第52話 健一さんと夜景 後編
真緒と写真を撮った後、次の目的地へと向かっている。スマホで時間を確認すると時刻は7時を過ぎていた。
お腹が空くかと思っていたが俺は大丈夫だ。でも食べ盛りな真緒は俺と真逆な気がして真緒に何か食べたいものがあるかと聞くと。
「私はさっきデザート頂いたっすから」
「デザート…お昼の話?」
「いや、なんでもないっす。満腹って意味っす」
「あぁそうなんだ」
お昼食べてから他に何も食べていないのに、本当に真緒は大丈夫なのだろうか。
「真緒、夕飯はホテルの方では食べないんだろ?」
「そうっすね。というか出ないっすよ、各自で済ませてって話しっす」
「そうだったんだ。そっちの方が自分で選べるから楽しみは増えるかもな」
「そうなんすよね。でも今日はいつもの食べちゃったんすけどね」
真緒の言ってることがイマイチよく分からないが、不機嫌ではないので深く聞くことはしなくてもいいだろう。
「健一さん次はどこ行くっすか?」
「もう時間も無いだろうし、観覧車乗って最後にしようか」
「わかりましたっす」
そう言った真緒は少し寂しそうにしていて、今日がもう少しで終わってしまう事に対して俺も少なからず寂しさがある。
普段真緒と一緒に居ても体験しているの事は違う。キスはしてるけども。
真緒に言った通り最後は観覧車で終わりにするのだけど、乗る前に近くのアートガーデンを堪能することにした。
ここは他よりも多くのイルミネーションを使い、色鮮やかな演出を見る事が出来る。
たまにテレビのCMで見たことがあるが、実際に目の前で見るのでは感じ方が変わってくる。
「真緒綺麗だな、季節によって演出が変わるらしいから真緒の誕生日の日にはまた違ったものが見えるんだろうな」
「そうっすね楽しみっす」
「その時にさ、真緒の気持ちが変わっていなかったら伝えたいことがあるんだ」
「……ふふ、多分変わらないっすよ」
「そっか、じゃあその時まで待っててくれな」
「はいっす」
俺の言いたい事が分かるのか、真緒は察したように少し微笑み絡めてる腕に少し力が入った。
真緒とゆっくりと歩き観覧車へと向かい乗り込む。
徐々に上っていく室内からハウステンボスの全貌を見る。
昼間はヨーロッパの街並みを彷彿とさせ、まるで異国に来ているような感覚を味わう事が出来た。
そして今はその街並み全てを沢山の電飾が包み込んでいる。
まるで別の世界に迷い込んだのかと錯覚してしまう。
そんな綺麗に光る街並みを真緒は対面に座り、窓に手を当て眺めている。
「健一さんこの夜景は今日だけしか見れないんすよね」
「そうだな、今の真緒と見れる最後だろうな」
「胸に刻み込んで置くっすね」
真緒のその言葉はさっき俺が言った事への返答なのだろうとすぐに理解が出来た。
もう少しで今日が終わってしまう。
楽しいことがあって、少し落ち込むこともあって、約束もした。
一年前から俺の部屋に居た彼女が、今は居て欲しい存在になっている。
来年にはどんな存在になっているのだろうか。
多分この物語が始まったあの日、俺が真緒に言った言葉が正解なんだと思う。
「真緒」
「はい?」
「こっち来て」
俺は真緒に手招きし、自分の脚の間に座らせた。
「これからも先、真緒に色々迷惑かけると思う。でもずっと傍に居て欲しい」
「健一さん、私もいっぱい我儘言っちゃうと思うっす。それでも傍に居たいっす」
真緒はくるっと俺の方へ向くと、
「だからこれは誓いっす」
薄暗い観覧車の室内で、唇に柔らかく暖かい物が触れ合う。
「次はここで、その続きを聞かせて下さいっすね。私ずっと傍で健一さんの事を見てるっすから、何があっても離れないっすから」
「あぁ、俺も真緒の事ずっと見てる。どんなに辛い事があってもこの手を離さない」
今日一番近くに真緒を感じながら、真緒の背中に手を持って行く。
真緒の身体はいつ触れても細くて、強く締めてしまったら壊れてしまいそうだ。
でも今は、少しだけ強く彼女を抱きしめた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
大好きな人と修学旅行 編 完
初めてのバイトとサプライズ 編
次回:第53話 健一さんの弱音
応援、☆☆☆レビューよろしくお願いします!励みになります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます