第67話 健一さんとBBQ やるっす!いや、やりたいっす!
真緒からネギタン塩の美味しい焼き方のレクチャーを受けたり料理の腕前について話したりして楽しく食べていると、メインディッシュのチーズが溶けた音がしてきた。
それを真緒に伝えると、そそくさと準備をしチーズフォンデュ用に買っておいたお肉を焼き始める。
「まずは牛からいくっすね」
「いいね。じゃあ、お肉が焼けるまで時間掛かると思うからバケットチーズにでもして待ってようか」
「賛成っす!そっちのトレイにバケット入ってるんで先に食べちゃってくださいっす」
真緒は俺の側に置いてあるトレイを目で指示し、お肉を網の上に置いていく。真緒の言ったトレイを見ると、バケットを始め食べやすくカットされたベーコンやジャガイモ、ブロッコリーといったチーズフォンデュの定番の食材が乗せられている。
俺は真緒に言われた通り、先に食べておこうとバケットをフォンデュフォークに刺しフライパンに入れチーズを絡めていく。パリッとしたバケットを半分チーズの海に浸し、持ち上げるとびよーんと伸びるチーズ。
どこまで伸びるのか気になりさらに上空に持ち上げるが、20㎝程伸ばしても切れそうにない。仕方ないのでフォークをくるくると回しチーズをバケットに絡ませる。
何度かバケットにチーズを絡ませていると、次第に伸びていたチーズの線が細くなりぷつんっ音が鳴ったんじゃないかと錯覚してしまうくらい綺麗に切れた。
「おぉ…」
綺麗に切れたチーズに感嘆の声が隣から漏れる。俺は視線を手に持っているバケットから真緒に向けると、お肉を焼く手が止まって物欲しそうにチーズの絡まったバケットを見つめていた。
「真緒、食べるか?」
「え…い、いや。それは健一さんのっすから」
と言葉では言ってはいるも口からはきらっと輝く雫が…体は正直なようだ。
「いいよ、真緒にばかりお肉させてしまってるし」
「そ、そうっすか?」
「うん、だから真緒口上げて」
そう言うと素直に口を開ける。俺はそのままだと熱いだろうと思い息を吹きかけ少し冷ましてからその可愛く開いた口の中へバケットを入れた。
するとまだ熱かったのかハフハフと熱そうに口を開けたり閉じたりを繰り返したのちモグモグと咀嚼して飲み込む。
「うまぁ…」
真緒は、少しの間お預けを食らうと思っていた反動なのか美味しそうに食べ、顔を破顔させて余韻に浸っている。こう美味しそうに食べている時の真緒の顔、滅茶苦茶好きなんだよな。写真撮ってスマホのロック画面にしたいくらい、まぁ誰かに見られると恥ずかしいからしないけどね。
「真緒、美味しそうに食べるな」
「だって、実際美味しいんすもん」
「真緒がやけに美味しそうに食べるから俺も食べたくなるな」
「じゃあ、次は私が用意するっすよ!」
そう言うとお箸を持ちベーコンを軽く焼いてバケットに乗せる。それをフォークに刺しチーズの中へ投入するとさっきの俺と同じ手順で完成された物を口に近づけて来た。
「頂くよ…ん」
口の中に入れるとベーコンの塩気と濃厚なチーズの愛想が抜群で、それを中和するようにバケットがあとから現れる。もぐもぐと咀嚼していくうちにベーコンの塩気が引いていき、チーズとバケットだけが口の中に残る、強い塩気を味わったせいかチーズとバケットだけでは満足できそうにない。さっきの塩気をもう一度味わいたくなってくる。
これは病み付きになる美味しさだ。
「どうっすか健一さん?」
「うまい。ベーコンとチーズの組み合わせ最高だわ。真緒も食べてみ」
そんな感じでお互いの美味しいと思う組み合わせを相手に食べさせ合う。これだけでも満足なのだけど、
「健一さんお肉焼けたっすよ」
「おっ!待ってました大本命。炭火焼の牛肉チーズとか絶対うまいじゃん」
俺は牛肉にフォークを刺し、チーズの中に投入し持ち上げる。この牛肉は脂身が少なく、たれや塩を付けて食べるのが普通なのだけど今回はチーズ!さてどんなお味に仕上がっているのか気になるところ。
俺は牛肉にチーズをくるくると回し絡ませ、ぷつんっ切れると同時に隣からゴクンッと喉の鳴る音がしてくる。
再び真緒の方を見ると、俺の持つ牛肉に目をキラキラさせて見つめていた。
「真緒、口開けて?」
「え、いいんすか?」
「まぁ、物欲しそうな顔されたらね」
「えっ…そんな顔してたっすか…」
そう言うと恥ずかしそうに俺から顔を逸らし両手を頬に当てている。食い意地張っていると思われるのが嫌なのだろうか。
暫く待ってみるが中々こっちを向かない真緒を見て、言わなければよかったかなと思ってしまう。だが、真緒の目の前に持って来ているから自分が食べるのもどうかと思う訳で。
そんな事を考えているとトロっと溶けたチーズが牛肉から垂れて落ちそうになっていた。
「真緒、早く食べないとチーズが落ちちゃうよ」
「え。は、はいっす」
俺がそう言うと真緒は渋々といった感じでゆっくりこちらを向き小さく口を開くのだが、若干顔が赤くなっているのを見ると相当恥ずかしかったのだろうと窺える。
他人にどう思われるかよりも、俺にどう思われるのかの方が重要なのだろうとこの時分かった気がした。
彼氏としては嬉しいのだけど、周りの目が気になる俺からしたらそれは喜んでいいのか分からなくなるな。
だがまぁ、今は口を開けて待っている真緒の方が重要だ。他の事は今考える必要はないだろう。
「真緒、はいあーん」
「…ん。美味しいっす…」
俺は少し恥じらっている真緒の口の中にお肉を入れると、きちんと咀嚼して小さく感想を述べるが目を合わせようをしない。恥ずかしいのかいつもより反応が薄い気が…って口からチーズ垂れてるし。
「真緒、じっとしてて」
そう言って真緒の頬に手を添えるとやっと目が合う。
「どうしたんすか、健一さん。もしかして…キ、キスっすか?」
あれ、真緒キスして欲しいのかな。そう言う事なら何かで拭き取ろうと思っていたけど真緒がして欲しいならいいよね。
食事中にキスをするなんてマナー違反な気もするが、俺と真緒以外一緒に食事を共にしている人もいない。それなら特に気にすることも無いだろう。
そんな事を考えながら顔を近づけると、真緒は目を瞑りだす。そっと真緒の唇に唇を重ね、目的のチーズを口に含み顔を離す。
「健一さん、まだ食べてるのに我慢できなかったんすか?」
「え、いや。うん、まぁそうかな。今日、朝以外真緒とキスしてなかったしな」
真緒はやはり気付いていなかった様で別に言う必要もないので誤魔化すと、真緒は嬉しそうに肩をくっ付けて来て上目遣いで口を開く。
「もぉ、ご飯食べたら一杯してあげるっすからね。もう少し我慢してくださいっす」
なんか俺がキスをせがんでいるみたいに解釈されたが…ま、いっか。いつの間にか真緒もいつもの調子に戻っているみたいだし。
「そうだな、じゃあ食後にお願いしようかな」
「ふふ。あ、お肉健一さんも食べてくださいっす!はいあーん」
「あーん。…んー、うまっ!やっぱり真緒が焼くとどのお肉も美味しくなるな」
「えへへ、まだまだあるっすからね。一杯食べてくださいっす!」
そう言う真緒は喜々とした表情で、食べさせてくれる。俺も負けじと真緒と食べさせ合って楽しいBBQは幕を閉じるのだった。
*****
「ふぅ、健一さん美味しかったっすね!後は片付けだけっすか、楽しかったなぁ。あ、健一さん火消しとくっすね」
真緒は少し寂しそうに言いながら、コンロに入った火の付いた炭をバケツの中に入れようとしている。もうお開き、ならそれでいいのだが俺にはまだ火を消されてはいけない理由があった。
「真緒、ちょっと待って」
「?どうしたんすか健一さん。まだ何か焼くんすか?私もうお腹いっぱいっすよ?」
「いや、俺ももう限界だから」
「そうっすよね…流石にあの量を2人って言うのは無茶っすよね」
俺たちは2人で大体5人前程のお肉を平らげた。そりゃお腹一杯になって当然、って今はそんな話をしている場合じゃない。
俺はスーパーの袋とは別に買い物時にこっそり買っておいた物を鞄の中から取り出し、真緒の前に掲げる。
「真緒、これが見えるか?」
「おっ!!」
「やるだろ?」
「やるっす!いや、やりたいっす!花火!」
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ここまで読んでいただきありがとうございます!
次回:第68話 健一さんと二人だけの花火 ぶー、私の事バカにしてるっすね
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新作始まりました!
『傷心中に公園で幼馴染の妹を段ボールから拾ったら、めちゃくちゃ世話してくれるようになった』
https://kakuyomu.jp/works/16817330662341789174
甘々作品なので気になれば是非読んでいただければ幸いです!
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