第73話 健一さんとお酒の味 私先にお風呂入ってるっすね

 健一さんが酔ってお膝の上で抱きしめられ始めて10分ほどが経過した。ご飯はまだ残っているけど、私は色んな意味でお腹いっぱいだ。


 普段健一さんから積極的に抱きしめたり、キスしてくれたりはない。


 でも今の酔った健一さんは大違いでそんなレアな姿を私の前で披露してくれているのだからギャップが凄すぎて性癖が曲がりそう。


「真緒は温かいなぁ」

「はふぅ」


 健一さんの腕の中で体温を感じていると頭を撫でてくれる。優しく撫でてくれて、背中に手を添えて包み込んでくれるこの感覚は寝る時に近い。


 ずっとこのままで居たいと思ってしまうが、まだやる事が残っている状況だし私の我儘に付き合って貰っている健一さんをお風呂にも入れてあげないと。


「健一さん、ご飯も十分食べたっすから次はお風呂行かないっすか?」

「お風呂ー?うん、行こっか…」


 健一さんはそういうと抱きしめる力を緩め、立ち上がるのかと思っていると…


「け、健一さん!?」

「脱ぎぬぎしないとねー」


 後ろに回されていた手が裾を掴み少し強引気味に服を脱がそうとしてくる。


「自分で脱げるっすから!脱がすのは寝る前でお願いしたいっす」


 流石にお風呂に入るだけだというのに脱がされては困る、別に嫌ではないが変にスイッチが入ってまうし、まだ宿題だって残っているのだからもう少し待ってほしい所なのだけど。

  

 必死に止めようとする私だが、なぜかいつもより力が強く抵抗虚しく裸にされてしまう。恥ずかしさのせいか大切な所を隠していると、健一さんから熱い視線を感じる気がする。膝の上で身動きの取れない中ただ見つめられるだけというのはちょっとだけゾクゾクしてきちゃう。


 これはお風呂よりも先にしちゃうのかな、でもそうなると準備しないとそう思っていると健一さんから予想外の言葉が飛んできた。


「真緒、少し丸くなった?」

「…なっ」


 丸く、なった…?それって太ったって言いたいの?私がショックを受けていると健一さんはまだ続ける。


「いやぁ、ここのお腹回りとかプニプニしてきたよねー。あは、柔らかー」

「…」


 お腹を摩ったり摘んだりと楽しそうにしていて、いつもならその顔は好きだけど今だけは感情が抑えられそうにない。酔っていても言って良い事と悪い事くらいは区別を付けて欲しい所、このままだともっと酷い事を言ってきそうで右手に力が入り大きく振りあげる。


「真緒ー?」

「健一さん…」


 この後私が何をするか理解出来なていないのかぼけーっとした顔で名前呼んでくる。腰に手を回されて動けず水も取りに行けないから、これは仕方ない事。健一さんなら理解してくれる、そう思い顔目掛けバチンッと音を立ててビンタした。


 部屋に音が響いた後正気に戻った健一さんは、何が起こったのか分からないと言った表情で赤くなった頬を摩りながら私を見てくる。


「すみません健一さん、私先にお風呂入ってるっすね」


 私は逃げるように脱衣所へと向かった。



*****



 激しい痛みと共に意識が戻った直後、何故か裸の真緒が不機嫌そうに『すみません健一さん、私先にお風呂入ってるっすね』と言って風呂場に行ってしまった。


 何が起こったのか全く記憶にないが一つだけわかる事は。


「真緒を怒らせてしまった…」


 昔にもこんな経験をしたことがあるが、あれは飲み会でやってしまったなーくらいの申し訳なさがったが、今回はそれとは比にならないほど心が痛い。胸の痛みと顔に響く痛み、その両方が真緒を傷つけてしまった代償なのだろう。


「何したんだ俺は…」


 後ろにあるベッドに頭だけを乗せ、小さく呟き原因を考える。

 真緒に睨ませた事はこれまでもあったが、それは決まって第三者がいる状態で起こっている。一度目は真緒のご実家に行った時『瑠々華ちゃんを見習ったら』と言うと睨まれ、二度目はこの前海に言った時前にいる人の胸——水着を見ていて睨まれてしまった。


 だが、今回は俺と真緒の二者間で起こったとなると考えられる事は絞られてくる。


「確実に俺が何かしたな」


 記憶としてはお酒を飲む前の所までは覚えている。つまり、酔った勢いでやらかした事になる訳で…そもそもなんで真緒は裸だったんだ?


 そこから考えないといけないだろう、そう思い俺はさっきまで真緒が居たであろう部屋を見回す。テーブルの上には食べ終わっていないご飯、飲みかけのお酒、床に落ちている真緒の衣類。あ、今日の真緒のパンツはしまパンなんだ。


 ん?そう言えばなんで俺は服を一枚も脱いでいないんだろう。


「俺が服を脱いでいないで、真緒は裸。食べかけのご飯…っ!」


 これは…やってしまったのかもしれない。もし俺の仮説が正しいならとんでもない事を仕出かしたのかもしれないぞ。


 俺は洗面所兼脱衣所の扉に身体を向け、頭を擦り付けるように土下座をした。


「真緒を無理やり犯そうとしてたなんて彼氏でもやっちゃいけない事だろ…」


 盛大な勘違いをしているとも知らず土下座をし、扉が開かれるのをしばらく待っているのだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ここまで読んでいただきありがとうございます!


次回:第74話 健一さんとお酒の味 それとこれとは違うっす


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現在連載中

『傷心中に公園で幼馴染の妹を段ボールから拾ったら、めちゃくちゃ世話してくれるようになった』

https://kakuyomu.jp/works/16817330662341789174


甘々作品なので気になれば是非読んでいただければ幸いです!

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