第46話 健一さんと花の道

 真緒とそして動物と触れ合っていると、はや小一時間経っていた。そろそろ次の所に行こうかという話しになり、手を握るのだがなぜか真緒は距離を近づき腕を絡ませてくる。


「なぁ、真緒最近気になってたんだけどなんで腕を組んでくるんだ?」

「え?あーこれっすか」


「いや、別に嫌だから辞めて欲しいとかではないからな?前まで外は手を繋ぐだけだったのに急に距離が近くなって嬉しいのはあるけど…人の視線を感じるというか」


「私はもっと健一さんの近くに居たいだけっすよ?…いや、本音を言うと手だけじゃ我慢できないというか、昨日は…その、一緒に眠れなかったっすから。寂しい気持ちが溢れてきてしまってですね…その、できれば慣れてほしいっす」

「が、頑張って慣れるわ」


 昨日は別のホテルで泊まったからというものあるが、寝る前に電話をして声を聴いたというのにそれでも真緒はまだ足りなかったのか。


 俺も寝る前に真緒の温もりがないことに少しだけ寂しさを感じることがあったが、外でこれ程までに距離を近づけて来るのはまだ慣れないから変にドキドキしてしまう。


「あと視線なんすけど、私が制服で健一さんが私服だからっすよ?今日修学旅行に来てるのはうちの学校だけみたいっすし、珍しく見えるんじゃないっすか?」

「あ、そうなんだ…ん?…なぁ真緒、それって先生に見つかりやすいって事じゃないのか?」


「あっ…そうっすね…でも離さないっすけどね!!!」


 こんな状況でも真緒は平常運転だ。俺と触れ合う時間が同棲してから一気に増えて距離も近づいた気がする。前に比べてスキンシップが激しくなっているし、最近では家の中、外関係なくべたべたしてくるから傍から見たら絶対バカップルだよな。


 少し恥ずかしい気持ちはあるが、真緒がしたいというなら俺は甘んじて受け入れるしかない。いや俺だってちょっとだけ憧れていたのもあるし、いいか…。


「あっ!健一さん見えてきたっすよ」

「おー、これは凄いな」


「綺麗っすね」


 アベンチャーパークを後にした俺と真緒は五分程歩いてフラワーロードへとやってきていた。


 時期としては初夏で全体に色とりどりのお花がなっている。マリーゴールドにベゴニア、アゲラタムなどの花が咲いていると調べたところ書いてあった。三つの風車と花が特徴のこの場所は昨日、真緒と明るい間に行きたいと言っていた場所の一つだ。


「健一さん写真撮りましょ!あっち行きたいっす!」

「真緒、走ると危ないぞ?」


「あ、すみませんっす。楽しくってつい急いじゃったっす」

「あはは、気持ちは分かるけどゆっくり楽しも」


 俺がそう言うとさっき真緒は急ごうと腕を引っ張っていた力が緩み、歩調を合わせるように歩いてくれる。真緒の顔をちらっと見ると早く行きたいのかそわそわしているのが窺えて素直に可愛いと思う。


 ゆっくりと歩くと先ほど真緒が言っていた場所に到着し、一緒に写真を撮り始める。複数種類の花と風車をバックにツーショット写真を撮り、何枚か撮った頃に。


「健一さんカメラちゃんと見ててくださいっすね」

「え?あ、うん」


「じゃあ撮るっすよ…」


 ちゅっ パシャッ


「え、ま、真緒…?」


 カメラのシャッター音と同時に右頬に柔らかい物が触れた。撮り終わった後に真緒の方を見るとスマホを持っている逆手の人差し指を自分の唇に置き笑みを零す。


「えへへ、一度やってみたかったっす」

「そっか…真緒のスマホ貸して?」


「え?いいっすけどどうしてっすか?」

「写真撮るんだよ。ちゃんと見てろよ?撮るぞ…」


 ちゅっ パシャッ


「け、健一さん…」

「俺もやられるだけじゃないって事だよ」


「じゃあ健一さん…最後に頬じゃないの撮らないっすか?」


 頬じゃないの…それってキスをするって事だよな。別にいいけど写真を撮るって事は後で見返す可能性あるし、まぁ頬では撮ってるから変わらないか。


「恥ずかしいけど、まぁいいよ」

「やった!じゃあ、綺麗に撮ってくださいっすよ?」


 そう言う真緒は俺と目を合わせ顔を近づけて来る。いつ撮るタイミングなのか、俺はこういう経験がない為角度とかも分からない。真緒の要望通り綺麗に撮れる自信はないが、やってみないと判断がつかないのも事実。


 俺は今か今かと待ち構えている真緒に顔を近づけるとゆっくりと目を瞑り、その綺麗な顔がキス顔へと変化する。


 普段とは違うキスに少し緊張しつつ真緒の柔らかい唇にそっと唇を重ねると、近くでパシャッという音が聞こえてきた。


 ふぅ、上手く撮れたかな。そう思い、撮るために上げていた手を自分の前に持ってきて確認するのだけど…あれ?画面が真っ暗だ。


「健一さん上手く撮れたっすか?」

「え、いや。撮れてなかった…」


「ははぁん、健一さんそう言って本当は私とキスしたいだけなんじゃないっすか?ふふ、いいっすよ?」

「ちょ、真緒待って…ん」


 そう言った真緒は少し強引に俺の頬に両手を添えて自分の方へと引き寄せると。再びその柔らかい唇と触れ合う。


 キスする事自体に問題はない…でも。


パシャッ


 真緒と唇を重ねると同時に近くでカメラのシャッター音が聞こえてきた。さっき聞こえてきたシャッター音と同じ距離で。


 真緒も違和感を感じたのか顔を離し音のした方を一緒に振り向くと、


「安達さん…これはどう言う事なの?」

「せ、先生…」


 そこに立っていたのは、カジュアルな服に身を包んではあるが表情はキリッとしていて綺麗に伸びたその黒髪からも分かるキッチリとした面持ち。


 厳しそうと言った言葉が実に似合いそうな感じの美人教師さんが俺と真緒の前でスマホをこちらに向けて今から尋問が始まるのか、そう言ってしまう程の雰囲気を漂わせている。


 これからお説教タイムだろうか…真緒との旅行早々楽しい思い出だけでは終わりそうにないな、そう思いながら先生に近くのカフェへと連行されるのだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


次回:第47話 健一さんと花の道②


応援、☆☆☆レビューよろしくお願いします!励みになります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る