第58話 健一さんの誕生日 昼
真緒と朝から激し目のスキンシップをし、少しだけ身体が重い。
だが俺とは対照的に元気な真緒は、いつものエプロンを付け朝を含めたお昼、ブランチの用意をしている。
「真緒、今日は何作ってくれるの?」
俺がローテーブルの前に座り、真緒に質問をすると一度手を止めてこちらに振り返ると返事を返してくれる。
「今日はナポリタンっす。他のが良いっすか?」
「いや、真緒のナポリタン好きだからそのままで」
「分かったっす!美味しく作るっすね」
真緒のナポリタンはお店で食べるより美味しいから好きなんだよな。
俺が真緒のナポリタンが好きと言うと鼻歌交じりに料理をし始める。最近、私服にエプロンで料理をする真緒の姿をよく見かけ、これから先学校を卒業したらずっとこの姿を見るのかと思うと制服エプロンって今しか見れないよなとふと頭に過った。
真緒が大人になったら、ただのコスプレになってしまう。現役JKが制服にエプロンを付けているというのが良いんだよな。
今度写真撮っておこうかなと思ってしまうが、冷静に考えると気持ち悪いな。今脳裏に過った事は胸の内に隠しておこう。
奏功しているとナポリタンが完成し、机に運ばれてきた。
「美味しそう、ありがとう真緒」
「ふふん、これくらい大丈夫っすよ!今粉チーズとタバスコ取ってくるっすね」
そう言う真緒は冷蔵庫の方へと歩き中を確認する。
「うーん」
中を開けるや否や真緒はなぜか不満そうに唸りだした。もしかして粉チーズとタバスコ切らしたのかなと思ったのだがどうやら違うらしい。
冷蔵庫から2つを取り出し戻ってくる。机に2つを置くと真緒は先ほどの不満の正体を話し始めるようだ。
「健一さん最近思うんすけど、私達って2人ともよく食べるっすよね」
「ん?うんそうだな、でもそれがどうかしたか?」
「健一さんは気づかないっすか?冷蔵庫事情を」
「冷蔵庫事情?」
真緒は何が言いたいのだろうか、今の俺には全く見当がつかない。壊れたとかではないのは話の内容的に分かるが…
「すまない、わかんないから教えてくれないか?」
「いいっすけど、その前に冷蔵庫の中見て貰えないっすか?」
「中?わかった」
真緒の指示に従い冷蔵庫の中を確認する。中を確認すると、食材やら飲み物で一杯だ。だが問題があるかと言われると良く分からないので、再び真緒に尋ねてみる事に。
「中を見たけど、何か不満に思う事があるか?」
「健一さん分からないっすか。この食材の量でどれだけの日にち私達を満足させてくれるかを」
「んー。5,6日くらいか?」
「違うっす!2日っすよ」
「え、この量2日なの?」
「そうっすよ?冷蔵庫小さいんすよ。もう少し大きければ私も頻繁に買い物行かなくて済むんすけどね」
そう言えば同棲を初めてもう大体1か月ほど経つよな。朝から晩三食を真緒にして貰う事になるし、単純に考えて一人暮らし用の小さい冷蔵庫じゃ大きさが足りたいわけだ。
だが、大きな冷蔵庫を買うにもそう簡単にはいかないんだよな。
「大きくすれば真緒の負担が減るのは分かるが…少々問題がな」
「問題っすか?」
「あぁ、部屋の問題なんだよ」
「?」
この部屋の冷蔵庫の場所は壁の一番端、台所の余った少ないスペースにすっぽり入る様に小さい冷蔵庫を配置されている。
この冷蔵庫は俺が親から管理人の仕事を譲ってもらった当初から存在するもので場所を変えようにも大きくしようにも部屋の大きさを考えるに難しいのだ。
そのことを真緒に伝えると、うーんと目を瞑り顎に手を当てて考えている仕草をしている。
暫くするし目を開きじゃあ、と口を開く。
「じゃあ、健一さん大きな部屋に移住するのはどうなんすか?」
「簡単に言うな…」
「流石に私達二人でワンルームって言うのは狭い気がするんすよね」
「まぁ、言いたいことは分からんでもない」
「後ベッドはもう少し大きいのが良いっす!シングルだと健一さんを一杯感じられるのは良いすけど、ヤル時に幅が気になるんすよね…」
「うっ…」
それは少し俺も思っていた事ではある。流石にシングルベッドは大きく動くのには向いてないよな。せめてセミダブル、いやダブルでもいいか…そうなると増々この部屋だと難しい。
真緒とこの先一緒に暮らすとなると、お互いの不満は解消しておいた方が良いだろう。
「わかった、今すぐは難しいかもしれないがぼちぼち物件探しとかもした方がよさそうだな」
「おっ!それならもう少し大きなキッチンが欲しいっす!あ、カウンターなのもいいっすね。料理する時いつも健一さんが見れないのは不満だったっすから」
「お、おう。検討するよ、でも料理中は料理に集中しような危ないから」
「それはもちろんっす!」
そんな話をしつつご飯を食べていく俺達。
お引越しも視野に入れるとなると、お金とかお休みとか真緒の学校との距離も考えないといけない。
真緒は卒業後ご実家のお手伝いをすると言っていたから、そこまで遠くなるのも真緒のストレスになるかもしれないし、考える事が多くて頭が痛い。
「まぁ、この部屋も私は好きなので今年くらいはここで過ごすのもいいっすよね」
「そうだな、この部屋には色々詰まってるもんな」
俺と真緒がこの部屋で再開してから思い出を作って来たのもここが始まりみたいなものだ。そう簡単には手放せない…
「でも、俺たちの暮らしが良いものになるなら引っ越すのも悪い事だけじゃないよ。だって次に行く部屋だって住めば思い出は作っていけるだろうし」
「そうっすね。じゃあお引越しは健一さんの好きなタイミングでお願いしたいっす!それまではこの部屋でやりたい事をしたいっすね」
そう言う真緒は鞄から2つのノートの片方を取り出し、したい事リストの最後の欄に記入していくのだった。
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次回:第59話 健一さんの誕生日 夜
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