顔を見る。でも、僅かに唇が震えているのが分かって怖いと感じているのは私だけじゃないんだと気づかされた。


 それでも勇気を出してこのギスギスした感じを解決しようと動いてくれている。私だって怖いけどちゃんと話して解決したい。


「分かったっす、じゃあ私からでいいっすか」

「うん、お願い」


 一度落ち着かせる為に小さく深呼吸をして口を開く。


「健一さんは私の身体の事どう思うっすか?」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ここまで読んでいただきありがとうございます!


次回:第75話 健一さんとお酒の味 一つ約束して欲しい事があるっす


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現在連載中

『傷心中に公園で幼馴染の妹を段ボールから拾ったら、めちゃくちゃ世話してくれるようになった』

https://kakuyomu.jp/works/16817330662341789174


甘々作品なので気になれば是非読んでいただければ幸いです!

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