第59話 健一さんの誕生日 夜

 健一さんと朝から久しぶりに一緒に過ごしてもう夕食を食べている。お昼から今までの時間は本当にゆったりとしていて、健一さんは今日の為にお仕事を休んでくれているという。


 私もバイトで最近疲れていた事もあり、健一さんとゆったり時間を過ごす事が出来ていなかった。でも、そのおかげで去年できなかったことも実現したから大満足。


 丁度、私も健一さんも晩御飯を食べ終わり次は食後のケーキ。


「健一さんケーキ用意するっすね!」

「うん、ありがと」


 私は冷蔵庫に向かい昨日持って帰って来た袋を持ってテーブルに戻る。袋から白い箱を取り出し、机の真ん中に置いていざ開封の儀。


「あーそれケーキだったんだ。昨日から気になってたんだよね」

「そうっすよ、そしてこのケーキなんと!」


「なんと…?」

「私が作ったんす!」


「え!?このケーキを!?」


 そう言って開封し姿を表したのは、全体をチョコでコーティングしてあるクッキー生地のケーキ。クッキー生地の甘い香りのするシフォンケーキにちょっとビターなチョコを周りに掛け、オレンジのドライフルーツが上に乗っている。


 見た目を崩さないようにと蝋燭は用意していない。


 その代わりにホールケーキの真ん中にはホワイトチョコプレートに『健一さん22歳のお誕生日おめでとう♡』と書いた。ちょっぴり文字が下手になっちゃったのは内緒。


「真緒これ一人で作ったのか?」

「ハイっす!でも涼香と川峯さんの協力ありでなんすけど」


「それでも凄いよ。お店で売ってそうな見た目だしさ、とても美味しそう」


 そう言って私が作ったケーキを健一さんはまじまじと見つめている。


 このケーキを完成することができたのはあの二人のおかげ。シフォンケーキについて色々教えてくれたのは川峯さんで、ビターなチョコが良いなと言った私の意見に対して合うフルーツを探してくれた涼香。


 健一さんの喜ぶ顔を見る機会をくれた二人には今度お礼しないね。


「改めて健一さん、お誕生日おめでとうございますっす!」

「ありがとう真緒。これ作るために最近忙しそうにしてたんだな」


 そう言うと健一さんは私に近づき抱きしめて、再度ありがとうと言ってくれる。私も健一さんの背中に手を回し抱き返す。


 こうしていると健一さんが喜んでくれているのが分かるから、本当に作って良かったと実感する。


「健一さん、そろそろ食べないっすか?」

「あ、あぁそうだな。嬉しくてつい…」


 そんな反応されるとキスしたくなってくる。でも今はケーキだよね。

 私は温めておいたケーキナイフを台所から取って来て健一さんに差し出す。


「真緒どうしたの?俺が切ると多分ボロボロになると思うけど…」

「健一さんが切るんじゃないっすよ?一緒に切るんすよ」


「一緒って?」


 まだわかっていない健一さんにケーキナイフを持たせ、その手に私の手を上から添えてケーキに近づける。


「健一さん共同作業っすよ」

「あぁ、そう言うね」


 私がそう言うとやっと理解したのか一緒にケーキを切ってくれる。主に健一さんが切っているから少しだけ形が悪くなってしまった。けど、これはこれでいい。


 切ったケーキをお互いのお皿に分けて、食べ始める。


「ん…うまっ。お店で売ってるレベルで美味しいよ。ほんと今日は最高の誕生日だよ、ありがとう真緒。こんなにいいプレゼントを貰えて今日の事は絶対に忘れないよ」

「えへへ、それは嬉しいっすね。でもそれは私と涼香と川峯さんからのプレゼントっすよ。私からのプレゼントはまだあるっす」


「え?ケーキがプレゼントじゃないの?」

「はいっす!今持ってくるっすね!」


 次は私からのプレゼント。この一週間私一人で作った物で、健一さんの事を考えてこれしかないと思った物。


 私は鞄の中から薄い一つのノートを取り出し健一さんに手渡した。



*****



 真緒にプレゼントとしてノートを手渡された。もともとケーキがプレゼントだと思っていたからこれには驚きだ。


 もしかしてこの前聞いてた日常的に使う物って奴だろうか?だとしたらなんだろう、俺はノートなんて使わないけど。


 大きさ的にB5だし、メモに使うにしては少し大き目。まったく予想の出来ない真緒からのプレゼントを今から開けてみようと思う。


 絶対に喜ぶものと言っていたから期待度が高いし、もし仮にケーキより嬉しい物だったら毎日使うことになるかもしれない。


 俺はそんな期待感Maxで薄めのノートの一枚目を開く。


「真緒…これ何?」

「え?お仕事に使う資料っすよ!どうっすか、この一週間頑張って作ったっす」


「い、いやこれは…流石に使えないかな…」

「え!?なんでっすか!何が悪いんすか!?」


「いや悪いとかでは無いんだけど」


 なんとも反応に困るものをもらってしまった。


「なぁ、これって真緒のヌード写真集だよな」

「そうっすよ?全部自撮りした物っす。あっもしかして服着てるのが良かったっすか?たまにデッサン用に健一さん見てるの知ってたっすから、あれば嬉しいかなって思ったんすけど…」


 渡されたのは計60枚程の真緒が裸で自撮りをしている写真達だった。15ページというちゃんと本になっている所を見るに同人誌を参考にしているのだろうか。


 いや、そんな事はどうでもいい。今問題なのはこんなの仕事に使えるわけがないって事。


「ま、真緒。これ俺、仕事には使えないわ」

「え、なんでっすか?これ仕事に…健一さんの使ってる資料って、あ…胸の大きさが問題って事っすか!そこは申し訳ないっす!無いものは作れないっす!しゅ、手術してでも大きく…」


「いや、胸の話なんてしてないからな!?あと俺、真緒の胸好きだからね?勘違いするんじゃないぞ?」

「そ、そうなんすか?じゃあ何がダメなんすか?」


「えっと…ちょっと言いずらいんだけど…」


 これに関しては本当に言いずらい。俺にとって資料というのは物の形や色、影の入り方などを見るために使う事がほとんどで別に真緒に渡されたこれが資料として間違っているわけではない…が、今俺が問題視しているのは個人的な問題なのだ。


 だが、言わないと真緒の場合変な誤解するだろうし。


 言ったところで理解してくれるかも分からない。


「えっと、真緒。資料ってのはな?客観視できるものが良いんだよ」

「客観視っすか?うーん、もっと分かりやすくお願いしたいっす」


「そうだよな。もし仮に、真緒が今回のように俺の写真集を貰ったらどう思う?」

「え、興奮するっす」


「うん素直だな。もう少し恥じらいを持ってもらいたいところだけど、でもそれが正解。資料に興奮しちゃいけないんだよ」

「ダメなんすか?興奮しちゃ」


「興奮してたら作業進まないからね。個人的な用途でなら使えるけど仕事では使えないかな」

「個人的な用途…はっ!それって――」


「真緒言わなくていいぞ、いや言わないでくれ!」


 濁して言ってるのになぜ察してくれないんだ。


「でもそうっすか…使えないなら処分っすかね」

「えっと、いや仕事で使えないだけで…べ、別に要らないなんて言ってないだろ?」


「要るんすか?一人でする時に使うんすか」

「えっと…それを本人に言われると答えづらいな」


「使うなら写真じゃ無くて私を使って欲しいっす!」


 真緒は写真の自分に嫉妬でもしているのか頬を膨らませてそう言ってくる。

 

「あぁ、うんそうするよ。でもこれは一応貰っとくな?真緒からのプレゼントだし、おかずじゃ無くても大切にしたいと言うかさ、だから…ね?」


 俺は言い訳としてそう言うが真緒はジト目でこちらを見てくる。これは信用されてない顔だ。


 まぁ、真緒が学校に行ってる間にこっそり…なんて考えていたから仕方ない気もするが。


「健一さんの今の発言では信用できないっすから、身をもって信用させてほしいっすね」

「え、どう言う?」


「健一さんお風呂行くっすよ!」

「あ…い、いやぁ、ケーキ食べたいなぁ」


「明日食べればいいっすよ!」

「い、今食べたいなぁ。ってちょ、真緒、服脱がそうとしないで!?」


 強引に真緒に引っ張られ、お風呂場に連れて行かれると押し倒される。


 次の日げっそりとした自分の顔を洗面所の鏡で見る事になる程搾られるとは今の俺は知る由もなかったのだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

初めてのバイトとサプライズ 編 完

ここまで読んでいただきありがとうございます!


夏休み到来! 編

次回:第60話 健一さんと鬼のような宿題


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