第72話 健一さんとお酒の味 はあぁぁ、幸せっす~
ウォーキングが始まって4日が経った今日、「もう少し歩くっすよ」という真緒の提案で最寄りのスーパーを寄って帰る事になった。
駅からもう1キロ歩き今晩の夕食の買い出しをしているのだが、俺はある物を見つけて足を止める。
「健一さん何見てるんすか?」
「ちょっとね、久しぶりにこのお酒見たなって」
夏限定で売られている濃いレモンチューハイ。
俺は普段お酒を飲まないが、こいつを見つけてしまっては話は別だ。去年、真緒に隠れて飲んでいた程に好きなお酒。
アルコールの苦みが慣れない人でも飲めるようにレモンのエキスがふんだんに使われている。
「健一さんこのお酒好きなんすか?」
「うん、結構好きかな」
「健一さんの好きなお酒…飲んでみたいっすね」
「真緒にはまだ早いよ、でもそうだな。久しぶりに飲みたいし買おうかな」
「おっ!じゃあ私もー」
お酒を買う俺を見て何か飲み物が欲しくなったのだろうか、そう思い買い物かごを左腕に掛け飲み物を選ぶ後ろ姿を眺めている。
どれにしようかなと独り言を零す真緒を見ていると、いつか一緒にお酒を飲むのも悪くないかななんて考えてしまう。
「健一さん私これ飲んでみたいっす!」
「どれどれ…?」
真緒は飲み物の置いてある棚を指差して言う。
「おい、俺にはお酒に見えるんだが?しかも結構度数高いやつ」
「そうっすよ、健一さんが今日飲むやつっす」
「俺なの!?こんなの飲んだら絶対酔うんだけど…」
「酔えばいいじゃないっすか、前に約束したの覚えてるっすよ?」
「うっ、修学旅行の時か…」
真緒とした約束の事を思い出して頭が痛くなってくる。俺は缶一杯だけでも酔うくらいには酒に弱い。だから去年は隠れて飲んでいたのに、なんであんな約束してしまったのかと過去の自分を殴りたい程だ。
「正直、真緒の前では酔いたくないんだけど…」
「ダメっす、酔うまで今晩は寝かせないっすよ」
そういう真緒は俺が酔う姿を見たいのかニヤニヤしている。人の酔う所なんて見て何が楽しいのか分からないが、してしまった約束は撤回できないし特に今は仕事が溜まっているわけでもない。
「分かった酔えばいいんだろ?約束は守る…だが、その手に持っているお酒は戻してくれないか。飲み過ぎると倒れちまうよ」
「えー、健一さん缶2本もダメなんすか?私のお父さんは毎日3本は飲んでたっすよ」
「すまん俺は1本で酔う自信がある!」
俺が自身のお酒に対して耐性が無い事を自慢ではないが赤裸々に話すと、信じられないと言いたげな顔をしてくる。
失礼だなと思ってしまうが、まだお酒を飲んだことが無いとなると妥当な反応なのかもしれない。俺も20歳過ぎるまでは皆が飲めるなら自分も大丈夫だと思って飲み会開始一分でべろんべろんになった黒歴史がある。因みに飲み会は絵描き仲間としたもので『お前はもう飲むな』と後日注意喚起を貰った。
という事で今晩は記憶が飛ぶ覚悟をしないといけないらしい。
「はぁ、今日は短い夜になりそうだな」
「?長い夜の間違いじゃないんすか?」
多分真緒にとってはそうだろうな、心の中で思い買い物を済ませて帰路に就くのだった。
*****
「真緒ー♡」
「け、健一さん!?」
いつも通り夕食を作り健一さんの美味しそうな表情を堪能した後お待ちかねのお酒を飲んで貰ったのだけど、缶2口目で酔ってしまったようで今は健一さんのお膝の上で向かい合って抱きしめられ、耳元で甘い声で私の名前を呼んでくる。
「はあぁぁ、幸せっす~」
つい心の声が漏れ出てしまう程に私の気持ちは昂っている。
まだご飯食べ終わってないけど、今日の夜は長くなりそうだと改めて確信するのだった。
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ここまで読んでいただきありがとうございます!
次回:第73話 健一さんとお酒の味 私先にお風呂入ってるっすね
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