第69話 健一さんと二人だけの花火 もう私とのキス飽きちゃったんすか?

 BBQも終わり、花火の準備をし健一さんに少し笑われる事もあったけどお楽しみの時間がやってきた。


 私はシュッーと音を立てて光る花火を手に持ち、一人眺めている。健一さんもそれに続いて蝋燭に近づけ花火に火をつけた。


「真緒、色変わる奴じゃなくていいのか?」


 健一さんは、変色する花火がしたいのかそう聞いてくるけど、私にも考えがあるのだ。私が持っているのは赤色の花火、健一さんが持っているのは青色の花火。


「健一さんの花火、私の花火に近づけて貰えないっすか?」

「こ、こうか?」


 健一さんはまだ意味がわかっていないのか、顔を少し傾けながら指示通りに私の花火に近づける。


 そして、健一さんの花火が私の花火に交差するように接すると、


「おおー!!紫になった!」

「ふふ、健一さんいい反応するっすね」


 健一さんは花火の色が紫に変化すると、子供の様に目を輝かせ始める。花火なんてしたのいつぶりだろう、子供の頃瑠々華がしてみたいって言うからお母さんたちが買ってきてくれたんだよね。


 その時は、瑠々華の我儘に付き合ってるだけだったからそこまで楽しくなかった。


 でも今日は、隣に健一さんが居る。それだけで、楽しい気持ちが湧き上がってくるみたい。


 暗い夜に花火と蝋燭の明かりだけが残る。私たちと同じで浜辺で花火を楽しんでいる家族やカップルが見え、楽しそうに笑っている声が聞こえてきた。


 私達はどうだろう。純粋に花火を楽しんでいるのだろうか、多分健一さんは表情を見るにそうだろうけど…私は、花火ではしゃぐ健一さんの顔から目が離せないでいる。


 肩が触れ合う距離で、健一さんを見ていると手に持っている花火の音が耳に響いているはずなのに、それすらも今の私には届かない。


 いつも普通だの、パッとしないだの言っているけどそんなのただの照れ隠しだ。他の人がどう言おうと私は健一さんの顔に見惚れてしまっているのだから。


 付き合ってもう4か月弱が経つというのにまだ健一さんの事を目で追ってしまう。そして次第に目線は健一さんの口元へと移動する。


 食事中にしてくれたキス、食後にする約束をしたけどいつするとは言っていなかった。てっきりすぐにホテルに帰ってすると思っていたのに、花火なんて聞いていない。私を喜ばせたくてしてくれた事だってのは分かるけど、今私の意識は別の所にある。一回じゃ満足できないよ…


「真緒、次どれにする?」

「…へ?」


 健一さんの私を呼ぶ声で我に返ると、花火の火は消え蝋燭だけが灯っている。健一さんの顔に見惚れて、花火の事を完全に忘れてしまっていた。


「そ、そうっすね…」


 私は誤魔化すように次の花火を選ぶ仕草をする。けど、今は健一さんの事で頭が一杯で何を選べばいいか分からない。でも早く選ばないと…そう思い、花火の袋に手を入れ適当に掴む。


「じゃあ、次これしたいっす!」


 私は何を掴んだのか確認せずに健一さんの目の前に出す。


「真緒これ好きなのか?」


 訝し気な目を私に向け健一さんはそう言って来る。どうしてそんな表情をするんだろうと私は自分が手に持った花火を見るとそこには『蛇花火』と書いてあった。


 なんだっけこれ?やった事ないんだけど。


 でも、やりたいと言ってしまった手前引くわけにもいかないし。


「だ、大好きっすよ!」

「…」


 健一さんは私の事をジト目で見つめて来る。もしかして、嘘がバレた?


「まぁ真緒がやりたいならいいけど」


 諦めたような表情で健一さんはそう言うと私の持っていた袋から黒いスーパーなどで見かける牛脂みたいな物を取り出し始める。


 こ、これが花火…?


 どういうものかさっぱり分からないけど、健一さんはテキパキと準備を進めていく。砂の上に黒い物体を置くと「真緒、ちょっと待てて」と言ってBBQで使ったガスバーナーを持ってきた。


 蝋燭の火で付けるんじゃないんだ、そう思いながら健一さんを観察する。


「んじゃ付けるよ」

「はいっす!」


 健一さんは火を近づける。そして…


「なんすかこの地味なの…」


 着火すると物凄い煙を上げ、さぞや凄い花火なのだろうと予想した。けど、実際は黒い物体からにょろにょろと燃えカスが伸びるだけ。


 最後の最後に何か仕掛けがあるのかと思っていたが、何もなく終わってしまう。何が楽しいのかさっぱり分からない。が先程自分がつい口から出てしまった事を思い出し、健一さんの方を見ると呆れたような表情を見せ口を開く。


「真緒、蛇花火やった事ないだろ」

「は、はいっす…」


「別にそこは気にしてないよ、でも真緒さっきからどうしたの?俺の顔見てたけど」

「気づいてたんすか!?」


「うん、まぁ隣にいれば気付くでしょ」

 

 バレていたのかと思うと凄く恥ずかしい。やっぱり健一さんは誤魔化せないかも…そう感じていると健一さんはそろそろと言い、話を締め出す。


「そろそろ線香花火でもするか。真緒は他の事がやりたいみたいだし」

「うっ…はは、健一さんはなんでもお見通しっすね」


「そりゃ、真緒の事はよく見てるし。好きなら当然だよ」


 好きなら当然、私もそうだから分かる。健一さんのちょっとした仕草が気になる、楽しそうにする表情だったり美味しそうにご飯を食べる時の目を瞑る癖だったり。そんなちょっとした事を知っているのは私が健一さんのことが好きだから。


 それが健一さんも同じで私の事を見てくれている。なら…


「じゃあ健一さん!今からして貰えないっすか…」

「いいよ、周りに人居るけど暗いから見えないよな」


 そう言う健一さんは少し恥ずかしそうに頬を掻きながら言うけど、否定はしてこない。もし今が昼間なら一度はダメって言われていたかもしれないと思う。


 それでも最後には健一さんが折れてくれていつもしてくれる。そういう私の為なら少し躊躇う様な事でも、妥協してくれる所も好き。でも、最近はやり過ぎかなって我儘言い過ぎかなと感じる事がある。自重しないと…


「真緒、するのはいいが普通にするのは面白みがなくないか?」

「…健一さんはもう私とのキス飽きちゃったんすか?」


「いや、そうは言ってない。真緒とのキス好きだよ、でもここは家じゃ無いんだ。いつもしないキスをしないかって事」

「いつもしないキス…いいっすね」


 私は普段するキスは好きだ。安心するし、深いキスをすれば健一さんを一杯感じられるから。

 でもいつもしないキスも気になる。


「わかったじゃあ、これを使おうか」


 そう言って健一さんは花火を出した鞄の中から別の花火の袋を取り出し、私に見せてくれる。そこに書いてあるのは『二人で楽しむ線香花火〜カップル向けラブラブ線香〜』と大きく表記されていた。


 健一さんがこう言う物を恥ずかしげもなく購入するとは思えないけど、もしかしたら健一さんも私ともっといちゃいちゃしたいと思っているのかもしれない。私だけじゃ無かったんだ。少しうれしいかも…


 でもこれでどんなキスをするんだろ?


「この線香花火は二人で持ってするんだよ、だから両方が協力しないとすぐ落ちてしまう」

「つまり、落ちるまでの間キスするって事っすか」


「そ、だから落下したらそこまで。因みに一回限りだ、文句は言わせん」


 どちらかが、落としてしまった場合そこでホテルまでお預けを食らってしまうと言う事。別にホテルに着いたら一杯すればいい話だけど、それだと面白みがない。これは思っている以上に面白いかも…


「わかったっす!絶対落とさないっすからね、健一さんも落としちゃいけないっすよ」

「あ、あぁ。じゃあ始めるぞ?」


 そう言った健一さんは、線香花火のもう一方を持ち私も残りの一方を掴む。蝋燭の近くにバケツを持ってきて、いざ着火!


 すかさず私は健一さんに顔を近づけ、唇を重ねる。線香花火が落ちないように左手を固定しつつ、健一さんの柔らかい唇を貪るが、花火をする前からしたかったからか触れるだけのキスじゃ満足ができそうにない。


 私は少し健一さんの口の中に舌を潜り込ませると、健一さんも応えてくれるように絡ませてくれる。これ以上激しくしてしまうと落ちてしまうかもしれないと言う緊張感の中するキスは、普段のキスよりも気持ちよくてドキドキしてしまう。


 もっと深いのをしたい、でもやり過ぎて落ちてしまうと止めなくてはいけない。思考が快楽と緊張の二つしか考えられなくなり、いっそ快楽に溺れてしまいたくなる。


 踏み出したくても踏み出せない、そんな気持ちの中どれだけ時間が経っただろうか。


 一度顔を離すと、私と健一さんは肩で呼吸している。口と口を結ぶ銀色の糸は蝋燭の灯りでオレンジ色に輝き綺麗に途切れた。健一さんの顔は蝋燭の灯りのせいか、赤く見える。多分私も赤くなっているに違いない、でも嫌な感じはしない。


 むしろ、もっとしたい気持ちが溢れてきて、自然と顔を近づけると健一さんも同じく近づけてくれてもう一度キスをしてくれる。


 もう、左手には何も持っていないのに…


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ここまで読んでいただきありがとうございます!


次回:第70話 健一さんの頑張れ肉体改造! 10秒以内にもう一回っすよ


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甘々作品なので気になれば是非読んでいただければ幸いです!

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