初めてのバイトとサプライズ

第53話 健一さんの弱音

 修学旅行が終わり、二日が経った日曜日。


 今は川峯さんのご実家『カワミネベーカリー』へと来ていた。


 ここは駅からは少し離れた所にあるが人気のあるパン屋さんで、三分の一のスペースはお菓子を売っている。


 売っている物は全て焼きたてでとても美味しいと口コミでは書いてあった。


 見た目がお洒落な店外は少し色の違うレンガ屋根からツルが張ってあったり、中が良く見えるように大き目の窓などが付けられたりと他のお店とは雰囲気が違う。


 店の入り口付近にあるブラックボードには『ようこそカワミネベーカリーへ~お菓子も売ってるよ!~』と可愛い文字で書かれていた。


 雰囲気的には、都会というよりも山の中にある名店のような風貌。


 絶対に一人では入らないところだ。


 今度健一さんをバイト中に呼んでみようかな?制服姿見て欲しいし…可愛いって言って貰えたら…えへへ。


 今日はバイトの面接だから、そもそも受かるか分からない。健一さんに言ったのも昨日の行為した後だし。


 計画性ないよね私って。


 そんな自分でも受かるのか心配だけど、川峯さん曰くちょっとしたお茶会だと言っていた。


 店内に入ると数名のお客様が居て、この状況で店員さんに話しかけないといけないのかと思うときが引ける。


「おっ!安達さん来てくれたんだね」


 そう思いキョロキョロしていると金髪巨乳の川峯さんが私を見つけ話しかけてくれた。


 川峯さんは接客をしていて、白いシャツに紺色で落ち着いたエプロンを付け、髪が靡かない様にエプロンと同じ色の帽子を被っている。


「奥の休憩室で面接だから中入ってて」

「わ、分かったっす」


 川峯さんに言われ、レジカウンターの奥へと入っていく。


 中には厨房に繋がる入り口と休憩室と書いてあるプレートが見える。


 扉を開け休憩室の中に入ると、全体的に薄ピンク色の配色でソファやポットと生活感あふれる空間だった。


「ここが休憩室?」


 そう言葉が出てしまった。


 だってこの部屋休憩室と言うよりも、誰かの部屋みたいだし普通に住んでると言われても違和感がない。


 バイトをしたことがないからわからないが、何とも緊張感のない空間だ。


 ソファに座り、しばらく待っていると休憩室の扉が開き川峯さんが現れた。


「おまたせー」

「う、うん。よろしくっす」


「そんな硬くならなくてもいいのに。まぁ形式上面接って事になるけど、まぁちょっとお茶会して解散かな」

「え、履歴書持ってきたんすけど」


「うん、連絡先とか分かれば問題ないからね。あとでお母さんに渡しとくよ」

「そ、そうなんすね」


「そそ、今お姉ちゃんに店番してもらってるから。私たちはお菓子でも食べて駄弁ろっか」


 そう言って川峯さんは少し奥にある棚からマグカップを取り出したりして、私の前にあるテーブルに紅茶を用意してくれた。


「ありがとうっす」

「全然!それよりさ、安達さんの事もっと知りたいな」


「私の事っすか?」

「うん!料理は出来るんだよね?」


「そうっすね、お菓子とかはあまり経験ないっすけど毎日健一さんに食べてもらってるっす」

「ほうほう、彼氏さんにねぇ。安達さん結構尽くすタイプだ、いい奥さんになりそうだわ」


「いい奥さん…っすか」


 この前、健一さんからのプロポーズの予約をしてもらった。


 今は6月だから、あと半年で私も健一さんの…えへへ。


「安達さんって結構顔に出やすいね。面白いわ」

「…そ、そんなに出てるっすかね」


「凄いよ。お兄さんの話したらもうメスの顔してるね」

「メ、メス!?い、いや…そんなことないんじゃないっすかね」


「写真撮ってあげようか?」

「だ、大丈夫っす!」


「ざんねーん。はは、やっぱり安達さんと話すの面白いわ。いつも涼香としか話してなかったから話して見たかったんだよね。だから面接なんて言って呼び出したんだけど、正直もう受かってるから必要ないんだよね」

「う、受かってるんすか!?」


「うんうん、安達さんの苦手な物は私が全面的にサポートするから接客は一切しなくていいし、厨房って言っても朝に沢山作って徐々に焼く形だから問題ないしね」

「それって私要らないんじゃ…」


「いやいや、安達さんお兄さんの誕生日プレゼント何にするか決まってないでしょ?」

「それが…?」


「カップルには倦怠期というものがあってだね、こういう特別な日には何か普段と違うことをしないといけないと思うのだよ」

「ほ、ほう。具体的には何があるって言うんすか?」


「サプライズだよ!」

「サプライズ?」



*****



「真緒大丈夫かな…」


 昨日急にバイトの面接に行ってくるなんて言われてビックリしたけど、友達のお店のお手伝いって言うんなら大丈夫だよな。


 でも心配な物は心配だ。


 今度バイトの時に一度見に行って見るのもありかもしれないな。


 そもそもどこに行ってるのか分からないけど。


 家に帰って来たら聞けばいいか。


 俺は修学旅行の時に仕上げたイラストの修正が来ていたので直していた。


 今やっているのはあるライトノベルの表紙を描かせてもらっている。


 中身はガッツリ、エロで描くのだけど表紙となると露出度を控えなければいけない。


 表紙以外全て性描写ありだというのに、どうしてこれが全年齢対象なのかが分からないが来た仕事で内容も面白かったので楽しいからいいか。


 真緒はお昼を一緒に食べるとすぐ出かけてしまった。


 いつ帰ってくるのかも聞かされていない。


 学校の時の方が長く居ないはずなのにどうして帰る時間が分からないとこうも不安になるのだろうか。


「依存し過ぎなのかもしれないな。もし修学旅行に付いて行かなかったら…いや、今は仕事に集中しよう」


 ご飯前には帰ってくるだろうし、寂しいのはいつもの事だ。


「これから休日も会えない時間増えるのかな…」


 独り言ちり、ダメだダメだと頭を振る。


 弱音を吐いていても仕事は進まない。


 ふと胸にあるネックレスを見る。


 これを見ていると少しだけ、寂しさが和らぐような気がして来た。


 あの日プレゼントとして貰ったネックスレスが、今は凄く支えになっている。


 俺は寂しさを紛らわすように仕事に集中することにした。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


次回:第54話 健一さんの頑張ってほしいという言葉


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