第51話 健一さんと夜景 前編

 健一さんとお昼を食べた後、まだ行っていなかったアトラクションに乗ったり少しぶらぶらしたりしてもう日がだいぶ落ちて来ていた。


 健一さんはイルミネーションを一緒に見たいと言っていたので私も楽しみだ。


「健一さんどこから見るんすか?」


 私は健一さんの腕に引っ付きながら聞く。


「一番最初はアンブレラストリートかな、アトラクションタウンの中にあるからここから近いよ」

「了解っす!じゃあ見に行きましょ」


 私と健一さんはゆっくりと歩みを進め、天井に沢山の光る傘の下を歩いていた。


「昼間にもここ通ったすけど、光るとこんなにも綺麗に見えるんすね」

「だな、SNSで見たことあったけど実際に見てみると色が鮮やかで吸い込まれそう」


「そうっすね。私は健一さんと見れてるからより綺麗に見える気がするっす」

「俺もそうかも、真緒が隣に居てくれるから」


 健一さんは私の目を見てそう言ってくれる。


 こういう時にきちんと顔を見て言ってくれるから、大切してもらえていると感じられて凄く嬉しい。


 この人を選んでよかった。改めて思う。


 一緒に居て楽しいし、距離が近いとドキドキする。


 最近、涼香の気持ちを聞いて取られないように頑張ってるけど、緊張するものは緊張するし。


 健一さんは慣れているのか自然とキスしてくれるが、私は内心ドキドキが止まらない。


 私の心臓の音を誤魔化す為に何度もキスをし返してるけど、まだまだ慣れそうになくて。


 今こうしている間も健一さんの体温を感じられるから胸がうるさい。


「健一さん写真撮らないっすか?」

「そうだったな、どこで撮ろうか」


「あそこのベンチとか良くないっすか?」

「あの青色のベンチね。わかった」


 私はスマホを取り出し、カメラアプリを開く。


 左下に過去に取った写真が表示され、朝健一さんにキスした写真が写っていた。


 私、健一さんにキスしてる時ってこんな顔してるんだな。改めて自分の幸せそうな顔を見て、これ健一さんにも見られてたんだよね、恥ずかしい。


「真緒どうした?撮らないの?」

「え、あ、撮るっす!撮るっす!」


「ん、じゃあどうやって撮ろうか。普通に撮るのもいいけど、朝みたいにしてもいいよ。真緒はどうしたい?」


 朝のってキスだよね。そんなさらっと誘ってくるんだ。


 いやまぁ、凄くしたい!でも、まず心を落ち着かせないと。


 いつもは準備してから私からしてるし、健一さんから誘われると少しだけ落ち着かないとまた心臓の音を誤魔化す為にやり過ぎちゃうし。


「ふぅ、いいっすよ」

「ん、それじゃあ真緒目瞑って」


「え?あ、はいっす…」


 頬かと思ってた。どうしよう、まだ心の準備が…ん。


 健一さんの少しだけ硬い唇が私の唇に触れて、あぁ健一さんを近くに感じる。このソフトに触れるだけのキスでも私の頭の中は健一さん一色になっていく。


 もっと欲しい…


 そう思ってしまって、自然と健一さんの首に手を持って行ってしまう。


「ま、真緒…」


 私を呼ぶその声も心地いい。少し戸惑った健一さんの表情も好き。


 だからもう少し困らせちゃいたくなる。


 でも嫌がることはしたく無い。


 ゆっくりと健一さんの口の中に私の舌を入れていく。少し進むと健一さんの柔らかく濃い味のする舌へと辿り着いて、もっと味わいたくなってくる。


 こうやって健一さんとキスしていると今は私の事だけを考えてくれる気がして、たまらなく興奮する。


 もしここが家ならもう我慢できなかったと思うけど、まだお外だから抑えなきゃ。


 今日ホテルの中でしちゃうかも…いやだめ涼香や川峯さんも居るんだし。


 健一さんの泊まってるホテルなら…


 いやいや、するなら家で存分に楽しみたいよね。健一さんもいつものベッドでする方が安心するだろうし、私も気兼ねなく身体を重ねられる。


 明日も朝が早いのだから、今は我慢だよね。


「健一さん撮れたっすか?」

「撮るタイミング無かったよ」


「もう、次はちゃんと撮ってくださいっすね?」

「触れるだけのにしてくれ、深いのは真緒の事しか考えられなくてシャッター押せないから」


「ダメっす、次はもっと長くするっすよ」

「嘘でしょ!?」


 そうして私は抑えられない気持ちと胸の高鳴りを誤魔化す為にさっきより長く健一さんと絡み合うのだった。



*****



「はぁ…はぁ…、真緒、流石にそろそろ行かないか?」

「……」


 真緒と俺は写真を撮る為にベンチに座ったのだけど、いつの間にか深いキスを10分程され俺は息を切らしていた。


 一方真緒はぼーっ遠い所を見ながら、涎を垂らしている。その涎が俺の唾液かもしれないと思うと、少しだけいけない気持ちが湧き上がってきた。


「真緒…真緒!」

「あ、健一さん…どうしたっすか?」


「いや、呼んでも反応は無かったから。大丈夫か?」

「大丈夫っすよ?もう一回するっすか?」


「大丈夫じゃないな。真緒、今日はもう深いキス辞めような」

「!?なんでっすか?」


「これじゃあ、いつもと変わんないよ。雰囲気を楽しむだけなら、ソフトでいいしさ。出来れば、真緒と思い出を残したいんだよ」

「あー、それもそうっすね。旅行の楽しみ方間違えてたっす。気を付けるっす」


「そうしてくれると助かるよ。このままだと真緒との旅行がキスですべて上書きされかねないから」


 終わった今でも真緒の舌の感触とか匂いとか少し残ってる気がするし、このままだと真緒のホテルに行くのは危険になるかもしれない。


 俺が抑えられないかもしれないというのもあるが、真緒自身も我慢できないかもと思うと部屋に居るもう二人にも申し訳が立たないだろうし。


「そろそろ行こうか。って写真撮ってないじゃん」

「キスするっすか?」


「しないしない。するなら頬だな、そうじゃないとストッパーをとしてだれか呼ばないと止まらないだろ真緒」

「……否定できないっすね」


「そう言う素直な所が好きだわ」


 そう言って俺は真緒の頬にキスをして写真を撮った。


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次回:第51話 健一さんと夜景 前編


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